新しい目的
とある朝。目を覚ました俺は、ゆっくりと周りを見渡す。
「あれ、どこだっけここ………」
見覚えのない天井。見覚えのない綺麗なシーツをかけられていて、ちょっと動揺している。まぁどちらかというと見覚えのない場所にいることよりも天井があることに驚いていた。何たって少し前まで天井のない場所で野宿を繰り返す毎日だったからだ。なれというものは怖い。
「う………ん?」
隣で大の字になっていた安司も起きてきた。同じく、天井をボウっと見てから、ハッとしてわれに帰っていた。そして俺が見ていたのに気付くと、照れたように頭をかいていた。
「やっぱり慣れないね。この生活」
まあな、と返した俺は遼の方を見る。遼は端っこの方でうずくまって寝ているが、俺達のうるささで目が覚めたようだ。
俺と安司はまた同じことが起こるのを期待しながら遼が起き上がるのを待った。
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トゥアール王国を抜け出して三日。俺達は移動を始めてから初めての街に到達した。
そこでは朝二度寝をしたり、うまい飯を食ったりただ爆睡したりのグータラ生活をしていた。
特に宛があるわけでもなく、差し迫った何かがあるわけでもないので、本当に自由気ままに過ごしていた。
三人とも遅めの朝飯(と言うか昼飯)を食べ、お腹を落ち着かせるためのティーブレイクなんかシャレたことをしながらだらけていた。
やっている理由はただ一つ………暇なのだ。
三人用の宿にしてはちょっと豪華な宿屋で額を突き合わせる。
ダンジョン攻略時、地下では鉱石が沢山あり、それをお金に変えていた。安司の四次元ポケットには限界がないので、戻れたら売ろうかなという安直な理由でポンポン突っ込んでいたのだ。しかも、姫様からもらった軍資金もまだ沢山ある。お金にはあまり困らない生活を送っていた。
「あ〜やる事ねぇなぁ〜暇だな〜。なんかおもしれぇ事無いの?」
退屈すぎて椅子をガタンガタン揺らしながら喋っていると安司が
「やっぱ目標ないとつまらないよね〜」
と同調してきた。
確かに、この世界に来た時には自分の能力を使ってダンジョンに行きたいと言う目標があったし、ダンジョン内にいる時には外に出たいと言う目標があった。しかし、今はそのすべてが叶い、やるべき事も目標もなくなってしまった。
「そっか、なら目標を決めようか!」
グダグダしているのもなんだし、と言う俺の言葉で、今日の目標は『今後の目標を作ること』になった。
「では早速、なにかやりたいことはある?できれば、この世界ならではの事がやりたいよな」
との言葉に、
「異世界旅行………は今やってるからね。ん〜………あ!ケモミミの少女に会ってみたい!」
「俺はこの世界のことをもっと知りたい。まだ誰も知らない神秘に会ってみたい」
「俺はやっぱり自分のスキルの向上かな。どこまで行けるのか知りてぇし」
安司、遼、俺の意見が出揃ったところですり合わせが行われる。
「ケモ耳少女ってあれか?この世界ではモンスターなわけだし、やっぱ秘境とか行かないと見つからんのかね?」
「たぶんね。まだそこまでわからないけど。
まだ人間の知らない神秘ねぇ。遼の能力が通用しないところってことでしょ?じゃあ人間がまだ1度も言ったことのない場所ってことになる訳だ。」
「そうなるな。そして忍のやつはレベル上げだろ?要するに。
………じゃあもう行き先は決まったようなものじゃねぇか」
三人はハァ、と息を吐いて言った。
「「「やっぱりダンジョンいくしかねぇか………」」」
ダンジョンは前回の1年間の生活のことを考えると
軽くトラウマになるくらいなので出来ればいきたくなかったんだけどなぁ………
「行きたくないなぁ」
「「だよなぁ」」
俺が率直な意見を言うと、安司立ちも同調した。
ただ、それ以外に三人の目標が叶う場所はなく、それ以外にやることがないのも事実なのだ。
「………どうする?遼」
「動くにしても動かないにしても、情報というものは大事だ。俺の能力はたしかに便利だが、万能というわけじゃない。『どこにダンジョンはある?』は分かっても、『どこに俺達の理想に合うダンジョンはある?』と言うのはわからないんだ。そういうのが分かるのはやっぱり生きた人の情報だ。だとしたらやることは一つだろう?」
遼の言葉に、とりあえず行くかどうかは置いといて、今から具体的にどうするかを決めるために情報収集でもしようか、ということになった。
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「近くにある王国のおかげでここら辺は安泰さ!ワシも別の場所からここに来たんだ。ここに店を構える時、近くにダンジョンがあるから不安だったさ。だが王国がダンジョンを管理してモンスター共を封じ込めてくれたから安心さ。地上にもモンスター共はいるが大した力はない。ワシらでも数が揃えばどうにかなるくらいだ。世界でもこんなに平和な土地はないんじゃないか?
