表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

気がかりなこと

作者: euReka

 ぼくは自殺をするためにビルの屋上へのぼった。屋上の錆ついた扉を開けると空が青かった。なぜかビキニ姿の女が屋上で日光浴をしている。女はぼくに気付くと体を起こして、サングラスを外した。

「あなた自殺するの?」

「まあね」

「あいにくだけど、自殺を止めるのがわたしの仕事なの」

「仕事? ぼくには関係ないね」

 ぼくは女にかまわずビルの屋上から飛び降りた…。

 それからしばらくの間、ぼくはクラゲのようにどこかを漂っていたような気がする。でもふいに風を感じて目を覚ますと、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた…。

「残念だったわね」

 さっき屋上にいたビキニの女が、砂浜に寝そべってぼくを見ていた。

「こっちに来て、一緒にビールでも飲まない?」


 ぼくは女と結婚して浜辺に小さなホテルを建てた。週末や夏休みになると客で賑わった。ある年、客も少なくなったシーズンの終わりに一組の老夫婦がホテルに訪れた。夕食後、老紳士から酒に付き合ってくれないかと誘われた。ぼくはいいですよと答え、老紳士を浜辺の見えるテラスに案内した。

 老紳士とぼくはウイスキーを飲みながらありふれた世間話をした。それからだいぶ酔いがまわってきたところで、老紳士がある話を切り出した。

「実はね、知ってるんだよ。私も君と同じなんだ。つまり失敗したのさ。自殺を」

 ぼくは耳を疑ったが老紳士はかまわず話を続けた。

「私の妻はあの時の女さ。あのビキニ姿の。まさかこんなことがあるとは夢にも思わなかったよ。君もそう思っただろう? あれはいい女さ…。実はね、世間には君や私の同類がたくさんいる。でもお互い相手に気付いても声を掛けることはほとんどない。みんな過去を思い出したくないんだね。本当は私も、君にこんな話をするつもりはなかったんだが…、歳をとったせいかな、つい話したくなったんだよ」

 老紳士はしばらく黙り込んで遠く眺めていた。ぼくには彼が、泣いているように見えた。

「私と妻の間には娘が一人いてね。妻に似たかわいい子だったんだが…、大学生のとき、夜道で男にレイプされて、そのあとノイローゼになって自殺してしまったんだ…。私はいつも考えるんだがね…、娘も君や私と同じように、白い砂浜でいい相手と出会えたんだろうか? そのことが気がかりでならないよ…」

―end―


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