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十二話

ふぃぃぃ、何とかかけてるけど……うぅん、そろそろ逃亡編終わりたひ……!

「投降した? なんだと、か――」

『一旦作戦は中止だ。繰り返す、作戦は中止だ』


 東側の森で戦闘が発生し、今度は西側の森で敵が投降をしてきた。おいおい、武器を持たない一般市民に攻撃をしておいて、いまさら自分たちだけでも助けてというのはおかしいだろ。

 構わん、攻撃しろと言ってしまおうとして、中田が作戦中止を唱えた。


「まて、中田! 何で作戦中止にする!奴らは―――」

『まてまて、待つのは貴女よ。私も航空支援する前は熱くなってたけど、一旦落ち着いて』

「だが!」

『落ち着いて、貴女も今武器を持ってない人を殺そうとしているのよ?』

「しかし、それは」

『誰がための戦闘よ……彼らを許す、許さない、殺す殺さないは町の人達が決めること』

「俺達は俺達のために戦っている」

『だからこそ、今一度、彼らが戦闘を止めたのだから私達も様子を見るべきよ……後悔してからじゃ遅いわ』

「……分かったよ」


 中田の抑制によって、一旦深呼吸をする俺。何と言うか、ちょっと熱くなりすぎてたかな?まぁいい、とりあえず俺は彼らの武器を取り上げ、無力化してから捕らえろと命令を下した。


「……今一度、冷静になる……ふぅ、子供すぎたな」


 ため息を付きながら、ゆっくりと窓の外に見えるトム猫達の着陸を眺めた。



 それから少し。

 全員、町外れの広い教会に押し込んで収容し、町民達を近づけないようにさせた。こうしておかないと、もしかすると殺しにかかるかも知れないのだ。恨みというものは恐い。

 そして、代表して投降を願い出た隊長殿をこちらへと招くよう指示し、俺は部屋にアーヴィング、中田を入れ、聞く体制を取る。まず、会計ことアーヴィングは相手の本質を見抜く魔法を習得しているから、それを使用し嘘発見やらそいつの正直な気持ちを探ることにする。非人道的ではあるが、今のところ国単位で俺は敵を作っているし、しゃーないしゃーない。

 中田は参謀だし、色々と人から聞き出すことは得意としている。だからこそどのような考え方を持つのか、具体的に引き出す役としてここに居させたい。それに、おそらく一番冷静だしね。

 そして十数分の時が経って、本部、今いるこの部屋の扉が開いた。

 その最初の感想が、ん?なんだこいつである。

 俺の眼の前に現れた男は、優しげでダンディなおじさまだった。しかし、こいつは見かけによらず、町民虐殺を実行した男だ。油断はならない。

 一応、両手を後ろにして片手にベレッタを持つ。そして、にこりと笑ってこう聞いた。


「ようこそ、貴方が町民虐殺部隊の部隊長さん?」


 ……おや、反応が普通ではない。大抵こういう場合は、相手に怯えるもしくは怒るの二種類の反応を示す。頭のいいやつならごまかすかもしれない。だが、彼は痛烈な表情をした。

 その時点で少し、彼にも人としての情があるのかも?と期待する。まぁ、あの王子の国の騎士だし、そんなわけないだろうけれど。


「……そうだ。私が、この街に虐殺をした部隊の隊長だ」

「へぇ、意外としっかりと認めるのね?」


 中田が壁をせに腕を組んだポーズでそう言うと、彼をじっと見る。隊長は冷や汗をかいてはいるものの、それを気にせず、しっかりと俺の方を見る。

 意外と芯がしっかりとしていそうだ。流石は騎士、といったところ?


