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episode-2

 私がブランコの所に行く理由は2つあった。1つ目は、『ブランコ』に会いたいから。そして、『ブランコ』の所で告白をしたいからだった。

 ……告白と言っても可愛いものだ。私はこの時、小学三年生だ。ただ、一緒に近くにいたい。そして、友達を越える親友になろうという意味を込めて、「好きです」と男の子に対して言ってみたかったのだ。   

友達との交流が少ない私にとって、毎日一緒に遊んだ加藤くんの事を好きになるのは、とても自然な事だろう。

「ちょっと、公園まで行ってくるね。6時までには帰ってくるから」

「あら、外出するのね。いってらっしゃい」

ランドセルを加藤くん宅に置いた私たちは、公園へと向かう。

「まいちゃんって目が悪いこと以外、欠点がないよね?」

 褒められた私は、眼鏡を得意げにあげて話す。

「そんな事ないよ」

「だって僕より頭いいし、可愛いし」

私の耳に「可愛い」という言葉が強く残った。頭の中で繰り返しリピートし、純真な私は頬を赤く染めた。

「……加藤くんも絵上手だよ」

「うーん、僕は頭が良ければ他はいらないかな。というわけで、宿題見せて」

「えー、私のクラスには出てないよ」

「はー、自分でやらなきゃいけないのか。帰ったら母さんに教えてもらおう」

「そんな事より、“可愛い”ってもう一回いってくれない?」

「え、なんていったの?」

「う……うん。なんでもない」

私の企みは肩透かしにあう。落胆する私に、

「そんな事より、節子せつこって食べたことある?」

「せつこ?」

「おにぎりに入っていてとても美味しかったんだ。今度、まいちゃんにも食べさせてあげるね」

節子せつこじゃなくて、筋子すじこじゃないかな? 美味しいよね、あれ」

「なんだ、食べたことあるんだ。自慢しようと思っていたのに」

「残念でした」

私は加藤に向けて、あっかんべーをする。

「“可愛い”顔が台無しだよ」

……。

「大丈夫、顔赤くなっているよ?」

「う……うん。大丈夫」

「ねえ見てみて、ついた!」

 冬の花盛広域公園。少しだけ雪が降っているせいで、人の数はまばらだった。公園では、何人かが、遊具を使わずに雪合戦をしていた。

私が見たいと望んだブランコは、公園の隅に鎮座していた。

「これが、あの『ブランコ』だよ」

加藤くんはとても誇らしげに伝える。

『ブランコ』は、どこの公園にでもありそうな普通のブランコだった。椅子を吊るす柱の色は、青。椅子の部分は木で出来ていて、座る場所は2箇所。また、青いペンキも長年の使用によって所々、錆びた金属が顔を覗かせていた。

