おしかけ巫女の恋冒険
今回もmixiのお題小説として書いた小説です。ショートショートです♪。恋愛ものだけど、少しだけホラー成分、あるようなないような? お題は、「鐘の音、多忙、来年は」でした♪。どうかよろしくお願いしまーす♪。
ぴんぽーん。あたしはチャイムを押した。
「こんにちはー、どなたか、いませんか~?」
ここは新田照明くんの部屋でいいはず。中には照明君が、いるはずだ。
「こんにちはー! こんにちはー! こんにちはー!」
「はーい、どなた~?」
扉の中から声がしたかと思うと、ガチャっと扉が開いた。
目の前には、子犬みたいに愛らしい男の子、と言っても、あたしと同い年くらいの16歳くらいの子、推定・照明君が立っていた。
「初めまして。あたし、宮乃森佳奈です。どうかよろしくおねがいしまーす」
あたしは両手を身体の前で揃えて、行儀良くぺこっとお辞儀する。
照明君は大きな目をまん丸にした。
「あ、初めまして。僕は新田照明と言います」
照明君は驚いたように目をまんまるくする。でも、行儀良くおじぎする。
うんうん、思ってた通りの感じのいい子だ。
「えっと、お父さんかお母さんの知り合い? 二人とも、今、いないけど?」
「ううん、あなたに会いに来たの、照明君。あたしと、今晩、一緒にいて欲しいの……」
あたしは若干照れたように言う。男の子と二人きりで一晩いて欲しいって、やっぱり少し照れるよね。
でも、照明君は照れるよりも、むしろ驚きの方が大きかったみたいだ。
「えっ……? 君、誰……? 初対面だよね……?」
うん、正真正銘、あたしと照明君は初対面だ。
あたしも話には聞いてたけど、照明君がどんな子かは知らなかった。
色々名前から、こんな感じの子かなあ、と想像はしてたけど。
でも、その想像、怖いくらいにあたってた。
「あたしは宮乃森神社で巫女をしてるのー。一緒に今夜過ごす理由は……」
「うんうん?」
「ごめん、内緒なの!」
ぺこんと頭を下げる。うん、一緒に過ごす理由はパパとも相談したけど、まだ内緒にしてた方が良さそうだ。
だめかなだめかな理由言わないとだめかな、とあたしは上目遣いで照明君を見る。
「だめ? 内緒だと、泊めてもらえない……?」
照明君は困ったように頭を掻いた。でも、やがて、観念したようにはぁと溜息を吐いた。
「分かった、いいよ。一晩くらいなら、泊めてもいいけど……でも、僕の両親、多忙だから、今夜は帰ってこないかもよ? 今夜は僕一人だけかもよ? それでもいい?」
「いいよー。むしろ、大人がいない方が気を使わなくて気楽かも~」
あたしはにこっと無邪気に笑う。だって、敬語とか使うの、苦手なんだもーん。
その言葉に観念したのか、照明君は家の中に、あたしを入れてくれた。
あたしは照明君の部屋をきょろきょろと見回す。
あたしはリビングではなく、照明君の部屋に真っ直ぐ連れてこられた。
正直、男の子の部屋に入ったのは初めてなので、まじまじと観察してしまう。
でも、照明君のイメージらしく、綺麗に片付いた落ち着いた部屋だった。
「とりあえずそこに腰掛けてよ? 部屋、狭いから、僕はそこの椅子に座るから、君はそこのベッドに座って」
「はーい」
「ごめんね、リビング、今、大掃除してた最中だったから、人を通せる状態じゃないんだ」
なるほど。照明君の話だと、両親は仕事で多忙で、家事とか掃除とかは全部照明君一人でしているらしい。しっかり者だなあ。家事が全然できないあたしとは大違い。
「凄いなー。お嫁さんに一人欲しいなー」
あたしは指を銜えて、羨ましそうに言った。