「私の部下が、行ってしまったことだ。責任は私にある」

「責任感はあるのはいいが、街の住人はお前さんを許すかね―――」

「許さんだろう。わかっている。非戦闘員への攻撃など、言語道断」


 俯いて、悔しがる。……なるほど、この人はまだ騎士かもしれない。騎士としての誇りは多少あるのかもしれない。ちらりと隣にいるアーヴィングを見る。アーヴィングは首を横に振って、彼が心から悔やんでいることを伝えてくれた。


「何故、それを分かった上で行ったんだ?」

「……私のツメが甘かったから、一部の部下が暴走し、このような事態を巻き起こしてしまった」

「……へぇ」


 部下に責任を押し付けているのか、はたまた本当のことであり、責任感はあるのか……わからないけれど、とりあえず俺は中田を見た。……何でそんな目をする。そうだよ、何聞きゃいいかわからなくなったんだよ。頼みますよ、エンジェル!


「そうね、事の成り行きをすべて聞かせてくれないかしら」

「……部下たちの安全は」

「確保済みだ。だけど勘違いすんなよ?所謂一時的だ。変な気を起こしたら、即座にあの世行きだってことを頭に入れておけ」

「……この街は向こう側のレッドリベリオン帝国と、我々の国、クスタンブルグ王国と挟まれているものの中立を保ち続け、戦闘を回避し続けていた街でした。しかし、ここ最近帝国軍のスパイが確認され、中立性を欠いていないか確認しに向かったところ、帝国軍の兵団がここで補給を行っているのを確認し、戦闘した」

「そして、帝国軍部隊は押し込まれ、ここで決戦を行ったと」

「……その際に、住民に被害を与えてしまった」


 ……すまん、ちょっと眠い。

 真面目な話、ここは中立をしていて、秘密裏に他国の軍と関わりがあったことが発覚して、攻撃しに行ったら戦闘……と言うのは分かった。だが、こうも話しが長引くと眠気が……ファー。

 しかし中田は顎に手を当て考えている。というより、何かを思い出そうとしていた。


「クスタンブルグ王国ねぇ、あそこの王子さんとはあまり仲は良くなくてね」

「あ、そうそう、そいつそいつ! あの王子のいる国の騎士なのね」

「今気づいたのかよ……」

「あんな男を覚えておけっていうのは無理があるわ」


 どうやら中田は気に入っていない様子。まぁ俺も俺であいつ苦手だわ。いつまでも覚えておきたいとは思えねぇ。 

 とそこで、この男は我が国の王子をご存知で?と驚いたふうに聞いてきた。まさか、この人にまで情報が行き届いていない?


「俺達の事を知らないのか?」

「ふむ……いえ、密偵に内部調査をさせた時に、秘密裏に行動していた部隊が帰ってきていないという情報が入った。その詳細の中で、あの連中は恐ろしいと聞いた……それがどこの連中かは知らぬが、お前さんたちか?」

「その前にとある大きなモンスターの討伐についての話とかは?」


 自身の質問を折られ、むぅと少し困った顔をした。いやいや、お前の祖国にスパイをはるってどうなってんだよ……。その心の中の突っ込みもいざ知らず、討伐についての話を聞いたとたん、はっとした顔になった。


