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魅了魔法しかない序章8

僕たちは依頼人のリリーシャ夫人に指示された場所で草むしりをしていた。慣れた手付きで僕は生えている草を抜いていく。キースたちも黙々と作業に取りかかっている。しかし、その最中である。


ダースは草むしりをしていなかった。


リリーシャ夫人曰く、ダースはこの街を治める領主の息子ということで草むしりをしてもらうわけにはいかないとのことだった。


そこは一言でも冒険者として依頼内容にそぐわないことをするわけにはいかないと言ってほしかったのが本音だ。でも、ダースはそれを一つ返事で快諾した。


同じパーティーで仲間ではあるが、知り合ってまだ一日しか経っていないし、物申すには時間が足りない気がした。


それにリリーシャ夫人に僕は「貴方はこの方が街を治める領主のご子息様と知って敬意を払う言葉遣いをしないのですか?」と追い打ちをかけられたほどだ。この街の冒険者ならば、敬意を払うのが流儀なのだろうか。


作業をしている僕にキースが草を抜きながら話しかけてきた。


「アレもダースと誰も組みたがらない理由さ」


小声で言うキースの顔を見ると呆れてるようだった。


「あまりこっちを見ない方がいい。作業をサボってると思われるぞ。手を止めないで小声で話をしよう」


「なるほど、分かった」


「お前はダースの態度を見てどう感じたんだ?」


「本音は言わなくても分かってると思うけど……。

この街の領主の息子ってのはそんなに慕われてるの?」


「さあな、まだ息子は表に出てこないからな。ダースくらいだ、表に出てきて冒険者をしているのはな」


「そう、で領主について知ってる?」


「……。まあいい、領主なら冒険者にも人気があるし上手く貴族の手綱を握ってるようだから比較的安定しているな。そんな領主に取り入りたいから息子がどんどん厚待遇になっている……ように見える」


領主について聞いたときのキースの初めの沈黙は世間を知らなすぎる僕に呆れているような表情だった。仕方ないじゃないか、村から出れなかったし、僕の存在自体もステータスゆえに隠されていたのだから。


「そうなんだ。なら、いいや。まだ知り合ったばかりだし様子を見ることにする」


「そうしてくれ、あわよくばナナシがダースの手綱を握ってくれるくらいになってくれると助かるんだがな」


「それは期待しすぎじゃないかな」


僕はキースの瞳を観察する。


何かを企んではいるけど、それは僕に害意を及ぼす類いでは無いみたいだね。日頃から大人の顔色を伺っていたからぼんやりと見えてくるのが、本音に近いものだと気付いたのはいつだったか。


「っ……!」


キースは何故か体が動かなくなるものを感じた。


「(これ以上目が合うのは危険だと本能が告げてる!それにナナシは人を視る目に長けているのか!嬉しい誤算だな)」


観察されたことに気づかれたみたい。少し喜色が混ざったのが不思議だけど、気に入られてるの……かな。まさかね。


「あまり、調子にのらないでね」


ふわっと体に熱がこもるのを感じた。それがじわじわと目を暖めていく。それはそのまま、キースと交差してる視線に力が籠り始めてーーー。


「ちょっと!貴方たち!サボってないで仕事しなさい!」


「ーーーっ!?」


「(危なかった……、嬉しい誤算が増えてくな)」


僕は自分の体が別の何かに乗っ取られていたように、急に自分の感覚が手元に帰ってきたように。


リリーシャ夫人の喝で目が覚めた。


「すみません!すぐにします!」


「目を離せばすぐにこれだから、全くもう!それでですね、私のーーー」


リリーシャ夫人は叱り終えるとすぐにダースとの歓談に時間を戻した。


ダースとそのときに目があった。


黒が渦巻き状にねっとりと回るソレは不快感を示していた。


僕はキースに一言詫びると違う場所で草むしりをし始めた。


去り際にキースから「なんだ、魔法が使えるのか」と放心しながら呟くソレが気になって誰もいないのを確認してステータスを開いた。そこには、見覚えのない項目が増えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【魅了魔法】

熟練度(1/100)

【魅了スキル】

・魅惑の眼

一定時間の視線を交わした者の動きを止める。

・威圧(小)

相手を怯ませることが出来る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ど、どういうこと?」


まさか、勝手に発動した?そんなことあるの?魅了スキルってなに?ステータスってどうなってるのか知らないな。


冷静に、冷静になるんだ。


とにかく、今は草むしりをしよう。


こうして一日目の草むしりは終了した。




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