こんな恩恵を与えてくれる王国に万歳!おら、お前らも飲め!」
おおっ!というのんだくれ達の歓声に包まれながら酒場のオヤジは締めくくる。昼間から飲みまくっているのは旅人か冒険者だろう。荒れくれものの匂いがする。これ以上いる酔いが回ったオヤジどもにと絡まれそうだったので俺はこっそりと抜け出した。
集めた情報をまとめてみると、トゥアール王国の賛辞ばかりだった。さっきの話のようにモンスターを狩っていたり、飢饉が起こった時には配給もされていたそうだ。冬の仕事のない時期はトゥアール王国で労働するヤツなどもいた。
まさに、至れり尽せりの状態だ。これも国王や姫様の人徳の賜物だろう。
「姫様、頑張ってんだなぁ………」
ポツリと呟くと、トゥアール王国のある方向を向いた。俺らが一年いなかった間、姫様が何をしていたのか聞いたことがなかったが、俺達が思っていた以上しっかりとしていたようだ。姫様はしっかりできるんだなぁと思いながら、俺達も負けちゃいられないと思い直し、家路を急いた。もう宿には別行動していた二人も情報を集めて帰ってきているだろう。
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宿屋の食堂に二人は既にいた。中は夕暮れ時ということもあり、喧騒としていた。一仕事終わった商人や旅して来た冒険者たちがビールを片手にガヤガヤ騒いでいるのだ。さっきの酒場もうるさかったが、こちらも負けてはいない。口々に乾杯と叫びながらガハハと笑いあっていた。
「で、どうだったんだ?何かいい情報仕入れることが出来たのか?」
遼が人の多さとうるささに顔をしかめながら聞いてくる。
俺が顔を横に振ると、安司はやっぱりかという表情になった。
「やっぱりそうか。俺達もろくな情報に出会わなかったんだよ」
話を聞くと、安司達が持ち帰ってきた情報も、ほとんどが『王国によって守られてるからダンジョンなんかの話は聞いたことがない』と言うものだった。
「収穫なしか………」
三人とも王国周辺の治安の良さは分かっていたが、今ここにおいてはそれが邪魔していた。
「どうするよ?このままここにいても多分情報は集まらないよ?」
「そうだよなぁ。ま、情報が手に入らないのはどうにもならんし、ほかの場所でトライしてみるか」
安司の問いかけに俺が答えるが、全員に落胆の色はない。どちらかというと、面倒臭いなぁという心境に近い。そもそも突発的に作った目標なので、もともとあまり期待していなかったのもある。ま、もうそろそろ別の街に行くつもりだったしなーと気軽に考えていた。
「君たち、ダンジョンに行きたいのか?」
するとそこへ、近くで飲んでいた冒険者らしき人物が近づいてきた。
三人は頷くと、座るように言った。その男は礼を言ってすわり、少し困ったように笑った。
「すまないね。そっちで仲間と飲んでいたら君達の話が聞こえてきたもので」
そう言って後ろを指すと、お仲間らしき人達がひらひらと手を振っていた。よく見ると全員若い。せいぜい二十代後半だろう。この宿に集まる人たちの殆どがおっさんどもなので、そのグループだけが場違いに見える(どう見ても最年少は俺達なのだが、そこはまあ、異世界人なのでノーカンということで)。全員で男3人に、女2人。袋や装備品の汚れ具合から見てもういくつかの街を渡り歩いてきた冒険者なのだろう。
「ああ、自己紹介がまだだった。僕はロレン。冒険者だ。
僕は冒険者チーム『夜明けの光』のリーダーを努めさせてもらっている」
そう言って握手を求めてくる。
ロレンは優男のような雰囲気の男だった。柔らかな表情の彼は、どう見ても強そうに思えない。リーダーというのも、光希のようなみんなに認められてリーダーを務めているというより、どちらかと言うとみんなに面白半分に祭り上げられてなったような感じだ。
そんな風貌を気にしてか、淡いオレンジ色の髪はツンツンと尖っていて、手の甲には刺青がしてある。
「あそこにいるのは僕の仲間だ。なかなか頼りになる奴らだよ」
笑って紹介すると、こちらに向かってきた。一人の女がロレンの横にすっと寄っていたということは、そいつらは付き合っているかなんかなんだろう。
どかりと座り込んだ団員の小柄で小太りの男は、
「俺達は色んな場所を回ってきたんだけどよ、ここまで治安の良い土地はないねぇ。酒もうまいし」
と言ってグビリとビールを煽る。
全員が揃ったところで、ロレンは話し始める。
「僕達が今から行こうと思っているところがあるんだが、そこがすごく難しいダンジョンらしいんだよ。今まで誰も攻略できたことのない、未開の土地らしい。
そこはなんか特定のモンスターの住処になっているらしくて、数も多い」
話によると、ここの街からそれなりに離れた、王国の力が届かない土地にそのダンジョンはあるらしい。曰く、そこはもともと未開の土地で、誰も行ったことはなかったようだ。それをこのグループは探検し、その最奥にダンジョンがある事を見つけたようだ。
しかしその時にはダンジョンがある事を知らなかったので軽装しかしておらず、食料も尽きかけていたので泣く泣く撤退してきたらしい。
