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よいこは真似をしてはいけません

※残酷…とまではいきませんが、戦闘描写あります。


 ヒュ、と鋭い音を立てて銀の刃が振り下ろされる。


「フィリス、後ろを頼む!」


 目の前で崩れ落ちた魔物を振り返る事無く、ライルは今にも振り下ろされそうな爪を左腕でなぎ払う。


「わかったわ!!」


 短い詠唱が途切れた瞬間、ライルの背後で熱が渦巻く。

 焔の壁に背を守られ、目の前だけに集中できる。


 爪が掠めたのか、僅かに鈍く痛む腕をそのままに、ライルはまた一匹、と刃を振るって行く……


「ちぃ……っ!まだ息があったか!!」


 先ほど倒したはずの魔物が、ライルの左足を抉る。

 何とか踏みとどまり、剣を深々と突き刺し、完全に息の根を止める。


 ごきゅ。


「まだいるのか……キリがない……」


 滲む汗を血で染まる腕で拭い取り、ライルは目の前で今にも襲い掛かってこようとする魔物を睨みつける。


「ライル!!いくわよ!!」


 フィリスのその言葉だけで何をするのか悟ったライルは身を屈める。

 頭上を刃と化した風が渦巻き、数体の魔物を一蹴する。


「行っくぜええええ!!!」


 風が収まるのを見て取ると、ライルは再び魔物の群れに向かい、飛び込んで行く。


 ごきゅ。


 ここで魔物の群れを食い止めなければ、背後にある小さな村はひとたまりもないだろう。


 ライルは勇者の証たる剣を握り締め、さらに集中する。

 次々と(ほふ)る間にも、大小の傷を受けるが、今はそれどころではない。


 ───あの村には、幼い子供たちもいるのだ。


 未来ある子供たちに、暗い未来を与えてなるものか。


 ライルは歯を食いしばり、また刃を振り下ろす。







「ねぇ~おかあさん、あのおにーちゃん、いっぱいポイ捨てしてるよぉ~」


「そうね、あなたは真似しちゃ駄目よ?ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てないと」



 背後から聞こえたその言葉に、ライルの手が一瞬止まる。

 その一瞬を逃すはずもなく、新たな魔物の牙が腕に食い込む。血を失ってしまっては戦うこともままならない。


 ごきゅ。

 ライルは腰に備え付けの袋から新たな回復薬を取り出し、一気に飲み干す。





「あ!また捨てた!!」


「うんうん、ちゃんとしちゃいけない事がわかってて、お母さん嬉しいわ。……後で、一緒にゴミ拾いしましょうね?」


「うん、僕お手伝いがんばる!!」


「いい子ね」



(俺だって、俺だってこんなことしたくないに決まってるだろぉおおおおおお!!!)


 無邪気なだけに、その言葉は胸をえぐる。心の中で涙を流しながら、ライルは深い傷を癒すためにまた回復薬を取り出す。

 背中に感じる咎めるような少年の視線が痛い。



「……さっさと倒して、いっしょに片付けましょう、ライル」


 哀れむようなフィリスの言葉がその背中にかけられる。


「……優しさって、時に辛いものなんだな」


 フィリスの言葉が余計に胸を抉る。現状を知っているフィリスだから、他意が無いのはわかるが、何だか自分が片付けられない人間みたいじゃないか。


 とうとう心の中だけじゃなく、涙目になりながら、ライルが最後の1匹を倒した時には、村の子供中に噂が広まりきったころだった。






『おかたづけのできない、勇者さま』


 数多在る勇者の称号で、一番情けないそれがライルに与えられたのは、この日であった。



何だろう、最近思い浮かべるライルがいつも涙目だ。


そしてフィリスは半笑いだ。


ちなみに、カインは最初に支援魔法かけるだけかけて、あとはのんびりと母子と共に観戦してたんだろうなぁ……

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