八話
お久しゅうございます。
申し訳ありません……今後もよろしくお願いしまzzzzzzzz…………
〜〜宿にて〜〜
「え〜、本日は二回もの戦闘、お疲れ様でした!長々と話すのもなんですので、早々に言わせて頂きます。」
その挨拶をするのは今回一番役に立ったアーヴィングである。実は彼、長い話の内容を頑張って考えていたのだ。が、周りを見渡すと、豪華な食事の前で涎を垂らしながら今か今かと待っている先輩や同僚が、アーヴィングの方を忌々しく睨んでいたのだ。
これは話す内容を省略しなくては、自分の首が胴体から離れ、ジャンピング土下座をかます羽目になってしまうのだ。少し心の汗を頬に伝わせ、恒例の合図をする。
「乾杯~~!」
『乾杯~~~!』
甲高い音がもの凄く響く。と同時に先程の静けさが嘘であったかのような騒ぎ様が、この部屋で起こる。宿屋の店主も驚いたであろう。奥からさらが割る音が聞こえた。しかし、それよりも皿に箸が当たる音のほうが上回る。というか、皆少し意地汚すぎやしないか? そう思いつつアーヴィングも箸を進める。
「なあ、アーヴィング。お金を少し渡してくれないか?」
「え?なぜです?」
このタイミングで、隊長がアーヴィングからお金を少しだけ預かるのはワケがある。会計と決めていたが、もし離れてしまった場合に一文無しじゃあ困るのだ。そして、それを言う機会が少なかったのと、忘れていた……からではない。らしい。
「まぁ、そーゆーわけだ」
「……りょ、了解です」
そう言って、ちょっと……?くらいの所持金を渡したアーヴィングに、体調はありがとうと笑顔で言った。スっとそこから隊長が去ると、誰かの悲鳴と騒がしい殴り合いの音が響いたのは言うまでもない。
それにしても、酒が入ったオヤジのようなイケメンも中にはいるので、なんだかシュールだ。だって、イケメンやダンディな男が、上半身裸で、踊っているんだぞ? 中身が未成年だったこともあり、アーヴィングは水を飲みつつ、そのシュールさに苦笑いをしていた。
すると、ダンッと叩きつける音がとなりから聞こえた。そこには美人が二人いる。そう、隊長と参謀だ。そして、そのふたりは酒の入ったジョッキを叩きつけたあと立ち上がる。
「よおおおし! 俺も脱いじゃおっかな!?」
「ダメだぁぁああああああ!」
勢いよく上着を脱ごうとする隊長を、思いっきりはっ倒すアーヴィング。すると、参謀も「私も脱ごうかっ!?」と言い出すので、引き止めた。周りの目線はとても痛い。
「あと少しだったのにぃ~っかぁ~!」
「畜生!」
「会計っ……あとで覚えてろっ」
「なんで怒られるんですかっ!?」
そして、アーヴィングはまた弄られる。だが、それが楽しいのか、アーヴィングもまた笑っていた。
気が付くと、周りはみんな寝てしまっていた。そんな光景を見て、店主はふっと困った笑いをする。そして、片付けをすると、手際よく布団を敷いて、皆を布団へと運んだ。
俺はそのまま起きるが、何も思い出せない……。だが、片付けた後の量を見る限り、すごく飲んでいたのだも思う。
「なぁ、店主さん」
「おや、起こしてしまいましたか?」
「いや、普通に起きただけだから、気にしなくて良い。それより、何があったんです?」
「あなた方が楽しんでいただけですよ。私は、驚きましたけど」
そう言って、店主はまた困った笑いを浮かべた。そして、準備は出来ましたよと店主は言って、帰っていく。俺の寝る布団のようだ。何と言うか、ここに来て和風なのを出されたなぁ。
「ふぅ……これからどうするか、なんだよなぁ……問題は」
そのまま布団に入って考える。だが、この世界のことについて詳しいのはアーヴィングだけで、俺は何も知らない。だから、明日からどうするか決めることができない……。重要なことで、今日中には済ませておきたいところだ。
昨日、今日になる前に決めておきたいといったな。……あれは嘘だ。
そう言いつつ頭を抱える俺。寝過ごしちまったぁぁぁ……
「で、どうするの? 外が騒がしくなってるよ?」
「うーん、そうだなぁ……」
一応この後は、ここに長居できるわけではないのでどっかの街に行こうかと思っているのだが、何でも準備というものが必要で……。今日は買い物にでも行こうかと思う。
そう決めた俺は、そのことを中田に言うとすぐに用意を始めた。中田も買い物と聞いて「お洋服を買おうよ!」って万遍の笑みで言ってきた。お前な、一応中身、元男ですよ?俺はそう思いつつ、ため息を一つつく。
「……閣下?なんの用意をされているのですか?」
「ん? ああ、アライブか。ちょっとお買い物だ」
「な……!?閣下、正気ですか!?敵兵が、どこに潜んでいるかもわからないのに、お買い物なんて!!」
俺たちの準備の音で起きたアライブが、俺たちを止めようとしてきた。なので一瞬でナイフを取り出す。もちろん、銃声の止まぬ場所のスキルの一つだ。ナイフ戦に長けた連中でも、腰を抜かして何枚もの壁を壊してでも逃げる技術だった。自分でもびっくり!
そして、それを笑顔でやってのけた俺を見て、アライブは「……お好きに向かわれてください」と頭を垂らした。あらま、始めて銃声の止まぬ場所をやり始めたぶりに、アライブのこんな姿を見たわ。
「まぁ、心配すんな。食料やら服やら買うだけだって」
「フラグにしか聞こえないのは私だけでしょうかっ!?」
「他のみんなが起きちゃうでしょ? 静かにね?」
「も、申し訳ない、参謀殿……」
アライブは困った顔で小さくそう言う。そんな彼に俺たちは、悪い笑み(自覚してる)で「行ってきます」と言った。顔を両手で覆いだした。ふはは、中々に面白いなぁ、アライブは。
そうして店から出ると、栄えているような、そうでもないような、いわゆる普通の街並みな商店街へと向かった。
服屋、鍛冶屋、八百屋に本屋……実に様々なお店が並び、俺たちははしゃぎながらその中央を通っていた。
「すげええええええええええええええええ! ザ・異世界! 欧州に行ったような気分にもなれるぜ!」
「そうねぇ! あ、みてみて! この服可愛い!」
「似合いそうだなぁ。中田、着てみっか?」
「うん!入ろう!」
……もはや、俺たちは細心の注意とやらを忘れていた。だが、それにはワケがある。俺達をつけている影が数人いるからだ。
必要ない。このお店でファッションショーをしたあと、仕留めてやる。
俺達は揃ってニヤリと笑うと小声でこう言った。
「「バレバレなんだよ」」
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ではまた!