「や、やはり、あのクラスSSS(スリーエス)はあなた方が……」

「なんで驚いている」

「いえ、上から聞いた話では、我が国最強の騎士団、灰薔薇騎士団が戦闘し、奇跡的な勝利を収めたという話が上がっておりました」


 彼の言葉に中田は目を見開いて焦るように聞いた。それにアーヴィングが答える。


「ま、まって、ギルドは公平じゃないの?」

「いえ公平ですよ。ギルドだけは独立して各地に点在していますし、戦争にも加担しないはず」

「おそらくその村のギルドにて汚職があったのかも知れませんな」

「例えば、ギルド本部に報告する前に証拠を隠滅する、とか?」

「おそらく。手柄にすることで軍の必要性、冒険者の不要性、そして国民からの関心を買ったのでしょう」

「文字通り、ね」


 ……何気に普通に会話に入っているおっさん。つぅか、あんただれよ。


「……まぁ、いい。とりあえずまずは自己紹介と行きましょうか。俺はルールという名前だ。あなたは?」


 しれっと偽名を使っておく。一応、さっきの会話で多少頭のキレる奴というのはわかった。本名を言って調べられるのは嫌だし。

 だがまぁ、アーヴィング、お前後でしばくわ。何でそんな変な顔してこっちを向いたんだよ。えー?本名じゃないじゃないですかぁー?って言ってるようなもんだぞそれ。

 おっさんもぴくっと眉を動かしたあと、ダグラムだと答えた。おそらく察したようだ。くそっ、懲罰なっ。

 だから、このダグラムというのは本名かはわからない。が、とりあえずその名を呼ぶことにする。


「わかったわ、ダグラム。話を変えるけど、あなたに合わせたい人がいるの」

「入ってきて」


 ガチャンという音と共に扉が開き、俺の仲間に誘導されて入ってくる老人と少女。老人の方は火傷によってボロボロで、おそらくそう長くはない。少女は片目をなくし、眼帯をつけていた。


「……彼女らは」

「あぁ、お察しの通り、この街の被害者達だよ。このご老人が亡くなられた町長の代理で、彼女は町長代理の孫娘さんだ」


 ダグラムは下唇をギリッと噛んで、俯いた。合わせる顔が無いようだな。彼女たちも彼を見据えて、怖いくらいの睨みを効かせていた。


「……許される事だとは、到底思っていない」

「そうよ、許されないでしょうね」


 中田はそう言うと、そのまま窓の外を眺めた。どうやら中田はこういう場面が苦手なのだろう。


「……先に、言うことがあるんじゃないのか?」

「分かっている、だからこその前置きだ……すまない、本当に申し訳無い」


「……恨みます」


 重かった。その言葉に幾程の想いが詰まっているのかはわからないが、少女から発せられた言葉はあまりにも重かった。

 ダグラムは俯いた顔を上げ、彼女の目を見た。酷く、濁っている。


「……この子、片目は潰され、もう片目は視力が著しく低下している。殆ど盲目と言っていい」

「……っ、すまない。すまない……」


 俺の言葉にダグラムはそう呟き、顔を伏せた。罪の意識がある様で、本気で何かに悔しがっていた。おそらく、自分自身にではないだろうか。


「……じゃが、わしは、仕方ないと思っとる。貴様らを許しなどはしないが、仕方がないとは思っておる」

「……は?」


 不意に老人が息をごうごうと整えながら話す。仕方がないとはどういう意味だ?訳のわからなかった俺はその老人に対して聴こうとした。


「それはーーー」

「中立性を欠いた行動、帝国軍を駐在させ、補給をさせていたことね」

「分かっておった、クスタンブルグはそれを許さぬであろうことは。だが、年々様々なところで戦場になり、戦闘が起き、戦争が始まる。そんな時代の流れの中で、中立を貫いてきた私達の街だが、ここでも大きな戦争になるという話を聞いた」


 老人は苦しそうにするが話を止めなかった。死期が近いのか?


「お、おい無茶すんなよ?」

「だからこそ、今度こそ、戦争に巻き込まれると、考えて……」

「そんで、自身の街を守るだけの力を手にしたかったわけね」


 中田はそう聞いて、ため息をついた。あー、つまり、クスタンブルグより帝国を選んだことに怒られるところだった。ところが、その時帝国の兵とばったり出会ったわけだ。そもそもクスタンブルグが怒る点として、中立と謳いながら、敵の手を借りてたことなのだ。


「だから、こういった攻撃を受けるのは仕方ないと」

「あぁ、わしは町長ではないから、良くは知らんが帝国の兵を見ていた時点でそうだと思った。いつか、攻撃は受けるとな」

「……だが、一般市民、民間人への攻撃は国際条約として禁止されている。私は最悪なことをしてしまった」


 そいつは初耳だ。一応、一般市民への攻撃は許されてないのね。しかしだ、何だかきな臭くなってきたじゃないの。

 で、中田は目の間を指で揉んであー、と唸る。


「戦争したのね……開戦の狼煙をここで上げちゃったわけ」

「……おそらく、ここはもう一度戦火に見舞われる可能性がある」


 おいてけぼりを食らうアーヴィングと俺はポケーっとしつつもしっかりと頭に内容を入れていた。……なるほど、敵国の兵と戦ったという事は戦争をすることになる。

 しかし、戦火に見舞われる可能性がある?ここには何かしらの価値がある?


