2.その男、女
翌朝、目を覚ました俺は、妻の作った朝食を食べていた。
「あいつ、どこで何をしてるのかしら」
妻が俺のことを考えながらそう言った。
「今まで外泊の時はメールくれたのに……」
忘れていた。
「ママー」
健太という男の子がやって来る。
俺と妻の子だ。
「このおばさん誰?」
「おばっ!?」
「ああ、おはよう、ケンちゃん。この人はパパの妹さんなのよ」
「聡美って言うの。よろしくね」
「健太だよ。よろしくね、聡美おばさん」
おばさん。間違っちゃいないが……。
「健太くん、私のことはお姉さんと呼びなさい」
「うん、わかった」
「それじゃ、健太くんは学校ね」
「聡美お姉さんは?」
「私はフリーターよ」
「フリーター? 仕事してないってこと?」
「まあ……そんなことはいいから、早く食べて行きな」
健太が食事をして学校へ登校していく。
俺も朝食を摂ると、家を出た。
もう一度あの店の前に行ってみるが、建物はなく空き地になっていた。
「え?」
なぜ店が?
俺は周辺をくまなく探したが、しかし、店はない。
どこへ行ったのだろうか。
どうしたものかと考えていると、目の前に忽然と建物が現れた。
「うわ!」
びっくりした俺は腰を抜かした。
「これはこれは、桂木様」
「今、何が?」
「失礼しました。ちょっと未来へ行ってたものでして」
「未来? ひょっとしてこれはタイムマシンか何か?」
「ご明察。この店はタイムスリップができるのです」
「そうですか」
「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「俺の本体はどうなってるんですか?」
「コールドスリープカプセルに入ってますよ」
「凍結されてんの?」
「はい」
「いつでも戻れるんですか?」
「もちろんです。戻られますか?」
「いや、まだいいです」
「そうですか。それでは、私は過去に行かなくてはならないので、失礼」
店員はそう言って、店に戻ると、建物ごと消えてしまった。
「そんなところに座り込んでどうしたの?」
学生服を着た男子が声をかけてきた。
腰を抜かしていたのを思い出した。
俺はすっくと立ち上がって言った。
「何でもねえよ」
「俺、山田 健二。君は?」
無視して歩き出す。
「待ってよ。名前だけでも教えてくれたっていいじゃん」
立ち止まり、答える。
「聡美……桂木 聡美」
俺は再び歩き出す。
健二が頬を赤らめる。
「君、もしかして男?」
「え?」
立ち止まって振り返った。
「ここに用があったんでしょ?」
健二が店のあった場所を指差した。
「俺、元々は女だったけど、ここで男になったんだ」