披露宴での出来事
「おはようございます、忍さん。そろそろ披露宴の準備を………あら安司さん、遼さんも。お揃いだったんですね。
ってあれ?みなさんお疲れのようですが………」
神様からプレゼントを貰い、しばらくすると、姫様が起こしに来てくれた。
その時に三人ともグッタリとしていたため、少し驚いていたようだ。
それもその筈。俺達はあのプレゼントを貰った時に自動的に『速読』のスキルが発動していた。
つまり、思い出すだけで冷や汗が止まらなくなるような恥ずかしい黒歴史本を、隅から隅まで余すことなくじっくりと読み直すことになったのだ。
その時の情報量たるや。
自分の思い出と拙い字や絵が化学反応を起こし、発狂しそうになるのを、一瞬で脳の中に叩き込まれるのだ。本当に失神するかと思った。
くそっ、何が期待していいだ!俺たちにとっては触れただけで即死モンの爆弾じゃねーか!
あんな神様信じるんじゃなかった!
「おい、お前のその………どうだった?」
「てめぇ、自分のはどうだったんだよ。知りたきゃまず自分のを差し出してからにしな」
「「「………」」」
誰からともなく、お互いの能力を確認することになった。一刻も早く自分の記憶から逃げ出したかったし、元々そうするつもりだったな、ということで黒歴史本を交換することになった。
考えが甘かった。
安司に本を貸した瞬間、あいつは身悶え始めた。不思議に思って遼の本に触れると、理由がわかった。
内容を理解してくる過程で、遼がこの本を書いていた瞬間が見えるようになるのだ。自分と同じような考え方や、自分だったらこうするな、などおと思う度に自分の過去がトレースされ、猛烈に恥ずかしくなるのだ。これは………耐えられない。
息も絶えだえに一冊を読み切ると、二人はそれぞれ同じような表情で見ていた。
もう見たくない。やめてしまいたい。
二人の表情が雄弁に語るが、止まるわけには行かない。俺達は勇気を振り絞り、残りの本に手を伸ばした。
その結果が、この有様だった。
ベッドに倒れ込み、うつろな表情をし、時々思い出したかのようにジタバタと暴れる。さながら精神疾患を患っているかのようだ。
流石の姫様もたじろぎ、
「ふ、服はここに用意しておきますね。遼さんも安司さんも各自の部屋に用意してありますので、着替えたらわたし達の所に来て下さいね」
と言ってさっさと出ていこうとした。
「姫様」
「は、ハイっ?!」
遼、なんてドスの聞いた声を出すんだ………姫様ビビってんじゃねーか。
遼も少し赤面して喉の調子を直し、少し柔らかく言った。
「敬語」
ちょ、おま、一言かよ。やっぱ口下手だなぁ………
しかし姫様は一発で分かったようだ。
「ああ、そうだったわね。ごめんなさい、遼。気づかせてくれてありがとう。
じゃあ着替えたら大広間来てね」
そう言うと微笑みながら部屋を出ていった。姫様はホントいい人だなぁ。
遼は満足そうにため息をつくと、
「着替えてくる」
と一言つぶやき、部屋を出た。それを合図に、それぞれの仕度を開始した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
披露宴には城の高官らが勢ぞろいするらしい。この近くの国の高官も集まり、救世主様の到来を祝うつもりらしい。
………と言うのはお膳立てで、実際は救世主へのおべっかに過ぎない。顔を覚えてもらって、何かと幅を利かせたいのだろう。
姫様が来る前に俺達三人と光希達は合流をした。既に救世主の噂を聞いていたのか、光希の周りにはすでに沢山の役人たちが挨拶にやってきて
いた。みんな下卑た顔をしてゴマすりをしている。
ウゲェ、俺はあんな奴らが嫌いなんだ。
俺達が近づくと、役人達はゴマをするかのように俺達に近寄ってきた。
「ははぁ、貴方達も救世主ですか!いやぁさすが神様に選ばれた御方だ!何と言うかこう、素晴らしく凛々しいじゃないか!」
こいつ………ほんとにそう思ってんのか?
