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episode-1

 近所の小学生の子供が集まる子供会。今回の活動は廃品回収だった。近所の家にあるアルミ、スチールや大型家電を集めて再生資源としようという活動だ。でも、そんな事はどうでも良くて、絵を書いた人がどんな人だろうという疑問が私の頭の中で渦巻いていた。

「あの子、あの子が加藤君だよ」

私は、母親に背中をポンポンと叩かれながら言われる。

「ほら、挨拶してきなさい」

背中を押されて、加藤君の前に私は突き出される。

 私の空想上では、加藤君という生き物は見るからに優しくて、挨拶を気軽に返してくれそうな朗らかな男の子だった。しかし、目の前に立っていた男の子は、見た目が内気そうで、私と同じように話しかけないで欲しいというオーラを出している男の子だった。

私も丸眼鏡をかけ人を避けて歩いていたので、他人をとやかく言う義理は持っていなかったが、そんな私が見ても、孤独を食べて生きていそうな少年だった。

子供会なのに、周りに親はおらず、1人で参加しているようだ。

「こんにちは」

私は、市役所で磨いた挨拶を思い切って加藤くんにぶつけてみる。

「……こんにちは」

加藤くんは少しうつむいており、怯えているようだった。

「あなたの描いた『ブランコ』を見ました」

二言目にいきなり伝えたい事を伝える。脈絡なく、思った事をぶつけてしまう辺り、小学生の頃の自分のコミュニケーション能力の低さが感じられる。

「……」

当たり前のように困ってしまう加藤くん。私は暫く加藤くんを観察していたのだが、何も言わず立っているだけだった。

「その、凄く優しかったです。加藤くんの優しさがとても詰まっていました。絵の中に入ってみたいとも思いました」

私はドッチボールの外野の要領で、自分の思いの丈を加藤くんにぶつける。

「……」

加藤くんは、まだ黙っていた。でも、今にも逃げたしたいような様子から、自分に対して少し興味を持ったようだった。一方的に話を仕掛ける私の様子を見ていて、母が耐え切れなかったのだろう。私に対して助け舟を出す。

「加藤くんごめんなさい。この子は麻衣っていうの。良かったら放課後に遊んであげてくれない?」

母は加藤くんに声をかけてくれた。加藤くんは、戸惑いつつも小さい声で言う。

「……うん」




 それから私は暫くの間、市役所の代わりに加藤くんの家に寄る事になる。私と加藤はどちらも一人っ子だ。その為、同年代に対する接し方を知らなかったのだろう。加藤くんの親も引っ込み思案の子供を心配しているようで、私は加藤くんの家で優しく迎えられた。最初は私が疑問をぶつけて、加藤くんが困るという一方的な展開だった。でも、慣れてきてからは会話のキャッチボールが成立するようになる。


「ファックスってすごいよね」

加藤くんは、唐突に呟く。

「どうして」

首をひねりながら私も呟く。

「だって、紙を遠くまで送れるんだよ。どうやって電線の中に紙を詰めているんだろうね」

加藤くんは、私の顔をまじまじと見て言う。


 こんなことを真顔で言うのだから、私は何度も驚かされる事になる。今のツッコミスキルは、加藤のおかげなのだろう。他の日にはこんな事も言われた。


「ふじさんって日本一おおきいんだよね」

いつもと違って、興奮ぎみに言う加藤くん。

「そうだったはずだけど……。300メートル位だったかな」

興奮している理由が分からない私。

「そんなに大きいんだ。毎日、牛乳飲めば、僕もふじさん位に大きくなれるのかな?」

 後から気付いたのだが、加藤くんは『富士山』を『富士さん』という人間と勘違いをしていたらしい。今だと笑い話に変えられる。でも、その当時の私は一所懸命に説明をしてあげていた。そして、新しい真実を知った驚きに目を輝かせる加藤くんの顔をみるのがとても好きだった。

 加藤くんの家に通って1ヶ月ほど経ってからだろうか、私は絵についての話題を出すことになる。確かテレビゲームのwillを一緒にしながらの会話だったはずだ。

「あの『ブランコ』のある場所まで連れて行って欲しい……」

私は出会いの元である一枚の絵を思い出して言う。

「いいよ。花盛広域公園だから、5分位で着くよ。今から行こうか」

あんな素敵な場所がそんなにも近くにあるのかと、当時の私はとても驚いた。そして、実際に見ることが出来ることに胸を躍らせていた。


 もし、一度だけ過去に戻る事が出来るなら、私は昔の自分に一言だけ言いたい。

ブランコの事は忘れるべきだ。そうすれば楽しいままでいられるから……と。


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