十六話
投稿!
「というわけで、臨時宴会を行いたいと思いまする」
唐突に俺が口を開きそういった。皆、ポカーンとした表情でこちらを眺める。いいね、その反応好きだわ。
俺のとなりでは田中が頭を抱えていた。
「あ、あのねぇ……何がというわけで、なのかしら……」
「戦士に休息は必要なものだろ? アーヴィングによると、ここで一息つける酒場があるってよ。しかも村長が主催してくれるそうだ」
「罠とは思わなかったわけ? 何事も疑ってかからないと、また面倒事になるかもしれないのよ?」
ジト目で睨む田中。今のお前がそうしたって、可愛いだけなんだが……。とりあえず、俺は人差し指を立ててちっチッチッと指をふる。
「アーヴィングが言うにはエルフは高貴なる種族、血族らしいから、そんな卑劣なことをしないらしい。ま、可能性で動くのは良くないけども、仲間の言うことを俺は信用しているぜ」
「うーん……」
腕を組んで考えこむ田中。すると、目の前に並んだ仲間たちが、隊列を乱して各々喋り出した。
「良いじゃん!やすもーよー」「ねー!やーすーもー」「やーすーもーやーすーもー」「わしも休みたいー」「俺……俺が多分、一番休みたい……」『サリバーン!!』
「……小学生かよ……ははは!」
「はぁ、まったく……仕方ないわ。とりあえず、どういう宴の内容かによってはちょっと人の配置を変えるわ」
「ん、それに関しては任せたぜ、参謀」
「ちょーしがいいんだから……」
こいつらの行動に笑いつつ、小声で俺達はそう話し合うと、丁度戻ってきたアーヴィングの方を向く。
「首尾はどうだ?」
「ええ、大丈夫そうです。宴の内容は多少の会談と、食事……と、飲み会のようです」
「ん、なら数名は飲ませないようにしなきゃならないわ。毒が入ってるかもしれないしね。毒じゃなく、おそらく睡眠薬の可能性が高いのだけれど……」
「そうだな……」
「あ、毒検査なら俺の魔法でなんとかなります」
俺と田中は向い合って配置を考えようとしたのだが……こいつ、何でもありかよ。二人してアーヴィングに向き直り、「でかした」とつぶやいた。
「なら、こいつの魔法でなんとかして、楽しむとするか。安心して飲める幸せっていうのは、今後数日間は無理だろうしな」
「毒が入ってたらどうするの?」
「報復する。俺達は俺達のために戦うんだ。敵対する奴はねじ伏せる」
そう言うと田中は「分かったわ」と呟いた。……こいつ、俺の言う報復の考えがたぶん、アホみたいなことなんだろうなぁって表情している。まぁ、俺達に本当に害がありゃ、本気で対処するが……アーヴィングの魔法のお陰で被害は出ないだろう。
だが、被害が出なくても俺達に毒を盛ろうとしたんだ。報復はするさ。……まぁ、そんな展開にならないことを祈るし、そもそも高貴なる種族であるこいつらがする筈ねぇ。
「つーわけで、このヘリ達を仕舞った後、休息をとってくれ。また、飲み物、食べ物を出されたら必ずアーヴィングを通してくれよな!以上だ!片付け開始!」
『了解!』
その号令をすると、良い返事と共にみんなが敬礼し、早々に片付けを開始した。 すべてのヘリにはリアルにはないボタンがある。そのボタンを押すことによって数秒後にノートPCの形へと戻るのだ。そしてそのノートPCを、腕時計型方位磁石から出るホログラム倉庫へと入れる。
「んー……だいたい片付いてきたな……アーヴィング!」
「は、はい!」
「村長のところへ案内しろ! まずは俺から話をしておく!グルフ!」
「なんじゃ?」
「全隊員に待機命令だ! 少し待っててくれ!」
「了解した!」
俺はグルフに一旦部隊を預けて、アーヴィング(ほんやくしゃ)と田中でとりあえずエルフ村の村長のもとへと向かうことにする。一応、歓迎されているんだし、挨拶程度はしないといけないよね。
集まったところから少し歩き進むと、大きな木の下あたりに作られた隠れ家っぽい扉が見えた。どうやら、そこが村長の住む家らしい。
少しして、いい服を着たエルフが現れ、俺達をその扉まで案内した。そして、その扉にノックをして何かを話す。おそらく来客がきましたよーって内容だろうな。
「えーっと、入っても良いらしいです」
「ん、ありがとうアーヴィング。引き続き翻訳を頼んだ」
俺はそう言って扉の中へと入る。そこは、昔見たくまの○ーさんのラビットの家といえばわかりやすいかな。木の中の家、木の幹こそが壁であり、屋根である。その中央で胡座をかいて、どっしりと構えた爺さんがそこにいた。
「あんたが村長か」