「お嫁って、僕、男だよ! それを言うなら、お婿さんとか、旦那さま、とかだろ!」
「ううん、お嫁さん。照明君なら、いいお嫁さんになれるよー」
あたしは、にまっ、と笑う。それを見て、照明君はがっくりと肩を落とした。
「僕の話より、君の話、聞かせてよ? さっき君、巫女さん、と言ったけど……」
「うん、そうだよ~。見て、わからない?」
あたしは身に付けている巫女服を見せびらかすように、両手を広げて見せる。
正式な巫女服じゃないけどね、肩は出てるし、袴じゃないし、スカート短いし。でも、パパが宮乃森神社の参拝客の集客のために、一昨年からこの巫女服が宮乃森神社の正式な巫女服になったのだ。
「うーん、それは巫女服は着てるけど……寒くない?」
「寒さは若さでカバーだよー」
今時の女の子は、冬でも生脚とかで寒いとか、言ってられないのよ。
ところで……あたしは部屋をきょろきょろ見回した。四つんばいになってベッドの下にもぐる。
「ここにあるかなあ……」
「な、何が!?」
突然の行動に照明君は驚いてる。
「えっちな本。男の子って、ベッドの下にえっちな本、隠してるんでしょ?」
「ぼ、僕はそういう本、読まないよ!」
「でも、動揺してるよ~?」
「そうじゃなくて……見えてるってば!!」
照明君は横を向いて、赤い顔で叫んだ。
見えてるって、何が? 一瞬してから、あたしも赤くなって、スカートを抑えた。
「きゃぁぁ!? み、見た……?」
「見てない見てない! ひまわりなんて、見てないから!」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
あたしの悲鳴が、照明君の部屋に響いた。
あたしはくしくし泣く。
「照明君のえっちぃ……」
「ごめんよぅ……忘れるから、全力で忘れるから! 君も泣きやんで、ねっ?」
「本当に?」
「うんうん、本当だよ。だから、君も笑って!」
照明君は頬に指を当てて、にいっと無理に笑って見せる。
照明君、本当にいい人……。あたし、こういう人、大好き!
「わかった、わらうね、にぃ~っ」
「うんうん、にぃ~っ」
二人して無理に笑顔を作る。お互いにその笑顔を見てるうちに、それが本当の笑顔になった。
でも、結局ベッドの下にえっちな本はなかったよ。やっぱりこういう世間の常識って、本当は嘘のことも多いんだね。
そんなことを考えてると、照明君はやがて真剣な顔になった。
「君はもしかして……」
「ほへぇ~?」
「僕が寂しいから、それを慰めに来てくれたのかい?」
「照明君、寂しかったの……?」
思わず問い正してから気づいた。
照明君の話だと、両親は仕事が多忙で滅多に帰ってこない。つまり今日の大晦日も一人で、新年も一人で過ごす予定だったのかもしれない。
恐らくあたしが何らかの事情で、それを慰めに来てくれたのだと、推理したのだろう。でも……。
「ううん、違うよ。あたしの目的は違う……」
本当にそうだったら、良かったのに。そうしたら、照明君にもっと好意を持ってもらえたのに。もしかしたら照明君に好きになってもらって、告白だってしてもらえたかもしれないのに!
そこまで考えてから、あたしは照れて、照明君の頭をぽかぽか叩いた。
「こらこら、あたし、あたし、何、考えてるのよ! 初めてあったばかりの男の子に対して!」
「痛い、痛いってば!!」
照明君は顔を顰めて、あたしの拳を避ける。
いけない、いけない、つい、我を忘れてしまった。
でも、我に返ったら、返ったで、罰が悪いよー。男の子と、照明君と二人きりの状況、照れるよー。
その時、鐘の音が鳴った。除夜の鐘だ!
