十三話
よしよし、このまま第一章終了間近だぜえ。
他国の戦争なんか関係ない彼らは南へ向かう。
応援、よろしくお願いします
「……残ったのはこの数だけか……」
ダグラムのその呟きは、補佐官以外には聞こえず、この街の空気に溶けて消えた。現状、彼の視界に入るのはおおよそ一個中隊と呼べるほどの人数はなかった。精々、一個小隊程度である。
約40人程度を一個小隊とし、ダグラムの中隊には6個小隊は用意されていたはずだった。つまり、240〜250人の内、40未満までしか生き残らなかった。
だが、これでもまだ幸運だった。おそらく、ダグラムはそれに気づいている。一瞬で消し飛ばせるあの力を持っていながら、一掃しなかった。彼はこう考える。おそらくあの時空にいた天罰の如き魔法を放つ誰かが、我々にあえて攻撃をしてこなかった。その理由は私の部隊に……。
「隊長、じゅ、準備が整いました……きき、帰還いたしましょう」
「……そうか。いい働きぶりだ。ありがとう」
部下からの報告に自身の思考を一旦止めて、その働きに感謝し、今の状況を振り返ってみる。
壊滅したのは第一小隊、第五小隊、第四小隊で、全滅したのは第二小隊、第三小隊。そして、第六小隊は散り散りに散開し、遊撃を行っていたため数名は行方不明、それ以外はほぼ戦死となった。今ここにあるのは壊滅時に生き残った者達を再編成した一個小隊のみ……。
気が遠くなりそうになった。まだ、戦い始めてから約1時間、またはその倍くらいの時間くらいしか経っていない。その間で決着がついた。話し合いまでだ。そのうえ撤退準備時間を入れてたったそれだけなのだ。
「……私達は、とんでもない者たちを敵にしてしまっていたようですね……」
「……違うな」
「え?」
部下の言葉を彼は否定して考える。彼女たちの話から察するに、ギルド所属……つまり、ギルドの手先である可能性があった。私達はギルドを敵に回したのかとも思ったが、彼女等の知らないところで我が祖国と裏取引があった可能性が浮上した。おそらく、ギルドは敵に回っていない。ある意味あの街のギルドは敵……に回っているかもしれない。
しかし、だとすると敵はもしかするとわが祖国……という事は、今回の命令を出した連中の可能性がある。偶然という可能性もあるが、ほとんどその2つくらいが大きく意見として上がるだろう。
よって、彼女等は本来敵ではなく、旅する者達だ。ギルドに所属する冒険者たちは自身に危害が加わるとき、攻撃を行ってもいいものとされている。まぁ、自身の階級を魅せつけて、他人を脅す等、そういうギルドに対してのイメージを悪くする者達に対しては処罰があるとかないとか。
でも、今回はこちらがふっかけ、彼女たちは戦わざるを得なかった。逃げることもできただろうが、人命救助を優先としたため逃げられず迎撃……。
「……とりあえず、帰還しよう。帰って重い報告と、疑問をぶつけなくてはならん」
「……は、はっ!」
そう言うと、彼らは出発しだした。列を作り、まっすぐと自国へと。その途中で、俺に出会った。俺達に一瞥すると、早々に通り過ぎていこうとする。
「待ってくれ。最後に聞きたいことがある」
「……偶然ですな。私にも最後に言いたい言葉があります」
顔を合わせることなく、俺はとある家の壁にもたれたまま、腕を組んで遠く空を眺める。なんとなく、ダグラムも前を向いたままで俺の方を向いていない気がした。
「お前は、俺達を憎むか?」
「……」
ダグラムは黙ったまま、先頭を見続ける。それから少し間を開けて、ダグラムは口を開いた。
「……私の言いたかった言葉を聞いたらわかる」
「では、なんだ」
俺がそう聞くと、ダグラムはこちらをギロッと睨んだ。申し訳なさも含まれているだろうが、多少の恨みも混ざっていそうだった。
「貴様とまた戦場で相見えるときは、私の部下の仇をとらさせてもらう」
「……はっ、その時はせいぜい、一般市民を巻き込まないようにな」
そして、彼らはまた進みだした。俺はというと、なおも空を眺める。今日はやけに晴れていて、腹が立つくらい青かった。
その晩、俺たちは町民の勧めでこの街の酒場で宴会を行うことになった。俺はというと、中田と少し外に出て、星空を仰ぎ見ながらエール?とかいうお酒を飲んでいた。
「未成年の飲酒は禁止されてるわよ」
「この世界じゃお酒は二十歳になってから、とはなってないさ。気にすんな。中身はそれこそ二十歳ちょい何だからさ」
そう言って一杯仰ぐ。ぷはっと一息つくと、空いたグラスを少し眺めた。
「結局、後味の悪い結果に落ち着いたし、最悪ではあったが……この二国の対立に俺達は関係はない。挟まれないように、この森を突破して違う国を目指そうと思う」
「それに賛成……と言いたいところだけれど、森は勘弁してほしいわ」
中田もキュッと一口仰ぐとこちらを向いた。少し色っぽいその雰囲気に俺はビクッと体を硬直させる。なんだかんだ言って俺は中身は男だし、中田は見た目は美少女なのだ……ドキッとしちゃうだろ?
