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初めてのダンジョン

披露宴から二ヶ月。俺達は城の外にいた。

「武器は持ったし、食料、回復薬系は安司に持たせたし…よし、カール隊長の言っていたやつは全て持ったな。」

ブツブツ言いながら振り返ると二人はグッタリしていた。

「サ、サンソン副長め…出発直前までしごいていくなんて…」

「あれは人間の形をした化け物だぜ…」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれから俺たちと光季達は王国騎士団と訓練をしていた。

「これより、皆さんには戦闘訓練の基礎を学んでもらいます。みなさんはモンスターとまだ遭遇どころか知識も知らないようなので、モンスターの予備知識とともに、弱点や有効打を中心に学んでいただきます」


騎士団長であるカール団長は穏やかな物腰で言った。


「では早速、モンスターと言うのは………」

「すみません、ちょっと聞いてもいいですか?」

「ん?なんでしょう」

「その知識は書物になっていたりしますか?」

「ええ、なっていますよ。国の研究者たちが威信をかけて作った書物がたくさんありますよ」

カール団長は少し驚きながらも、丁寧に答えてくれた。

その言葉に、俺達はニヤリと笑った。

「その本、借りれませんかね?」




「こりゃ驚いた………」

カール団長が唸るのも無理はない。

俺達はモンスターの知識が書かれた本の表紙をサッと撫でるだけでその本の内容を暗記できていた。スキル『速読』のおかげだ。

このスキルは情報として脳に送られるときに映像として送られる。だから書物を読むだけではわからない、モンスターの形や特徴をはっきりと覚えられた。

このスキルのおかげでモンスターの知識だけでなく、剣の振り方や、簡単な魔法なども覚えられた。

「これなら、ダンジョンに行くまでの期間を大幅に短縮できますね。

今ここでできることはこれで終了です。

あとは外に出て訓練を積みましょう」

よーし、この調子で『速読』のスキルを使えば一週間でダンジョンに行ってやるぜ!







と、思っていた時期が私にもありました。

剣の持ち方は知っていても剣を持ち上げられない。

剣の振り方は知っていても剣を振れない。

剣の型は知っていても途中でばててしまう。

魔法の知識は持っていても魔力が足りない。


つまりは、完全なる体力不足だった。

「これは………本当にヤバイですね」

芝生の上にぶっ倒れている俺たちに、実技担当のサンソン副長も思案顔だった。

「このままではダンジョンに行くのは無理ですね………」

「ふん。そんな体力でダンジョンに挑むのが間違いなんだ」

同じ訓練を受けていたボンボンが呟く。

「この世にはな、才能っつーのがあるんだよ。勉強も才能、スポーツも才能、人の上に立つのも才能だ。さっきのやつは驚かされたが、お前たちには決定的に足りないものが沢山ある。さっきの能力使えばここでもそれなりの仕事ができるんじゃないか?諦めろよ、ダンジョンに行くのはよ。」

ボンボンは慰めの言葉とともに俺たちの肩を叩いた。





だが、俺たちはボンボンの存在など無視して、サンソン副長の足にしがみついた。

「でも、どうしてもダンジョンに行きたいんです!どうしても!」

もはや俺たちはラスト前イベントの事よりもダンジョンに行くことに固執していた。ここまで来て、引き返すなんてとんでもない。

「お願いします!なんでもしますから!」

己の口からとんでもない事を言ったような気がしたが、そんなことにかまっている暇はなかった。

ボンボンが言っていたのは確かに正しいし、その言葉に従ってしまいそうな自分がいたからだ。



「ん?今何でもって言いましたね?」

へ?

サンソン副長の問いかけに、カール団長は空を見上げた。

「分かりました。私が全身全霊を持って貴方達を鍛え上げましょう。そこまで言われたのならしょうがない。ですよね?団長?」

団長は俺たちに憐憫の目を向ける。

ニンマリとした副長の顔から、今後の地獄を予想することは、比較的簡単だった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あれは忍、お前がはっちゃけるから」