「えっ」

私の口から自然と声がこぼれた。普通だった。私にとってそのブランコは、普通すぎた。私が想像していた物では、なかったのだった。頭の中に疑問が浮かぶ。

「どうして、この場所を書こうと思ったの?」

加藤くんの顔が不思議そうに変わる。

「ブランコが楽しいからだよ。乗ってみて」

ブランコに乗ったことは勿論あった。でも、加藤くんに進められて座ってみる。椅子の所にうっすらと雪が積もっており、座るとお尻がちりちりと寒さに凍えた。

「前に体が移動する時は、足を前に。後ろに移動する時は足を後ろに曲げるんだよ」

そう言って、加藤くんは私の体を押す。体が前後に揺れる。一人で遊んだ事は確かにあった。だが、私は二人でブランコを遊んだ事が無かった。

一人でブランコを漕ぐ時より明らかに空に近づく。そういえばあの『ブランコ』には、二人の人が描かれていた。楽しそうに遊ぶ、二人の笑顔が。

二人で遊ぶブランコがこんなにも楽しい物だと思わなかった。

 私たちが暫く遊んでいると声をかけられる。

「勝負しようぜ」

後方からの声だ。同年代の男の子二人組だった。

「どちらが、空高く飛べるかだ!」

男の子たちが叫ぶ。つまり、どっちか前後に揺れる事が出来るか勝負しようということだった。私たちは暫く困惑していたが、勝負に乗ることにする。

先ほどと違って椅子に座るのが、加藤くん。背中を押すのは、私の番だった。私の押す力を借りて、加藤くんは、段々と高いところまで揺れる。

「おー、すげー」

長い間遊んでいて、自然と息が合っていた私たち。私たちのブランコは、男の子2人のブランコよりも高く、高く、空を飛んでいた。

「参りました」

気づくと、二人の男の子は、素直に負けを認めていた。少し一緒に遊んで、少し馬鹿にされればと私たちは思っていた。その為私たちは鼻が高かったし、とても嬉しかった。

 そんな事もあって私たちは、『ブランコ』で暫くの間遊ぶ事になる。ブランコではしゃぐのは幼稚園児みたいで、小学生ながらに恥ずかしかった。でも、交互に役割を変えて、私たちは遊んだ。家でゲームをして遊ぶよりも、楽しかった。

「私たち二人組みって、最強なのかもしれないね」

「急にどうしたの? 麻衣ちゃん」

「クラスの人たちは沢山の友達がいる。だけど、私から見るとあんまり楽しそうじゃないの」

かとうくんは、首をかしげる。

「みんな喧嘩する。みんな算数セットのおはじきみたいに、くっついたり離れたりする。ばっかみたい。私たちみたいにずっと仲良くすればいいのに、磁石みたいに」

「そっか、そうだよね。僕たちって最強だよね」

「うん」

私は大きく声をあげた。

溢れんばかりの幸せは私たちを包み、公園中に轟いているようだった。友人が少ないという寂しさも、加藤くん一人のお陰で遠くへ忘れてしまっていた。

そんな僕たちの耳に鐘の音が響く。気付けば時刻5時頃、日が傾きかけていた。

とても楽しくて、告白するという目標の一つは自然と頭から消えていた。辺りを見回すと子供たちは帰宅しており、私たちも帰らなければいけない時刻だ。

 そろそろ帰ろうという話題に自然となる。そんな時に加藤くんが指差す。

「あれ、なんだろうね?」

段々と近づいてくる人影。長い物を持った、一人の男性のようだ

その当時の私たちは、幸せの中に包まれていたつもりだった。そして、幸せは、ずっとずっと……。




 私たちに近づいてくる人影。夕暮れが邪魔してぼやけた外形しかわからないが、結構な歳を取った男性のようだった。その人影は、不気味なほどまっすぐに私たちに対して近づいて来る。何かをぶつぶつと呟いている。

「……して、こんな……。……さえ、……れば」

薄暗い公園。その人は、ただならぬ雰囲気だった。ブランコを降りて、帰路に向かおうとしていた時。私たちは、その人影が手にしていた物をしっかりと見る。

 男性が手にしていた長い物。それは、刃物だった。後でニュースを見て知ったのだが、日本刀と報道されていた事を鮮明に覚えている。

「……が壊れなければ。……さえ、起こらなければ。刑……に……しか」

呟きは距離が詰まるほど私に鮮明に届くようになる。

「行こう」

呆気に取られて動かない私に対して、加藤くんは、私の手を引っ張る。そして、逃げようとしたその時だ。


「動くな! ……な! 切ら……もいいのか」


男の人は、大声で叫ぶ。聞いたことのないほどの大きな声が私の耳に届く。再び、私の足が止まりそうになる。それを知っていたかのように加藤くんは、より強い力で私を引っ張り、動き続けるように促す。

