二十話
久々に更新
全く覚えてない……(
夜は深まり、辺り一帯は闇夜に覆われた。静寂はこの場を包み、この森の不気味さを更に引き立てていた。そこへ、一つの風がぴゅうっと吹きすさぶ。通り道の木々たちは風に揺られ、その葉をこすりあわせて静寂を破った。
と、同時に。
ズンと地震のような地鳴りがあたりに響いた。森に住む鳥達はその木々から立ち去ると上空を彷徨った。その音の主はその立派な双翼をバッと広げ、ずっしりと構えている。彼の前方に何かいる。伸びをしていたのか、その双翼を畳むと彼は大きく息を吸った。
ギャアアアアアアアアアア!!!
まるで雷のような轟音とともに大きな揺れを発生させる叫び。それは絶対王者の風格を表しており、その叫びだけで近くにあった木々を幾本も倒していた。
桁違いな化物は、そうして俺達の目の前に現れたのだった。
「発砲はじめ! 撃てぇ!」
その掛け声とともに戦車が一斉射撃を始めた。その砲弾はオレンジの尾を一瞬魅せると、彷徨う婿へと直撃した。と言っても、奴はその一瞬で多少なりともその場から移動していたためか、数発は外れてしまっていた。
「巨体のくせに、なんて早ぇ回避してやがる!」
そう俺が叫ぶと、呼応して操縦手の山中が叫ぶ。
「隊長! 奴は光線かなんかのエネルギー溜めてるんだが!?」
「あぁ口元がピッカピカしてらぁ! 総員回避ぃ!」
その命令に各車は回避行動を取る。が、彷徨う婿はその光線を放たんと、こちらへその輝きを向けた。
その時、彷徨う婿の顔、体の側面に衝撃が走った。爆風がその衝撃の大きさを物語っており、彷徨う婿は明後日の方角へそのエネルギーの柱を建てた。あれが直撃していたかと思うと……ゾッとするぜ。
「サンキュー田中! 歩兵部隊をうまく展開してくれ!」
『分かってるわよ! 田中歩兵分隊、私に続け!』
ため息まじりに俺の言葉にそう返し、田中は自身の分隊を指揮し始めた。彷徨う婿が忌々しそうに睨む先には、RPG7やAT4を仕舞い、その場から退避する田中歩兵分隊がいた。一度そちらに威嚇の咆哮を上げると、彼らに向けて突撃を敢行しようとしやがった。
「第二射ぁ!」
「準備出来てます!」
戦車は自動装填式でかつ、二人乗り可能といわれる10式戦車である。しかし、その割には早い装填速度であり、もう準備は完了していた。その流れのまま俺は叫ぶ。
「機甲分隊、各個射撃! 撃てぇ!」
俺達の砲塔の回転は間に合わないが、中にはすでに向けているものもいたようで、一撃を食らわせると奴はよろめいた。
チャンスとばかりに幾つかの爆音がバラバラに、あたりに響いた。もちろん、彼らの狙いは彷徨う婿であり、奴は……
「馬鹿な! 傷がほとんど無い、だと……!?」
「山中、大丈夫だ! 幾つか傷はいってる! とりあえず回避行動! ハリーハリーハリー!」
けたたましいエンジンの音をかき鳴らしながら戦車分隊は、彷徨う婿のビームの射線に入らぬよう背後に回る形で退避する。しかし、奴はその巨体からは想像がつかない速度で跳ねるようにこちらへと移動してきた。
「はぁ!? 何だあの速度は!」
「隊長! やばい!」
ホップステップジャンプの要領でとんとんとんと軽々しく近づいてくる巨体は、本気で死を告げに来る死神のように思えた。ガリガリとキャタピラで地面を削りながらその場から退避するも奴は俺達の一部を捕らえていたのだ。奴はその勢いのまま体当たりを仕掛け、その攻撃をもろに食らったのは……
「ウェルキン!!」
「ウェルキンがやられた!!」
大きな金属音と共に、ウェルキンの乗っていた戦車が大きく吹っ飛んだ。横転して、とてもじゃないが中の状況を想像したくはない。クソっ!と舌打ちをする。死んでないと信じたいが、今はとにかくヤツから逃げる必要があった。どうなったかの確認はその次!