「何だよ、何が悪かったんだよ」

「お前が『妥協』と言う言葉を聞く度に訓練の量を増やすから副長のテンションがめちゃくちゃに上がってしまうんだよ!」

「しょうがねぇだろ!妥協って言葉を聞くと条件反射的にああなっちまうんだよ!」


俺と安司の醜い争いの中、遼はぼそりと呟く。

「ダンジョンについたぞ。」



筋肉痛に悩む腕を振り回しながらも、ようやくダンジョンにたどり着いた。

「みんな、武器は用意しとけよ」

遼の言葉に、それぞれ武器を握りなおす。

結局、俺たちが持つことを許されたのはいくつかの武器だけだった。

俺は片手剣と盾、短剣二本。

どれも初心者用の簡素なやつだ。

遼は魔法の杖。三人の中で特に体力がなかった為、魔法使いとして働いてもらっている。

そして安司は………


「………何持ってんの?」

「………弓」

「………他は?」

「………ない。」


体力以前に能力値が極端に少なかった安司はどうしてもパラメータが足りず、弓しか持たせてもらえなかった。

基本的にダンジョンは狭いので、普通は弓は使えないと言われているのに、だ。

「ま、まあ俺の真価はこれじゃないし?色々やりがいはあるし?」

冷や汗を浮かべながら喋る安司は滑稽でしかなかった。



「と、とりあえず行くぞ」

停滞していた空気を突き破るように安司は動き出す。



数分後、ダンジョンの中を歩いていると目の前にウサギが飛び出してきた。

「! 戦闘準備!」

ウサギは普通のウサギと外見はあまり変わらない。ただ頭の先に角がついているのがモンスターとしての存在感を醸し出している。

だが大きさは違った。大型犬ほどの大きさで、前足も人間の太ももと同じくらい大きい。突進されたら大ダメージを食らってしまうだろう。

ダンジョンに入ってから初めての戦闘に、俺たちは少しビビっていた。


「クソっ、お前ら!ちゃんと訓練通りに!行くぞ!」

そう言って俺は前へ飛び出す。


ウサギは突っ込んできた俺にターゲットを絞ったようだ。俺に向けて角を突き出す。

対して俺は突き出してきた角をこするような角度で盾を繰り出して回避したあと、ウサギの首のあたりを片手剣で切りつける。

目を向いて痛がるウサギから素早く退避し、次の攻撃に備える。

大きく息を吐き、体制を整え直した。よかった、ファーストコンタクトは上々だ。



俺の攻撃方法は簡単。ヒットアンドアウェイ。

相手が攻撃にする際に作る『タメ』を見極め、その瞬間に攻撃を繰り出す。

強くなくていい。ほかの二人に注意を向けないよう、最前線に居続ける。

後方支援になってしまった二人のためにしなければならない、俺のノルマだった。


ウサギを怒らせ俺がタゲを取り続けて時間を稼いでいる間、後ろでは遼が魔法の詠唱をはじめていた。

今、俺らの中で最大火力を誇る遼の魔法は、詠唱に時間がかかる。

「ぐっ!」

ちらりとよそ見してしまった俺は角による足祓いを受けてしまった。

攻撃のリズムが崩れたせいで、ウサギは姿勢を低くして大きくタメを作り始めた。まずい!