「何故ここなんだ?」

「……あぁ、そうね。何でこの街が狙われるのか。また、中立を貫けていたのか」


 老人に目を向けて聞くと、静かに首を振った。少女も首を振る。わからない、か。


「……おそらく、魔法石の資源地だからでしょう。資源を両国に渡し、両国に中立であるよう施したとか、攻めてきた時には魔法石採掘場を破壊すると脅したとか……ですかね」


 アーヴィングがそう言ってあたりを見回した。……良くはわからないが、この世界には魔法石なるものがあるらしい。こいつの言いぶりからして、貴重な資源なのかも知れない。


「さてと、許す許さない、仕方ない、禁止されているとかおいておいて……そろそろ本題に入りたいのだけれども?」


 俺がそう言うと、中田はこちらに向いて、そしてまた目をそらした。だいたい、どんな内容を話すかを察したからだろう。


「君たち、彼らをどうしたい。今彼らは武器を失くし、攻撃、反撃すらできないだろう」

「! ま、待ってくれ、責任は私にある! 部下たちには手は出さないでくれ!」

「ダグラム、今俺は彼女たちに話してるんだ。お前の意見は聞けない」


 ダグラムは悲痛な顔をしてぐっと息を漏らす。……そんなに部下が大切か。何か、わかる気がする……こいつの気持ちが。

 だが、聞けない。決めるのは彼女たちだから。中田が考えたこととは、とても酷いことだ。事実戦闘をしたのは俺達だが、彼女たちの為という理由を作ったわけだ。そして、判断を彼女らに任せることで我々の戦闘行為に正当性を付けさせるわけだ。汚い、エンジェルとは何だったのか。


「で、どうなの?」

「……許しません。ですが……彼等を、返してあげて下さい」


 ……でも、中田はこうなることも予想してたんだろうなぁ。この少女は怒りこそあれど、復讐心に囚われるような弱い子でない。そう踏んだのだろう。見た目が優しそうってだけだけど。……こうなると予想出来てたのかなぁ。不安になる。

 それを聞いて俺は目を瞑り、そして目を開け笑顔になった。


「……ん、分かった。ダグラム、急いで撤退の準備をしろ。お前らを見逃す」

「……すまない」



   ☆



 そして、ダグラムの指示の下、彼らは教会から出て準備を開始した。その数を見て、ダグラムはどんな表情をしていたのかはちょうど見えなかった。が、おそらく悲しいだろうな。

 俺は俺で思い返し、圧倒的に叩きのめしたこの事を、彼らは許さないだろうと考える。俺達もまた、彼らみたいに一方的な戦闘をした加害者だ。だから、モンスター狩りでなく人と戦うのは嫌なのさ。

 ボーッと窓から彼らの準備を見ていると、中田が隣に立つ。


「……何?」

「いや、もう少し話ししても良かったんじゃないの? 戦争とか色んな情報が手に入ったでしょうに」

「戦争とか、どうでもいい。俺達は目の前に現れた敵を倒し、ただ放浪するだけ。……それだけだから」


 ふぅん、と中田は何かしら考えるような返事をして、この部屋から出て行こうとする。その足音は扉の前で止まって、扉の開く音がしない。


「でもま、それが私ららしいじゃん? タンポポは綿毛を空へと飛ばし、風に乗せて放浪の旅へと向かうのだから」

「……ん、ありがと」

「大丈夫、私達がいるわ。頑張って、隊長さん」


 そう言って、中田は部屋から出て行った。俺は尚も窓から外の風景を眺める。窓から見える空は、意外にも晴れていた。

誤文誤字脱字感想等など、あればコメントしてくださると嬉しいです!


では、またよろしくお願いします。

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