ここに来る前にも黒歴史が思い出されて発狂しまくっているので髪はボサボサ、服はヨレヨレ、さらには昨日からほとんど寝ていないため目の下にクマができている。迎えに来ていた本職のメイド(!)さんも「………ハハ」とひきつった笑いしか取れていなかった。
俺がメイドさんを見つけて興奮できないのはよほど精神的に参っているとしか思えない。
「さて、貴方達はどんな特技があるのでしょう?不肖ながら私たちにもお教え願えませんかな?」
役人の言葉にハッとしながら答えようとする。
「あの………えっと………」
ああ、俺がボーっとしていたから遼が答えようとしてくれたのか。だが人見知りだから声が出てないな。
「すみません、その人達は冒険には出ないんです。保護してもらうつもりで………」
その間に、光希が取りなしてくれていた。役人達は俺達が何も役に立たないとわかると、さっさと見切りをつけて去っていった。去り際の侮蔑の表情のおまけ付きで。
いやまぁ分かってますけどね。俺たちが使えないのは。
その時のボンボンの見下しきった目と、金魚の糞のあざ笑う声が、どうしても耳に残った。
そんな風に思っていると、急にしん………と静まり返った。
おお、これは王族の方々のご登場か。
聞いた話によると、今日は王様も王妃様も大層忙しく、王女様だけのご登場だとか。
となりでコソコソ話していた御婦人達の方に耳を傾けていると、扉の方から声が響きわたった。
「王国の王女、トゥアール王女が参りました!」
その声と共に現れた姫様は、美しかった。
きらびやかに着飾ったドレスは、姫様の美しさを引き上げていた。歩く姿は優雅で、きらめく肌は透き通るように白かった。少し伏せた目は、この場にいるすべての男性を虜にするだろう。
王女なんて姫様しか見たことないけど、これ以上美しい王女様なぞこの世にはいないだろう。そう断言できるくらい、姫様は美しかった。
人々の感嘆とともに俺も見とれていると、
「………というように、この場に救世主様をお呼びすることができたのです」
話が進んでいたようだ。
目を向けてみると、さっき聞いた話のように、どうやら姫様だけらしい。どうしても外せない用事でもあったのだろうか。
姫様の話は佳境に入ったようだ。
「その戦いには、私もついていきます。この戦いで、魔王との決別を果たし、この国を人間の楽園へとするための聖戦に、皆さんと一丸となって挑みましょう」
姫様の声と共に、乾杯の音頭がとられ、宴が始まった。
宴は挨拶ばかりして食べるどころではない。俺の先入観(というかラノベの影響)は当たっていたようだ。
さっきも光希達は沢山の人達に囲まれていたが、姫様に救世主であることを公認されると、一気に倍以上の人で見えなくなってしまった。
かくいう俺も、救世主ではないにしろ、異世界人という珍しさからか、それなりの人に囲まれていた。
人見知りな性格の上、流石にこのような場では自分のスキルは発揮しにくい。
三十分ほどたった時には、俺たち三人はヘトヘトになっていた。
しかし、光希達は全員一回も休んでいないのにまだ平気そうだった。日頃こういう挨拶に慣れているのだろう。ボンボンでさえも、何時もの意地の悪い笑みではなく、営業スマイルを全開にしていた。地味にすごいと感心できるところだった。
三人とも端っこでチビチビと飲み物を飲んでいると、目の前に姫様がやってきた。
「さて、三人とも今後のことについて決めたのか教えてくれる?」
姫様はちょっと機嫌が悪そうに言った。
「ふう、なんであんなに人が多いの。私の披露宴じゃないのに、私にまとわりついてどうするのよ!」
ははは、普段慣れている姫様ですら、あの混雑はちょっと愚痴をこぼすくらい疲弊するらしい。
俺らを代表して安司が話始める。
「俺達は………この城のお世話になります」
「そうですか………」
姫様はホットした表情になる。
続けて俺も話し出す。
「それと、ひとつお願いがあるんです」
「ええ、なんでも言ってください」
ん?今何でもって言ったよね?