「ギャウッ!」

その瞬間、ウサギの目に矢が刺さった。

安司の後方支援だ。俺は一旦下がり、安司に任せる。

安司は決してウサギに近づかず、離れた位置で攻撃している。

相手の初動を見極め、ピンポイントに攻撃するため、ウサギも中々攻めにくいようだ。

この間にさっき受けた足祓いでできた傷を見ておこう。

足を見てみると、角で裂かれた傷が血を流していた。割と深いようだ。

見回してみると、さっきまで安司がいたところには回復薬が置いてあった。


こういうところはほんとに恐ろしいところだよな…


安司はいつも俺と遼をセーブする役割を持っていた。そして戦闘においては、俺たちの潤滑油として働いていた。

なので俺が前に出ている間は遼が魔法を撃つまでの盾として、俺が疲れたら代理で前線を引き受けたり回復薬を手配したりと、あらゆる面に対応してもらっている。


俺が治療している間、安司は前線を守ってくれていたがそろそろ安司も一人で前線を保つのは難しいようだ。早く変わってあげねば。

俺も回復薬をさっと飲み、前線に走る。

「こっちだよっと!」

油断しているウサギの背中に刃を叩き込む。サンソン副長から譲り受けた片手剣はウサギの毛皮を容易に切り裂く。


そのまま数分間ほど前線を守り続けると、

「できたぞ!」

と叫び声が聞こえた。

遼の掛け声に俺たちは目配せをし、バッと散開する。

遼は静かに手を前にだし、標的にあわせる。

「いくぞ…ファイアボール!」

その魔法は、標的を燃やし絶命させた。



「おーい、さっさとしろよー」

安司の声に、へーい、と答えながら死体の前に立つ。

その後数回モンスターとエンカウントし、一回休憩を挟もうということになった。俺はその前に一仕事だ。

遼と安司が休んでいる間に片づけてしまおう。


『剥ぎ取り』にはいくつかの条件がある。

モンスターには各部位に統括部があり、それがそれぞれの部位を支配している。

その支配範囲を傷つけてしまうと、ドロップ品として使い物にならなくなるのだ。普通ドロップ品がモンスター一体につき数個しか取れないのは、一箇所ののドロップ品を取るために知らず知らずのうちにほかの部位の統括部を傷つけ、ドロップ品として使えなくなるからだ。

この範囲は個体差や種族差があり、初心者では全く分からない。五体も倒したのにドロップ品が一個もない…なんてのもざらだ。

取りたい所のドロップ品をとるには、同じモンスターで何度も失敗し、繰り返しチャレンジするしかない。つまり、経験値が物を言うのだ。



だが、俺のスキルには関係ない。


俺は死体を凝視し、スキルを発動する。

すると死体に線が浮かび上がってきた。その線に沿って短剣を入れ始める。

俺のスキルは『完全解体』。剥ぎ取りに関するスキルだ。この能力は各部位の統括範囲を示してくれる。

つまり、切るべきところが線となって浮き出てくるのだ。

この線通りに剥ぎ取れば、全てのドロップ品を手に入れられるということだ。

さらに切る際にもスキルの補正がかかるので肉がなんの抵抗もなく切れていく。スキル様万々歳だ。

ただ、今のところ死んでないとその線は浮かび上がらないし、その個体が持っている素材以上を作り出すことはできないので、そのモンスターから取り出せる中での最高値のドロップ品となる。だから低レベルの一角ウサギから、高レベルの一角ウサギから取れるドロップ品は取れないというわけだ。


「うぉーい、安司ー」

俺は剥ぎ取ったドロップ品を安司にぶん投げる。

「へぇーい」

するとドロップ品が安司に触れると消えてしまった。

安司のスキルは収納系スキルだ。安司が触れて念じるだけで安司の持つ異空間に飛ばされる。中では時間は経過せず、熱量も保てる。しかも収納量は無限大と来たもんだ。

とある有名な青狸のポケットに似ているが、唯一できないのは生命体を入れること。つまり俺たちが入って色々いたずらもできないのだ。

だがダンジョンではその制約はあまり気にしなくていいので、回復薬やテント、ドロップ品などの持ち物を全て突っ込んでいる。

異空間に送るだけなので、安司自体は重さを感じないし、便利な荷物持ちになっていた。おかげで俺たちはほぼ手ぶらでダンジョンに入れるのだ。


すべての素材を回収し、周りに散らかった血や骨なんかをそのままにしておくと、地面の中に沈んでいく。ダンジョンが後処理をしているのだ。


今回俺たちがダンジョンに来ている理由は、王国騎士達からの依頼だった。

俺たちが召喚された国のトゥアール王国は国が管理しているダンジョンがいくつかある。

なぜ国が管理しているのか?という疑問に答えるのは簡単だ。


それはダンジョンが生きているからだ。


ダンジョンはそれぞれ自身の魔力を分け与える能力を持っていて、ダンジョン内にいるモンスターに分け与えているのだ。何年もダンジョン内にいるとそのモンスターは強くなり、やがてボス級モンスターになる。それによりダンジョンからの供給も増え、より強大な強さを持つようになる。

ダンジョン自体も、ダンジョン内で死んだモンスターや冒険者の死体から魔力を生成できる。

だからダンジョンは外からモンスターを呼び寄せ、モンスターはより強くなるためにダンジョンに入っていくというwin-winの関係なのだ。

だからダンジョン内は普段よりもモンスターが多く、より強いのだ。


では、モンスターの被害を受けないようにするにはどうすればいいだろう?


