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頭の中将

 宇治での出来事の後、しばらくは祖母のところで過ごしていたが、母からの帰京の催促にいつまでも宇治に居る事もできず、都に行く事になった。

山から帰ってきた後、沙羅と綺羅が入れ替わった事をもちろん祖母は知っていた。しかし、その事には一切何も言わなかった。

今にして思うと祖母にはどれほどの愛情を注いでもらったかと思う。母親からの愛情を受けられぬ孫を不憫に思いながらも、それに代わるそれ以上のものを受けていた。都に行く朝、目に涙を浮かべ、ただ黙って私の頬を撫でながら手を離さなかった祖母の尼君。

その祖母ともそれっきりで、二年後に宇治で静に息を引き取った。


 都に来てからの綺羅の生活は一転した。静かな田舎暮らしからにぎやかな都での暮らし、男としての生活。慣れない宮中での宮仕え。さらに元服後に入った大学寮では高位の貴族の子弟達の陰湿な嫌がらせを受ける日々。何度となく男として生きることをやめたくなったか知れない、それでも歯を食いしばり一人誰にも言えぬ秘密を抱え過ごした。それも、これも自分の代わりに死んだ綺羅のためにだった。


綺羅のために勉学に励み

綺羅のために処世術を身に付け

綺羅のために出世する

そう思って過ごしてきたこの六年は、今思えば長いようで短いような気がする。


そんな事を考えながら歩いてたせいか気が付くと、菊の宮との間がひろがっていて、訝しげな顔をした菊の宮の姿が離れたところにあった。

「何度も呼んでいるのに返事も無しか?」

菊の宮の元へと急ぎながら。

「申し訳ありません。少し考え事をしておりました。」

「好いた女子の事でも考えていたのか。」

「私にそういった相手がいない事は、宮様が一番よくお分かりだと思いますが。」

「何故だ?帝の覚えもめでたいく、容姿も整って、あちらこちらの姫君、女房殿からの恋文も絶えぬ、評判の侍従殿がか?」

「本気でおしゃってますか?毎日役所と屋敷と宮様をお探しする事で一日が過ぎていくような生活をしているというのに、どこにそういった方達の下に行く時間があると思いますか?」

菊の宮の皮肉の言葉に、ここ最近仕事が忙しく疲れていた事や菊の宮のとの事など色々思うこともあって気が付いた時には、菊の宮に対してきつい口調で言葉を返していた。その事にすぐにすぐに気が付きあわてて謝罪の言葉を口にしようと口を開こうとしたが、すでに時は遅く菊の宮の顔は冷たい表情に変わっていた。

「それは、済まぬことだ」

菊の宮の表情と一緒な冷たい言葉に、合わせる顔がなく少し視線を落としながら

「・・・申し訳ありません、宮様に対して失礼を申し上げました。」

「かまわぬ、私とそなたとの間だ。二人だけの時ぐらい言いたい事は言っておけ。こっちもそのほうが良い」

「宮様・・・・」

どこか突き放したような言葉の中に優しさが滲み出て、下げていた視線を菊の宮に戻せば。こちらを苦笑い交じりの柔らかい表情に目が離せなくなる。

そんな綺羅を見つめながら「さて、早く帰って宰相の局の説教でも聞くか」と小さくつぶやき歩き出す菊の宮の後姿を見て、そっとため息をつく綺羅だった。



麗景殿近くを歩いていると視線の先に束帯姿の公達の姿が見えた。

その姿にいち早く気付いた菊の宮が声をかけるとその人はゆっくり振り向た。

「中将、女御殿のご機嫌伺いか?」

「菊の宮様にはご機嫌麗しく・・・」

菊の宮の問いに答えるのは頭の中将、藤原為長。左大臣の長男で歳は19歳。帝の信頼厚い側近の一人であり。今をときめく麗景殿の女御の弟でもある。

「堅苦しい挨拶はよい、女御のご機嫌は如何かな?」

「はい、特にこれといった事もなく穏やかに過ごされているようです。」

「それは何よりだ、麗景殿の女御様には大事に過ごして頂きたい。」

今現在、麗景殿の女御は懐妊中で順調にいけば半年後には菊の宮に弟か妹が生まれる予定である。麗景殿の女御を気遣う菊の宮の言葉に「過分なお言葉、ありがとうございます。」と頭を下げる中将を菊の宮の後ろから見つめていると、その視線に気付いた中将が綺羅に視線を移す。

そして、それまでの改まった雰囲気を幾分か和らげながら呼びかける。

「綺羅」と・・・


な、なんとか約束通り投稿できました・・・次は・・分かりません。

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