キューポラにゴンと拳を叩きつけ、八つ当たりをすると、喉マイクで操縦者に方向を教えて逃げていく。しかし奴は口にまたもやエネルギーを溜め込みだした。
「はは、薙ぎ払うのがお好きってかぁ! くそったれめ!」
「……ぶっ殺してやる。だが、とにかく今は撃たれる前に撃つ。車体をある程度ヤツへと向けろ! 指示する」
「ぐっ、無茶言うぜ!」
大きな慣性を感じつつ、分隊は木々を掻い潜りながらその車列を彷徨う婿へと向けた。すべての砲塔がヤツの方に向いたのだ。しかし、間に合わない。奴はその光線を吐き出していた。
「ぐっ!」
しかし、それはこちらに届かなかった。薙ぎ払おうと放出した瞬間、空から衝撃を受けたからだった。そこにいたのはアパッチ。空を浮遊する戦車だった。アパッチ分隊はそれぞれが散開し、空対空ミサイル、ヘルファイア対戦車ミサイルをぶっ放すことで標的にならないよう注意を分散させていた。また、どうやらミサイルはしっかりと敵を認識し、敵へと向かって突き進み、彷徨う婿へと直撃しようとする。
しかし、やつはそこからまた一歩、二歩飛び退くことでそいつを回避しやがった。クソッタレな機動力に黄色い液体が股間からほとばしりそうだ畜生。
『どおおおおらあああああ! 隊長、今のうちに!』
「あぁ、援護感謝ぁ! 機甲分隊私に続け! 任意射撃を続け、かつ散開しつつついてくるんだ!」
「だめだ、隊長! やつぁ速すぎる!」
各個撃破を可能とする程の速さは、次の戦車を狙い飛びかかる。だが、そこでアパッチの飽和爆撃が彷徨う婿を襲った。しかし、やつはまたもありえない機動で飛び上がり、翼をはためかせると急上昇。アパッチの1つを攻撃した。
『ぬぉああああああああああ!!』
「グルフ!?」
最悪なことに、狙われたのはグルフの攻撃ヘリであった。無線越しに断末魔と警告音が鼓膜を振動する。ドクンと、自身の中の何かがブチ切れた気がした。同時に、グルフを乗せたアパッチはクルクルと回り、遠くの木々へと隠れると轟音とともに赤い爆炎と黒い煙を上げ始めた。そして、通信はロストした。
「山中ぁ!!」
「隊長、落ち着いてください! くっそぉ!! なんてやつだっ!?」
叫ぶ俺に、冷静さを取り戻せと言わんばかりに怒鳴ると、山中は舵を切る。大丈夫。すごく動揺しているし、怒っているし、憎しんでいるが、今はとにかくもう一度地上部隊の攻撃と対空戦を行う。やつは上空から俺らに対して対地攻撃を繰り出しつつ、上空からの強襲タイミングを伺っている。
対空砲火に関しても俺たちは自信はある。機動力を考えるにあまり威力に信用はできないが……問題は、アーヴィングの攻撃である。最後の手段として、アーヴィングによる攻撃も考えていたのだ。
歩兵部隊として田中とともに行動しているが……
『こちら田中! 生きてる? 相棒!』
「あぁばっちりだ畜生め! アーヴィングは!」
『丁度対空捕獲機のポイントまで来ているし、アーヴィングも覚悟は決まっているわ!』
「……たった一人に命運を預けるのは、SSSから嫌だったが……アーヴィング!」
『は、はい!』
「今回も、SSSハントを頼む……!」
ぎりぃと歯を噛む。怒りが大半をおそうが、それと同じくらいにたった一人に最後の一撃を頼むのが辛かった。しかし、これ以上の被害は避けたいんだ。ここまでやるやつである、というのは想像以上であったとも言えるが……しかし、不甲斐ない。何が作戦だ。結局はこんな……!