「ひとつ、ふたつ……」
「みっつ、よっつ……」
あたしと照明君は何となくその除夜の鐘の音を数える。もしかしたら、照明君も罰が悪かったのかも。そして108つ数えたところで、鐘は鳴り止んだ。
本当は一晩泊まるつもりだった。泊まるつもりだったけど……。
「やっぱりあたし、帰るね?」
照明君は驚いた顔をした。でも、そう主張するあたしの意思を尊重して、玄関まで見送りに来て、そっとあたしを送り出してくれた。
帰ると言ったのは、照明君と一緒にいるのがつらかったからだ。
何だろう、よく分からないけど、胸がどきどきして、苦しいのだ。
あたしの心とあたしの身体が思い通りにならないのだ。
だから、鐘の音が鳴り止んだとき、あたしは帰る、と主張したのだ。
それに去年が終わり今年になれば、あたしが照明君の家にいる理由もなくなるし。
泊まるといったのは、あくまでも念のためだったし……。
あたしは携帯を取り出して、パパに報告する。早めに帰ること伝えて、家のチェーンをはずしておいてもらわないと家に入れない。
「もしもし、パパ?」
「佳奈か、どうした? そっちはうまくやってるか?」
「終わったよー。今から帰るところ。チェーンははずしておいてね?」
「は……?」
電話の向こうで、パパが何だか驚いた声を出した。それから、パパは問い返してくる。
「ちょっと待て。何で終わった、と思ったんだ?」
「だって、除夜の鐘の音が鳴りやんだし。今年はもう、終わりでしょ?」
パパは数瞬の沈黙の後、言った。
「いいか、佳奈。良く聞け。今年はまだ終わって……ない。だから……」
あたしはパパの台詞を全部聞く前に携帯を切った。そして照明君の家へ全力で駆け出した。
騙された! あたしたちが聞いた除夜の鐘の音、にせものだったのだ。
今頃照明君は……。
あたしは照明君の部屋の扉を破壊して中に飛び込んだ。中では、照明君がまさに連れて行かれようとしていた。
亡者に。
そうあたしは神託を受けてここに来たのだ。
亡者に取り憑かれている少年がいる。今年の間、彼の傍にいて、彼を守れば、彼を助けることができる。
その神託を聞いて、あたしは照明君の家に来たのだ。
危なかった、でも、間に合った!
あたしは神力を解放する。亡者はあたし達の前から、照明君の前から消え去った。
「照明君、大丈夫!?」
あたしは照明君に駆け寄って、照明君を抱き起こした。
照明君はぼんやりとした顔であたしを見る。
「君が……僕を連れ戻してくれたのか?」
「うん……」
「君はこのために来たんだね。僕を守るために、来てくれたんだ……」
「そうだよ……」
あたしはぎゅって照明君の頭を胸に抱き寄せた。良かった、本当に照明君を助けることが出来て良かった。
「あれは……僕の両親だ」
照明君はぼそっと呟く。え……両親……?
思わずあたしの身体は凍りつく。その微妙な気配を感じたのか、照明君は続ける。
「本当は僕、二人が死んでること、気づいてたんだ。あんなに長く、家に帰ってこないこと、ないはずだからね。でも、否定ししたかった。だって、二人とも、僕のことあんまり構ってくれはしなかったけど、大好きだったから!」
「ごめんね……」
「君が謝らないでよ。いいんだよ、僕があんまりに寂しそうだったから、二人とも僕を一緒に連れて行ってくれようとしたんだね。でも、君が引き止めてくれた」
そうか、そういうことだったんだ。あの亡者達には、あたし、何も敵意を悪意も感じられなかった。
守るって、亡者の悪意から、照明君を守ることだと思ってたけど、違ったんだ。
神託の一緒にいることで守るというのは、照明君と一緒にいることで、あの両親達に照明君が一人ではない、ということ、見せる意味、だったんだ。
その時、除夜の鐘がなりはじめた。
今度こそ、本当の鐘、だよね……?
照明君はあたしを見て、にこっと微笑む。
「僕は大丈夫だよ。それより、鐘が鳴り止む前にお願いごとしよう。来年は、君の願い、何でも一つ、かなうようにって、除夜の鐘の神様にお祈りしてあげる」
「あたしの願いは簡単だよ」
あたしはにっこり微笑んで、照明君の顔を上から覗きこむ。
「照明君がもう寂しくありませんように。ご両親が心配しませんように。だよ」
照明君は少し下を向いて、ぼそぼそ呟く。
「確かに今日は思わぬ来客で寂しくなかったけど……」
「あたしが照明君のママになってあげるよ。パパになってあげるのは無理だけど……それなら寂しくないでしょ?」
「いやだよ! お父さんとお母さんの代わりが欲しいわけじゃないし、僕は! 寂しいけど、お父さんとお母さんは僕にとって一人だけだよ!」
「でも、それじゃあ……」
「それに両親がいない寂しさは新しく両親作って埋めるだけでないよ。家族という意味では……」
「えっ……?」
「恋人も家族だからね。君には僕の恋人になって欲しいんだ。君が好きになっちゃったんだ! だから、ママになるなんて、嫌だ!」
こ、これって、告白だよね……?
正直、嫌な気分はしない、というよりも、嬉しかった。凄く嬉しかった。
出会ったばかりなのに、変だけど……でも……あたしは照明君をぎゅっとしたい気持ちでいっぱいだった。
だから、ぎゅっとした。
それがあたしの、照明君への告白の返事だった。