ダンジョンの機能を停止させることはできない。だから人々は度々ダンジョンの中にはいり、それ以上強くならないようにモンスター狩りをし、強さをリセットさせる。


今回は、その役目をするために俺達が呼ばれたのだった。

俺たちは一旦点呼を取る。

「今まで傷を受けた人ー」

「俺ー」

「お前はよそ見しすぎだ馬鹿」

「アイムソーリー」

気だるげに言っているが、あまり疲弊の色は見えない。サンソン副長の訓練の賜物だった。


「遼、今どこらへん?」

俺の問いかけに、遼は少し黙る。



遼のスキルは『世界検索』、その名の通り検索出来る能力だ。

人が一度見た物や得た知識ならば、全て知ることができる。失われた財宝のありかや秘伝の巻物など、人々が喉から手が出るほど欲しいものがほぼ手に入る、チートの能力だ。これがあれば秘伝の巻物なんかいらない。



ただ、巻物の知識は得られるが、その巻物を手に入れることによって得られる能力はもらえない。あくまで知識だけだ。

さらに生体的な知識、つまりどこに誰がいるかなどはわからない。

それでもとんでもない力だがな。


今はこのダンジョンのマップ(何度も人が入っているので、もう既にほとんどマッピング済)の確認などをしてもらっている。

他には、俺が飲んでいた回復薬の製造なんかもやっていた。



ある日、道端に大量に生えている雑草を取って戻ってきた遼は

「この薬草の価値も知らずに放置しとくとは何たる侮辱」

と怒りながら部屋に篭っていた。

数日後、部屋から出てきた遼が手にしていたのは一つの薬だった。


いわく、太古の時代に作られていた、ダンジョンの秘宝級の薬らしい。

俺たちはこれを大量生産し、安司に持たせている。

俺達が未だに元気なのも、この薬のおかげだ。



遼は顔をあげ、

「今はボス手前の最後のボーナスルームだ。この道を抜ければボス部屋にたどり着く」

と言った。

ボーナスルームとは、ダンジョンが取り込んだモンスターや冒険者の死体のうち、魔力変換できず、不要になったものが吐き出された所のことだ。

モンスターが持っていたと思われるの強い武器や冒険者が着ていた高級な鎧や回復薬など、思わぬ強力なアイテムが手に入る。


でもまぁ要するにそのアイテムってダンジョンのウンk(ry


気を取直して。遼が言った言葉に、俺達はニヤリと笑う。

「と言うことは………いよいよか」

「ああ、楽しみだぜ」


全員が立ち上がり、歩き出す。

ボス部屋への扉は、もうすぐそこだった。

どうも。タバサです。


突然ですが、重大な発表があります。


大井嫌人さん、連載やめるそうです。


二ヶ月ほど出していなかったので薄々気づいていましたが、本人にやらないの?と聞いてみると「もうやらね」と言っていました。

私も続編楽しみにしていたのでとても残念です。

なので今日から私が本編です!

嫌人さんの許諾も得たので存分にはっちゃけちゃいますよ!


ちなみに、嫌人さんはもうすぐ掲載していたものを削除する予定らしいので、読みたい人はお早めに!




さて。つぎは今後についてです。

嫌人さんの原作もなくなってしまったので、ここからは私の妄想の世界となります。

ここで私のポリシーをお話しておきましょう。




私の書くものは

チートであって万能でなく、

無双であって無敗でない。




です。

私はなんでも解決してしまう主人公や、負けることがない主人公が苦手です。状況の高低差がないというのですかね?適度に苦しみも味わって欲しいのです。そうしてこそ勝利した時の達成感があるのです。

わたし自身が鬱ゲーやトラウマゲーなどが好きなせいか、今考えているシナリオもバットエンドになりそうな感じです。したくありませんけど。


そんなわけで、主人公には負けて欲しくない、なんて言う人にはごめんなさい。悲しいシーンなども私の作品には含まれると思います。大したことはないと思いますがね。


私だってバットエンドにはさせたくないですよー。


こんな作品でも良いという方は、今後も投稿していくつもりなので応援宜しくお願いします。


あと、私のシナリオと嫌人さんのシナリオには結構誤差があるので、残念ながらもう登場しないキャラも出てくると思います………かわいそうに。

どっかちょい役ででも出そうかなとは思っているんですが、なかなか難しいもんですね。



あ、そうそう今後出てくる新しいルールがありますので先に伝えておきます。


◆◆◆◆◆◆

これは時間軸や場所が変わるときに使います。懐古シーンなんかによく使われます。



★★★★★★

主に視点が変わるときに使います。忍視点から客観的視点だったり、ほかのキャラの視点に変わったりなどです。



と、二つのことです。

今後出てくると思うのでそこらへんを注意してもらえれば。



ではでは、今日はここら辺で筆を置かせてもらいます。

また次回も見てもらえると大変嬉しいです。



P.S.もはや二週間も遅れたことには触れもしなかったぜ。

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