「ん、んじゃ、どーするよ」
「輸送ヘリに乗って、近場で降りるのよ。おそらくこの森上空は敵浮遊物体とか無いでしょうし」
「かと言って、完全にないとは言い切れないだろ。むしろ森だからこそ、上空を飛んでいる可能性だってある。その時輸送ヘリに奇襲でもされたら」
「違うわ。気をつけるべきは森の中よ」
中田は俺の話をへし折り、森の方へと目線を向けると、俺にこう続けて話した。
「おそらく相手はもう手段を選ばない可能性がある。あの町中での魔法特殊部隊だっけ?が出てきている以上、その可能性はとても高いと見てまず間違いないの。そして、地の利は私達にないし、ゲリラ戦になったりするとストレスが貯まるし、その奇襲で負傷者……最悪の場合死者が出るかもしれないのよ?」
「……」
「たとえ私達は強くても人間よ?PTSDにならないために罪悪感が感じにくい状態になっているけど、それだっていつか気苦労になる。ストレスが溜まって暴発したっておかしくない」
「ま、森がどれほど続くのかによるがな。見た限りでは車は通らないほど木々の間は狭いが、もしかするとそれほど大きな森でないかもしれない」
すると、中田は地図を胸元から取り出した。
「ちょ、おまっ!? どこから取り出してんだ!?」
「ふっふっふ、女だったら一度はやってみたいじゃない? 四次元胸元ポケット」
「女相手にやることじゃないだろ……一応俺も、女になってんだし」
「えーちゅきじゃないのぉ?」
「……腹立つから早く続けろ」
「はい」
俺はここで起こるのは大人気ないと、一旦落ち着いた。そして、中田へと笑顔を向けると、嫌に素直に返事をして地図を広げた。んだよ、俺、何かしたのか……?
中田はそのまま、地図のある点を指さす。今いる街のその隣、大きな森を……
「……ん、言いたいことはわかった。意外と大きいんだな、この森は」
「ただ、越えるだけなら全力で、上から半日、下から約2日か3日と言ったところかしら?」
「そして、その先の街で補給して他国へと向かうと……」
問題点はその補給するべき街が、この二ヶ国のどちらかという点だ。帝国ならおそらく大丈夫だが、クスタンブルグ王国の占領下であった場合、また暗殺部隊とかが襲い掛かってくる可能性がある。緊張が続くのもストレスになってしまうかもしれない。
「でも、心配なのは暗殺部隊が出てきた際の対処法よ」
「……なんだ?殺るしかないじゃないのか?」
「ばーか、情報よ。情報を聞き出すの。私達は知らなさすぎる。アーヴィングの知識のおかげで地理的問題は解決するにしても、各国の情勢が分からないから……誰かさんのせいで」
……し、視線が痛い。だって、あの人いい人そうだったし、情報割らせたってバレて、ダグラムが殺されるとか……うーん、少し夢見悪い。まぁ、虐殺を止められなかった罪で裁かれるのは良いんだけどね(どっちだよって突っ込みそうになったやつ、いいぞ?つまり、俺は俺達のせいで死なせたくないという傲慢さを持っているのさ)
「……悪かったよ」
「……今一番ストレスを感じて疲れきっているのは、あなただと思うの」
「へ?」
唐突な考えを披露され、素っ頓狂な返事が出てしまう。はいはい、はい?どういうことだ?