「走れ!」

加藤くんの力強い号令。間違いなく正しい判断だった。もし、仮に足を止めたとしても刃物が私たちを刃物が襲うだけだっただろう。

「待て! 止まれ!」

私たちが距離を取る為に走り出そうとすると後方から再び声が聞こえて来た。

「助けて! 助けて!」

加藤くんも叫ぶ。周りの人に襲われている事を示す。そのために私を引っ張りながら大声で叫ぶ。私も声を出さなければと思っていたが、恐怖のせいで全く声が出ない。


私たちは、走る。全力で走る。


後方から追う、男性が追う。


小さな小学生と男性。鬼ごっこをすればどちらが勝つかは、明らかだ。段々と息遣い、そして雰囲気が伝わってくる。

かなりの力強さで引っ張られる私。気持ちは前進する。しかし、足が付いていかない。

 たった10秒ほどの鬼ごっこだった。私は全力で走ったが地面は雪道。

「うっ」

私は、足を滑らせる。そして、巻き込まないように手を離す。


どてっ。


派手に転んだことによって雪道から発せられる音。その音は男性との鬼ごっこに負けた事を示す音だった。

 無常にもめがねは、転倒のあおりを受けて外れ、ぼやけた外界の向こうへといってしまう。

「逃げて」

私は、諦める。もう駄目なんだ。もう終わりだ。絶望。加藤くんだけでも助かって欲しい。そう思って小さくて、かすかな言葉。加藤くんに届くだろうか。

 私は立ち上がらず這いつくばったまま、足音と逆の方向へと進もうとした。一分一秒でも死を先延ばしにしたかった。

ゆっくりと霞む視界に青い造形物が浮かぶ。ゴツリ、私の手にブランコの支柱がぶつかる。

ブランコの奥は柵で囲まれている。公園から脱出するためには男の横をぬけてゆく必要があるが、私にとってそれは無理な願いだ。

ゆったり、ゆっくり足音は次第に近づいて来る。そして、私のそばで止まった。

「ご……。……が起……な……ば、……ん」

私の耳元に男性の呟きが再び聞こえたとき、微かながらに見える色彩が私に畏怖の感情を受け付ける。男性は両手で刃物を振り上げている時だった。私は、諦めて目を閉じる。

……暫く時間が経過する。しかし、不思議と体に痛みが無い。再び目を開ける。

 私と男性の間には、加藤くん。大の字のように両手両足を横に広げて私を庇う加藤くんの姿があった。そして、男性は、刃物を振り上げていたまま止まっていた。

「どうしてこんな事するの?」

加藤くんが男性に対して声をかける。その声は、力強さと優しさを感じさせる不思議な声色だ。

「……だ、……が悪いんだ。ご……。俺、……所に……たかった」

男性の方が明らかに有利な立場。刃物を振り下ろすだけで、私たちの命はすぐに無くなる。それなのに一語一語から戸惑いが感じられた。

「大丈夫だよ。やり直せる」

加藤くんは男性に、語りかけているようだ。

男性の声は、涙声だ。視界が奪われているため推測の域を出ないが、大粒の涙が頬をつたっていることが容易に想像出来た。

加藤くんは沢山の事を男性に訴えかけていた。言葉をかけるごとに男性の声は小さくなってゆく。私は眼前の光景から目を背けるために、耳を手で覆った。今思えば、最低な行動だ。ただ、小学生の女の子にとって広がる散々たる光景は、余りにも重荷過ぎる。

耳を塞ぎ、目を背ける。高鳴る胸の心臓音に、耳を委ねる。

一方、男の子は大の字に立つ。仁王立ちし、私を庇う。

「だから、生きているうちは大丈夫だよ。やり直せる」

加藤くんが大きな声でそういい終わった時は、何故か私はこれで助かったと思った。目の前に両手で日本刀を持ち上げた男性がいたのにも関わらず、生きて帰ることが出来ると思っていた。

 しかし、持ち上げていた刃物は加藤くんを襲うことになる。なぜか? それは、警官の大きな怒鳴り声だった。

「やめなさい」

その大きな、大きな一言は男性を驚かせる。

私の転んだ地点からそう遠くない位置に3人とも立っていた。その為に地面はとても滑りやすい状態だ。驚いた男性は、体制を崩す。そして、刃物は加藤くんの右腕へと近づく。


 音は無い。


私の目の前の光景は、白い色の雪道の景色だったはずだ。その光景が赤くて人を寄せ付けない光景へと変わっていた。

加藤くんは、腕を失ってからも変わらずに犯人の前で大の字で仁王立ちしていた。それに対して犯人は、自分のした事に呆然としており、膝をついて泣いているようだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

繰り返し、呟いた。

 警察が走って近づいてくる。加藤くんは私が安全である事を確認した後、時を計ったかのように倒れた。

 そして、私も地面に転がっていた物を目にした後、自然と意識を手放していた。


 私が意識を取り戻したのは、事件の次の日。昼頃だったらしい。病院のベットに寝かされていた。汚れたはずの服は取り除かれ、綺麗な病衣を身につけていた。

「大丈夫?」

枕元には、母の顔があった。

私は返事をせず。全てを思い出す。

真っ白な病衣に顔を埋めて泣いた。


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