「くそっ! 今はそんなことを考えてる暇はねぇ!」
「隊長! ポイント到着! 指示を!」
ガリガリと地面を削りながら俺たちは地をかけ、歩兵分隊と交差する。彼らは対空砲火を同時に開始し、希望の花火が空へと舞う。その時、残りのアパッチも同時に空対空ミサイルを発射、かつミニガンの銃撃を食らわせる。
しかし、彷徨う婿は魔法攻撃によってそれらを弾く。広範囲で強大な爆発が木々を吹き飛ばし、空中を灰色の煙で彩る。やったか?などとフラグを立てる必要すら感じないほど、ピンピンしている……!
「けど甘いんだよ!」
キューポラから上半身全て出して、スティンガーミサイルの引き金を俺は引いた。ロックオンはすでに済ませており、そのミサイルはまっすぐ彷徨う婿へと直撃のコースを取った。と、他にもアパッチの残ったミサイルを打ち尽くし、それらすべてがほぼ全方向から彷徨う婿へと向かっていた。機甲分隊もまた、対空砲火によりやつの退路を断っていた。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
大きな鳴き声とともに爆風が俺たちを襲った。直撃はしただろう。だが、これで殺れたイメージが浮かばない。が、そこで俺は口端を吊り上げた。
俺の隣を飛ぶように駆け抜けた男が一人、怯んで地面に近づいた龍めがけ、飛びかかった。
「いけえええええええええええええええええ!」
一撃が、やつの首元に突き刺さった。後は捕獲器で地面に張りつけにし、一斉攻撃によって倒しきるだけだ。しかし、言葉にするのは簡単なのだが、奴の生命力にはほとほと困ったものだ。彷徨う婿は大きく身を振り回しながら上昇していく。それから振り落とされる形でアーヴィングは吹き飛ばされてしまった。危惧していた事態になってしまったのだ。
「アーヴィング!!」
「アーヴィング! ちくしょう! 視認できない!」
森の中に落とされたアーヴィングだが、生死は不明である。先ほどと同じ通り、確認する暇もないのだ。
「畜生! 畜生!」
「隊長! あれを!」
山中がそう言って、ある場所を見るように促した。そこにはある男が立っている。スティンガーミサイルを手に、彷徨う婿を正面にして。
「サリバン!?」
「あんのバカやろう!」
放たれたミサイルは彷徨う婿の翼に命中し、再び奴は地に落ちた。だが、落ちたと同時に土煙を掻き分けてサリバンへと突撃したのだった。
「サリバン!」
「―――」
逃げるサリバンはしかし、奴の突進をギリギリで避けるも、その余波によって吹き飛ばされていた。
俺はすかさず、砲塔を奴に向け砲弾を撃ち放つ。バックステップで奴はそれを避け、サリバンとの距離は離れるが、どうやら奴にも限界が来たようで、ガクンと足を挫いていた。しかし、悪い状況でもあった。サリバンは以前倒れたままなのだ。
「さ、サリバン……」
「……く、捕獲器発射!」
アパッチや戦車より射出された捕獲器は、怯んだ奴に命中し、やっとの思いで地面に貼り付けにすることができた。苦しみの声を上げるやつを見て、俺は少し安堵した。
「やった!」
「よし……よし……!……!?」
しかし、だ。奴は最後の力を振り絞り、捕獲器による縛り付けがある中、サリバンへと突撃を試みたのだ。
「やばいやばいやばい! サリバン!」
「全力でサリバンの前に! 一刻も早く、やつを止めないと!」
「分かってる、隊長! でも、まにあわ……!」
戦車の履帯は全力で回転し、地面をえぐって奴の前に躍り出ようとしていた。だが……サリバンの前に出て、やつを止められるほど距離は無かった。
そして――――轟音が響きわたった。
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