「リーダーとしての責務、ほぼ連日の戦い、性転換に、異世界に、感じない罪悪感……そこに今後の計画や部下たちへの配慮、作戦立案などなど……抱え込みすぎよ。ストレスを感じさせないって言っときながら自身が感じている。強迫観念の様に」
「んなあほな……そんな馬鹿な」
「考え方だって人を殺してから変わってきたと思うわ。聞くけど、なんであの時尋問をしなかったの?情報を聞き出すことはできたはず」
「それは、情報を俺達に明け渡したってことで殺されて欲しくないし」
「そこよ。私達のせいにして欲しくない。その傲慢さは、ストレスを感じさせないように避けて考えられるようにって体があるいは頭がそうさせているのよ」
「……」
俺はとりあえず一杯、口へと運んだ。酒の味はしなかった。
「……まぁ、どちらにしろある情報は聞き出しちゃったし、それに彼ならばれないだろうし」
「え、何?」
「頭も悪くなってない?」
「それは心外だ!?」
「……灰薔薇騎士団よ。それに私達のことを公表していないことも……そう考えると彼、喋りすぎてポロッと死ぬかもしれないわね」
最後のつぶやきは聞こえなかったことにしよう。にしても、ストレスか……変わった環境に心躍らせたものの、逆に疲弊しているとは、なんてこった。
「……話を戻そうか。考えなしに動くと足を取られやすいが、それを覆すほどの戦力がある今、考え過ぎは俺に毒だな」
「ふふっ、脳筋」
「うるせぇ!」
「じゃあ、どうします?隊長」
「参謀、あなたの意見でゴー、だ」
「了解、じゃあ森を空から突破し、街にて補充。向かって来る敵は殲滅し、そいつ等から情報を聞き出すわ。そしてその後、向こうの国、南の楽園、娯楽大国ラ・シェルムーン共和国へと向かうわ」
悪い笑みを浮かべて、俺達は何度目かの乾杯をして笑いあった。店長は何この人たち怖いみたいな顔をしていたが、んなもん関係ねぇやい!
そして、翌朝俺達はこの町の中央に集まり、輸送ヘリを用意する。
「それで、このあとはどうするんじゃ?」
「グルフか。いや何、この森を超えて向こうの街で補給して、楽園へと向かう」
「そうか……向こうには別嬪さんがおるかのぉ?」
「ジーサンが何かイキイキしてるぞー」
グルフの呟いた言葉に俺がそう周りに言うと、笑い声が上がる。と同時に他の連中が集まってきた。
「え、何?グルフのおやっさんがどーした?」「あっはは、たぶんまたキャバクラのお話じゃないかな?」「コラ!ウェルキン、それは内緒じゃとなんども!」「ぶぇーっきしっ!」「あ、サリバンそれは丁寧に扱わねぇと爆発するって!?」「ギャアアアアア」『サリバーン!』
「……バカで、ノーテンキな奴らだな」
「そうよ?貴方についてくる、とても頼もしい仲間よ。彼らなら当分ストレスとかは感じないでしょうね。馬鹿だし」
その様子にふっと俺は笑うと、なんだか肩の力が抜けたというか、重い荷が降りたような気分になった。そこには約三十人のバカが、学生みたいなノリで小突き合っている風景が広がっている。ほんと、小学生かよって突っ込みたいくらいに馬鹿馬鹿しい。
「何度目かな……この部隊でよかったって思えるのは」
「……多分これから何度もあるでしょうね」
中田はふふっと笑ってこちらを向くと、後ろ手にくるりと翻して向こうへと歩く。お、女の子だ。普通に漫画やアニメで見かけるような可愛い仕草をした女の子だった。
ちょっと見惚れたが、自身の体を思い出した。胸もある、アソコはないこの状態。女体化……。
「俺も、これがストレスにならないようにしたいな……」
「聞こえてるわよ?私はなりたかったから逆にストレスではないわ。でも貴方にとってはストレスかもしれない。慣れるのだって時間がかかるでしょうね」
「……」
「でも、いつか言ったような気がするけど、あなたはあなたでいいじゃない。気にせず、男らしい女になりなさいよ」
「……だな」
中田はこちらに振り返って、ふふっと微笑んだ。その時丁度朝日が彼女の後ろに上り、まるで後光が指しているかのようだった。
「……閣下、準備が整いました」
「ん、ありがとうアライブ。よーし、全員搭乗!出撃するぞ!」
『了解!』
「俺達はこれより、楽園へと向かうぞ!」
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では、またよろしくお願いします。