そう返さざるを得ないようなネタに、俺らは若干ザワつきながら、なんとか返事を返す。
「え………と、取り敢えず、俺達も最初のうちは冒険に同行してもいいですか?」
俺達が新しい能力を手に入れ、のたうち回る前。ひとつの可能性について真剣に話し合った。
それは最終クエスト前イベント。
今までの状況はゲームやラノベなんかで見てきた状況そっくりだった。
このまま行けば救世主御一行は覚醒イベントや負けフラグなどを通って魔王までたどり着くのだろう。
その中で起こる確立の高いイベントの一つが最終クエスト前イベントだ。
これは救世主御一行が辿り着く前に世界の破滅が始まり………と続く世界中に影響のあるさつりくイベントで、主に登場人物の思い出の深いところで起こりやすい。
つまり、この城だ。
となると、少なくともその影響を逃れるくらいには強くならなければ………とののが俺達の任務だった。
まあ、ただの保険なんだがな。取り敢えず、やっとく方が安心出来るし。
「少しの間だけでいい。でしゃばりはしないし、ちゃんと後ろに隠れてるよ。たまに雑魚モンスターを戦わせてもらえれば何も言わないよ。少しレベルが上がったらさっさと城に引っ込むよ」
「ですが………」
姫様は不安なようだ。
「それに………俺たちが役に立たないとは言っていないぜ?」
俺達はニヤリと笑っていた。
「実はな………」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺達は創造神様と会った話をした。
え?もう一人いたろって?あんなん神様やない。ただのパシリや。
ああああああ思い出したら黒歴史がフラッシュバックしてててててててててててて
俺が悶えているのを見て二人もフラッシュバックしたらしく、三人でクネクネしてたら姫様に白い目で見られた………という恥ずかしい思いもした。
「取り敢えず、話はわかりました。神様に強力な加護を授かったんですね。でしたら、いっそのこと三人で行ったらどうでしょう?」
「へ?」
「この近くには比較的低レベルでも倒せるダンジョンがたくさんあります。この国の指揮下にあるので、危険もそれほどありません。騎士団の入団試験にも取り込まれているようなものまでありますし………レベリングだけだったら、そこでも構わないと思いますが、どうでしょう?」
なるほど、王国の経営するダンジョンか。
聞けば、ダンジョンというのは『生きて』いるらしい。
外部から強力なモンスターを呼び込んだり、内部でモンスターを生成できる。死んだ死体の回収などもしていて、ボス級モンスターを倒すことができても、また何十年もすれば生み出してしまうらしい(しかし、ボス級が生まれるのには相当魔力がいるらしく滅多に現れない)。
だから対策として内部のモンスターの力を調節し、武器などの素材を集めるために使っているらしい。
先程も言ったように、入団試験などを理由に内部の殲滅作戦なども行っているので、比較的安全でもあるらしい。
「そうだったのか………どうする?」
安司が頷き、俺たちの方を見てくる。その瞳はランランと輝いていた。遼もそのつもりのようだ。
「では、それで宜しくお願いします」
よし!そうと決まればダンジョン散策のためにいろいろと揃えるモノがある!
まず武器だろ、回復薬、食べ物それから………
俺達が肩を寄せあって話していると、後ろから声が聞こえた。
「あら?そんなすぐ行けるわけないじゃない。その前にみんな体力をつけなくちゃ!安司は特にね!
ということで、これからコウキ達と我が王国騎士団の基礎訓練に励んでもらいます!」
「………うっそ〜ん………」
俺達の冒険は、まだまだ始まらなさそうだ………
二週間先と言ったな、あれは嘘だ。
はっはっは〜今日はエイプリルフールだからね!嘘も許してくれたまえよ!
………というネタをやりたかったんだ。
なのになんでその日から一週間もたっているんだよぉぉぉおおお!
ということでどうも、タバサです。
本当は前回からこのネタをやりたくて、投稿後すぐに書き始めていました。
ですが、新学期舐めてました。仕事多過ぎ。
結局一週間と少しかかってしまいました。宣言通りにはできたから許してや。
さて、今回は嫌な終わり方ですね。しかし次回は「ダンジョンに行こう!準備編(仮)」ということで、物語は進み始めます。内部の時間的にはまだまだってことです。2,3話後くらいにはダンジョンに行く予定ですので、もう少しお待ちください。
さて、今回は前回の宣言通り、3人についてです。
忍
切り込み隊長。いつも三人を煽動している。
企画の提案、煽動などが主な役割。
実は遼と安司を引き合わせたのはこいつ。
三人の中で一番頭が悪く、なにか考えているようには見えないが、実際に何も考えていない。
結構なロリコン(二次元のみ)。二次元と三次元では嗜好が違う。
人の考えと少し違うところがあるせいで周りには変態だと思われがち。
言動が子供っぽいというか、子供。
こんなところでしょうか………
とある理由で、忍は何かと悪口になりがちです。その理由はおいおい話していくとしましょう。
さて、次回は一週間後位を目標に頑張りたいと思います(できるとはいっていない)。
しかし当初の予定にはないイベントをメインにするつもりなので、まだ頭の中にストーリーができてません(笑)
ま、おいおい頑張っていくさ………
今日はこの辺で筆を置かせていただいて、
次回でもまた会えることを楽しみにしております。
P.S.ついにオリジナルストーリー始動………!