「僕達は若い。そのことを馬鹿にされて功績をとっても、誰かの功績のおこぼれをもらったのだろう、などと揶揄されてきた。このことがどれだけ辛かったか………」
ロレン達は涙を流していた。喋るうちに熱くなるタイプなのだろう、周りがあまり見えなくなっていた。
その後もロレンの口上は続く。
「そのために今まで知らない土地を調べ、文書をあさり、情報に金を払った。騙されたり金をふっかけられたりしたが、それでもめげずに調べ、実際に見に行き、そして今!その努力が実ったんだ!」
よほど嬉しかったのか、拳を振り上げて声を張り上げている。少し酔いも回っているのだろう。
「未知のダンジョン、敵の量や種類のわからない未開の地。普通なら誰だって行きたくないだろう。だが、俺らなら大丈夫だ。これまでの血のにじむような努力と長い年月が生み出した熱い友情があれば勝てないものなど何も無い!」
仲間が賛同するように声を上げる。
そしてどうだ、とばかりにその笑顔を俺達に向けてきた。
「………うん、で?」
そんな中、俺らはしらけた目をして聞いていた。
ただの自慢のようにしか聞こえないし、死亡フラグ満載の口上にどう反応していいかがわからなかったからだ。
しかも、自分たちなら行けると豪語しているのになぜ俺達に話しかける必要があるのかも分からない。
そんな状態で戸惑っていると、ロレンは少し調子を崩したのか困った表情をして言った。
「いやぁ、僕達がいくら行けると言っても、不慮の事故が起こるかわからないんだ。どれだけ豪語していても、やっぱり僕達はまだ若いし。経験不足は否めない」
ロレンはテンションが上がると先程のように周りが見えなくなるらしいが、自分たちの立場をきちんとわきまえているようだ。自分のチームを鼓舞し、士気を上げ、不足をとったと思ったら迷わず助けを求める。リーダーとしての素質を持った人間だった。
「ダンジョンクリア出来るとしても、一人でもかけたら意味は無い。そこで、助っ人を用意しようと思ったところなんだ。見たところ、君達は僕らより若いし、装備も持っていない。
まだまだ駆け出しの初心者なんだろう?」
俺らの姿をチラリと見ながら言う。
「だから先輩としてダンジョンのノウハウを教えるついでに、僕達が君達を雇おうと思ってね。ちゃんと金は払うし、どう?やってみないか?」
などと言って右手を差し出してくる。
ロレンの言うことをまとめると、囮兼壁役が欲しいのだろう。言ってることが堂々としていることから、本当に助っ人が欲しいのかもしれないが。しかも、初心者の俺達を雇えば情報を持ち逃げされたり分前の話になったときに簡単にねじ伏せられると踏んでいるのだろう。
なるほど、世を渡る器用さも兼ね備えているようだ。このリーダーについていけば、このチームは将来強くなるだろう。
信用はできないが。
なぜ俺がロレンのいう言葉を悪いようにしか解釈しないのかというと、まだこいつを信用していないからだった。ロレンの言う通り、現在俺達は装備を一つも身につけていない。ほかの冒険者と違い安司は変身するし、俺も遼も自分でその場で作り出したり直接殴りあったりしないので装備は基本いらない。服装は村人と同じだ。情報収集する際にも俺達は冒険者だとはみなされなかった。ただの土産話が聞きたい奴だと思われたのだろう。
そんな俺達に冒険しないかと言ってきたのは、それだけの理由があるというわけだ。どんな理由があるのか知らんが、用心していた方がいいのは確かだ。
俺達を使ってやるなどという横柄さはさておき、ダンジョンの情報は嬉しかった。安司と遼の方を見てみると、二人ともやる気のようだし、断る理由がない。引き受けてみることにした。差し出された右手をつかんで握手する。契約完了だ。
ロレンはニカッと笑い、よーし、と気合を入れた。明日は準備だ、朝は早いぞ、と俺達に注意を向けてくる。
何はともあれ、何かしらの波乱万丈が巻き起こりそうな旅立ちが始まった。
どうも。タバサです。
さて、一応第二章というくくりをつけさせてもらいましたこの回。前回の続きじゃんと思った方も多いかと思いますが、まぁ私の中での区切りですので、気にしないでくださいという感じですかね。
ちょっと前の話を見返して、主人公3人組のしゃべり方の区別ついてないじゃん!と思ったので少しつけてみました。もっとはっきりとした区別つけるべきかなぁ………と試行錯誤中です。
さて今回嬉しいことがありました。
感想が届いたんです!
もともと書き専の私はほとんどホーム画面に戻ってこないので発見が遅れてしまいましたが、読んでみると暖かい言葉に感無量でした………ありがとうございます。そして返信遅くて申し訳ございません。
感想の一言一言が私のやる気になります。これからも長らくお付き合いできると嬉しいです!
この小説はまだまだ続きます。どんなに稚拙でも最後のエンディングシーンまでは届かせますので、気長に待っていてくれたら幸いです。
では短いですが今回はここで筆を置かせていただいて。
次回また皆様と会えることを楽しみにしております。
投稿日直前にデータがおじゃんになり約三千字の書き直し。バックアップ大切。




