はったり和尚の料理勝負
-我らが一行和尚の料理勝負―-果たしてどうなりますか―-?。
-昔―-山奥のある村に、持国寺という寺が在り、一行という風がわりな和尚が居った―-。
-ある時、村の茂助という男が寺を訪れ、ネギが沢山出来たので買ってくれと言ってきた―-。
~一行和尚は「ネギを沢山買うて何とする―-?」と訊いたが、茂助は「ネギ味噌、焼きネギ、ネギ鍋、鴨ネギと、ネギ料理はいくらでも在るわい―-」と応えた―-。
~一行和尚は「ほほう―-ネギ料理に詳しい様じゃな―-それなら、お前さんとネギ料理の旨さを競う、料理対決をしますかな―-お前さんが勝てばネギを皆、買うてやるが、どうじゃ―-?」と提案した―-。
-茂助は「山寺の和尚に作れるのは、精進料理ぐらいじゃろう―-」と思い、この勝負を受けて立った―-。
-和尚と茂助が料理勝負をするというので、村人達が寺に集まって来た―-。
-味見役は、村おさの竹造である―-。-本堂の前の庭で、二人は料理を作り始めた―-。-茂助は、鋤の鉄板を用いて、鴨肉とネギを味噌味で焼くスキ焼きを作った―-。-竹造は、ネギの風味の鴨肉を食べ、又、鴨の脂を吸い込んだネギの旨さを心ゆくまで堪能した―-。
~一方、一行和尚の方は、みじん切りにしたネギに味噌と胡麻油を加えた、ネギ味噌を作ったが、鴨ネギの後では少々お粗末である―-。
-竹造は「茂助の勝ちじゃ―-」と宣言した―-。
~一行和尚は、全く動じる事無く、本堂の縁側に座り、背中を向けて徳利の酒を飲んでおったが、ちらっと竹造を振り返って見た―-。
-塩辛い物ばかり食べていた竹造は「和尚さんや―-わしにも一杯、くれんかの―-」と声を掛けたが、和尚はわざと聴こえぬふりをしていた―-。
-竹造は「あ―-いや、もとい―-和尚さんの勝ちじゃ―-」と言い直した―-。 一行和尚は、にんまりして湯呑みに酒を入れて、竹造に差しだした―-。
-そんな事があってから数日後―-村の釣り好きな三吉という男が、イワナを釣りに行くので一緒に行こうと、一行和尚を誘った―-。
-和尚は「わしは、これでも仏に仕える身じゃ―-殺生は出来ん―-」と断ったが―-。-三吉は「和尚さんは、茂助を破った料理名人―-それなら、殺生(釣り)は、おらがするから、和尚さんは料理してくれんかの―-」と頼んだ―-。
-和尚は「イワナなど、塩焼きにするしかあるまい―-誰が料理しても同じじゃ―-」と応えたが、三吉は「和尚さんは、料理名人と思っておったが、大した事はねぇだな―-おらなら、もっといろいろ考えるだ―-」と挑発した―-。
-和尚は「そこまで言うなら、イワナを釣って来るがよい―-それを使って料理勝負じゃ―-お主が勝ったらイワナを全部買い取ってやる―-」と約束した―-。
-三吉は、よしそれならと、意気揚々と釣りに出掛けたが、一行和尚はその間に村おさの竹造の家に赴き、もう一度、料理勝負をする事になったが、今度は竹造の娘のお繭に味見役を頼みたいと申し出た―-。
-さて又、和尚が料理勝負をすると聴いて、村人達は寺に集まって来た―-。-三吉は、沢山のイワナを釣って来て、準備は整った―-。
-三吉は、さすがに釣り好きだけあって、イワナの味噌汁、なます、塩焼きと、手際よく作った―-。-しかし味見役のお繭は、味噌汁を一口啜って苦い顔をすると、他の物には全く箸を付けなかった―-。-お繭は、魚が大嫌いなのであった―-。
~一方、和尚は、イワナにそば粉をまぶして菜種油で揚げ「これは、南蛮渡来の天麩羅という料理じゃ―-!」と言った―-。
-珍しさもあって、魚嫌いなお繭も一口食べてみたが、魚の味がしないし、骨も無いので、ぺろりと食べてしまった―-。-そして「和尚さんの勝ちじゃ―-」と宣言した―-。
-和尚はお繭が魚嫌いと知っていて、蒸かした芋を捏ねて魚の形にし、そば粉をまぶして揚げたのじゃった―-。
-そしてそれは、お繭が食べてしまったので、結局何だったのかは皆にはわからない―-。
-和尚は、天麩羅とは旨そうな料理じゃなと、よだれを滲ませている村人達に、本物のイワナで天麩羅を作ってご馳走してやった―-。
-いかがだったでしょうか―-。
-この和尚さん、案外、村の人気者の様ですね―-。