俺は目をしっかり見て、そう聞く。それをアーヴィングは翻訳して聞かせた。この後の会話もアーヴィングが翻訳してくれるだろう。後で褒美が必要だなぁ。
「いかにも。わしがこのエルフの村の村長である。ささ、立ったままでは辛かろう、座って語ろうぞ」
そう言うと爺さんは右手の先を俺達の足元へ指した。俺達は言われるがままに座る。すると爺さんはニカッと笑った。
「はっは、地べたに座る奴が、人間にいたとはな……それとも、わしを気遣ってか」
「慣れてるのさ。俺達は他の人間たちとは違うからな」
「ほぉ、何かな?自分たちは特別というのか?」
「あぁ、そもそも世界が違う。異世界人だよ」
その言葉に、エルフの村長は固まった。少し考えこむようにして、また話し始めた。
「ま、まぁ、そのことに関しては一旦後に回そう。まずは、ここまでの長き旅、お疲れ様と労わさせてくれ」
「ありがたく頂戴いたします」
俺と田中、そしてアーヴィングはそのまま頭を下げる。それを見た村長さんは大笑いをした。何だ?と急に笑い出した村長さんに驚いた俺達は顔を上げた。
「いや失敬、これほど礼儀正しき人間は久しぶりだ。確かに特別なのやもしれん」
「その言い方からして、人間にあったことがあり、かつその人間の、人間性の酷さを見たような感じだが?」
そう聞くと爺さんは渋い顔をして話す。
「そもそも、人間と人型の別種族は仲が悪い。それは常識であろう。……まあ、異世界人にこの世界の常識を語ろうが、無意味であるのだがな」
「待ってください」
そこに待ったをかけたのは俺や田中でなく、アーヴィングだった。ハッとして俺に顔を向かせるアーヴィング。おそらく、勝手に発言をしようとしたことに今気づいたのだろう。俺は頷いて返した。
「えっと、それは可笑しいです。人間とエルフ、龍族とかは仲が良かったはずです。ギルドでは色んな人外人型種と人間が賑わってたはずだし……」
「少年、よく知っているな……その通り。数百年前、人間たちは、人間の人間による人間のための国を作り、我々人外人型種を排除した。それが今の王国だ」
「……そうか」
あの国から離れなければならない理由がまた増えた。
「で、私からも質問して良いかしら?」
すると、今度は田中が村長に話しかけ始めた。いつになく真剣な表情をする田中はとても美人だ。だが、嫌な予感をさせた。
「良いぞ」
「何でエルフっ子一人も外で見かけなかったのか。その理由を聞きたいわ」
そう聞いた瞬間、村長はキッと目を鋭くさせた。
「……この村は今、危機的状況下に置かれている。普段人間に発見されぬようになっているこの村が、貴様達に見つかったように」
「魔力切れか何か……でしょうか。でも、エルフ一人ひとりの魔力量なんて、そうそう減らないし、人間より多いはず……」
アーヴィングは翻訳してくれる。同時に質問して自分の疑問を解こうとしていた。ただ、俺にはエルフの魔力量だとかなんだとかは知らないんだが……。
「……竜だ。それも魔力を帯びたな」
「ガウェイン……!」
『ガウェイン?』
竜と聞いてうんざりした顔になりそうになったのだが、アーヴィングのこの驚きようからして、絶対面倒な相手なのだろうなぁ。取り合えずアーヴィングに聞いてみた。
「SSClassの竜種で、またの名を【彷徨う婿】と言います」
「へぇ、彷徨う婿……ということは番がいたのかな?」
田中はそう呟くと、顎に手を添える。こいつの考えている時の姿は、話しの内容を記憶の片隅に入れる時にもする。
「はい。彷徨う嫁ことラグネルが番となります」
「そいつらって一体何なんだ?」
俺がそう聞くとアーヴィングは今よりも更に真剣な表情になった。い、一体どうしたんだ?
「彼らは期間限定イベントで出てくる敵で、ガウェインは敵の中で唯一魔法攻撃無効化がついていて、ラグネルは敵の中で唯一物理攻撃無効化がついています」
「ラグネルは面倒くさそうね……救いなのは物理攻撃無効化が唯一そいつだけって話かしら」
「……そうだな。だがまぁ、それだけじゃなさそうだな、アーヴィング」
俺がそう聞くとアーヴィングは頷いて、再度語り出した。
「この彷徨う婿、嫁には物語があります。この物語が俺は好きでした。でも、あまりにも悲劇的な話でしたし……あの」
「何だ?」
アーヴィングは決意をして、俺達に頭を下げた。
「あの竜を救いたいのです。生きてることが判明したのなら、なおさら……」
真剣な態度に俺達は互いに顔を見合わせた。村長への翻訳を忘れないことを言っておきつつ、話してくれと俺は言い、アーヴィングは頷いて語り始めた。
「昔々のお話です……」
誤文誤字脱字感想等など、あればコメントしてくださると嬉しいです!