雪の日
鬱陶しいアラームの音で目が覚めた。
まだ眠たい目を擦りながら、モゾモゾとベットから這い出る。
「…さむ…」
今日は、また1段と冷え込んでいるようだ。僕はブツブツと不満を漏らしながら、部屋のカーテンを開ける。
その景色に、僕は一目で驚いた。
空は灰色に濁っていて、静かに、雪を降らせていた。真っ白なその世界に、僕は思わず窓を開ける。
僕の地方では、雪というのは珍しいのだ。滅多にお目にかかれないその雪に、僕はすっかり興奮した。
「月牙?起きてるのか?」
ふと、ドアの向こうから聞きなれた声が聞こえた。兄の声だ。相変わらず早起きだなあ
「うん。おはよう」
返事をすると、兄は僕の部屋の扉を開けた
「月牙が起きてるなんて珍しいな。大半は寝坊するのに」
と兄は、意地悪な笑みを浮かべる。
「悪かったね。それよりさ、雪、降ってたんだね」
「あぁ。珍しいよな。あまりはしゃぐなよ?月牙」
「ちょっと、僕が遊ぶ前提で話を進めないで」
僕が反抗すると、兄はまたクスリと笑った。そして、朝ごはん出来てるから、とだけ言い残して、僕の部屋を出る。
いそいそと制服に着替えて、リビングへ降りた。朝食は兄がトーストを焼いてくれている。
トーストを齧りながら、兄に話しかけた。
「兄ちゃん、今日は仕事だよね。雪だから、事故には気を付けてね。車でしょ?」
と言うと、兄は面倒くさいと言わんばかりに頭をかく。
「そうなんだよなぁ。危ないから、今日は電車で行くことにする」
と、兄はコーヒー片手に窓の外を眺めた。
「月牙も、今日は自転車は危ないと思うぞ。歩いて行くのか?」
「うん。そうするよ。めんどくさいけどね」
ふふっと笑ってやった。確かに面倒くさいけど、雪を楽しみながら登校するのも、また面白そうだ!
残りのトーストを口に詰め込んで、鞄を背負った。もごもごと行ってきます、とだけ伝えてから、僕は家を飛び出した。
雪は大粒で、しんしんと降り積もっている。まだ誰も踏んでない新雪を踏みしめた。ぎゅっぎゅっと心地よい感触がする。
真っ白に染まったいつもの街並みを眺め、時折頭に積もる雪を何度も払い除けた。
学校の近くまで来ると、見慣れた顔が近づいてきた。
「よぉ月牙。おはようさん。」
その紺色の髪には、たくさん雪が降り積もっている。あまり気にしてないのか、巻いていたマフラーを巻き直していた。
「おはよう、愛久。頭に凄い雪積もってるよ」
こいつは、工藤愛久。僕の大の親友で、小学校からの付き合いだ。僕の数少ない友達である。
「まあな。にしても雪すげぇよなぁ」
愛久はそれこそ口が悪いが、とても良いやつだ。見た目より世話好きだし、何より正義感が強い。女子にもモテるし…。
「でも、昼には晴れるみたいだぜ?」
と、愛久はニヤリと笑った。
「え!そうなの?残念だなあ」
「なんだ、遊びたかったのかあ?お子ちゃまだなお前も」
と愛久がいつもの様に馬鹿にしてくるので、僕はそこにあった雪を掴んで、投げつけてやった。
愛久の言うとうり、3時限目が終わる頃には、すっかり晴れてしまっていた。太陽がさんさんと照りつけていて、外は結構暖い。
まだ残っている雪を愛久と投げつけあいながら、僕らは屋上で昼食をとっていた。
「そういえば、昨日UFOを見たんだ」
と話すと、愛久は意地悪げに笑った。
「ほんっと好きだよなぁ。で、どんなのを見たんだよ?」
赤い光を見た、と話すと、愛久が驚いた様子で口を開く。
「それ、昨日俺も見たぜ。赤い光が、たくさんあってよ」
「え、本当?!同じやつを見たのかな」
「なんだ、奇遇だな!」
と愛久が笑った。驚いた。まさか愛久も見ていたなんて!
「そういえば、愛久はUFOとか信じてるの?」
疑問をおろむろに口にすると、愛久はじっと空をみつめ、ぼそりと呟いた。
「…宇宙ってよ、限りなく広いじゃねぇか。地球だけじゃなくて、他の生命っていうのは存在すると思うぜ。俺は。ただ、空飛ぶ円盤なんてよ、そこまで技術が進歩した星って、あまりねぇんじゃねぇかな」
あー、もう分かんねぇ、と呆れ出したかと思うと、僕をちらりと見て、愛久はふっと笑った。
「宇宙人ってのも、きっといるんじゃねぇか?」
愛久が真剣に自分の考えを話してくれるなんて、めったになかった。いつもふざけてるイメージしかなかったのに、今日だけで愛久に対するイメージが、少し変わった気がする。
そんな愛久を見れた事が何だか嬉しくて、僕はついニヤけてしまった。
「んだよ。そんな俺の言うことがおかしかったか?」
「いや。愛久が、こんなに真剣になるなんて、なんかおかしくて」
「なんだよそれ」
愛久は怒る様子もなく、くすくすと笑いながら、またパンを一口齧った。
僕も、最後の一切れを食べて、愛久にそろそろ行こう
、と一言かける。
ふと立ち上がろうとしたその時だった。
僕の目に微かに映ったのは
――青空に浮かぶ、無数の赤い光だった――
ここまで読んで頂きありがとうございます。
新キャラの登場です。
愛久は個人的に気に入っています。