新緑の頃①
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
第2の高校生活が始まる、その日を迎えた。
定時制高校の始業は、夕方からである。
浩一は国鉄(現JR)の舞子駅から電車に乗り込み、約30分後に三ノ宮駅で下車した。そこからさらに三ノ宮駅前のバス停から神戸市営バスに乗り、ゆられること約20分。バス停を降りてふと見上げると、神戸らしい急な坂道の頂上に、これから3年間を過ごすことになる校舎が見えた。
息を整えながら坂道を登りきり、校門をくぐって17時に事務室へと向かった。
「今日から転入学します、川野です」
「川野君ね。川野君は『2年2組』になりますよ。担任は川津先生。教室は2階だから、そこの階段を上がってすぐだよ」
「あの……転入学式とかはないんですか?」
「そういうのはないのよ。定時制だからね、仕事の都合で生徒全員が一堂に会するのも難しいの。じゃあ、教室で待っていてね。席は決まっていないから、空いているところに座って」
転入学式や学校案内、担任への挨拶などがあると思い早めに登校した浩一だったが、あまりにあっさりとした対応に拍子抜けし、と同時に「まったく知らない異世界に飛び込んでしまった」という強い戸惑いと大きな不安に包まれた。
説明によると、授業は17時45分からスタートし、各45分間の4時限。21時にはすべての授業が終了する。
1時限目と2時限目の間には「給食(食事)時間」が設けられており、食堂でパンやおにぎりなどの簡単な食事をとることができるという。
2階へ上がり、2年2組の教室の入口に立った。
教室の中を見渡すと、まばらに座る生徒たちの姿が見えた。私服を着た2人の女性、作業着姿の男性、ジャージ姿の生徒……全体で10人ほどだろうか。
転入学式があると思い、ジャケットにパンツという少しフォーマルな服装で来てしまった浩一は、自分がこの空間で明らかに浮いていることを痛感せざるを得なかった。
どこに座るべきかしばらく思案した末、教室全体が見渡せる一番後ろの席を選んで腰を下ろした。
静かに目を閉じ、担任がやって来るのを待っていると——。
「お兄ちゃん! 同じクラスになったなー! 良かった、良かった!」
元気な声に目を開けると、入試の日に声をかけてきた、あの鮮やかな金髪で強面な雰囲気の同年代の男性が立っていた。
「俺、行地って言うねん。お兄ちゃんは?」
「……川野です」
「『です』って! 同級生なんやからタメ口でええって。しかしお兄ちゃん、真面目過ぎてもアカンぞ。こういう世界はナメられたら終わりやから、気をつけんと」
「あ、うん……」
「そうや、そうや。川野もこういうところに来たんやから、こっちで上手く立ち回らんとあかんよ。……でもなぁ、なんか見た目は全然違うかもしれんけど、川野からは俺らと同じ空気を感じるねん。ホンマは、めちゃくちゃ根性あるんちゃうか?」
「……どうやろ?」
「まあ、仲良くしてな! ほな、あとで!」
ひらひらと手を振って自分の席へ戻っていく行地。
そのやり取りの最中、教室のあちこちから突き刺さるような視線を感じていた。
(一体、俺はどんな世界に飛び込んでしまったんやろ……。はたして、無事に卒業できるんやろか……)
浩一の胸の中には、未知の世界への底知れぬ不安が広がっていた。
ご覧いただきありがとうございました!
三ノ宮からバスに揺られ、神戸の坂道を登ってたどり着いたH高校。
17:45始業という夕暮れ時の登校風景や、食堂での食事時間など、定時制高校ならではのリアルな空気感が描かれた新章の幕開けです。
クラスの生徒はわずか10名ほど。しかし、それぞれが大人びた背景を背負う空間で、一番後ろの席に静かに腰を下ろす浩一。
強面ながらどこか憎めない行地との出会いは、これから始まる新しい友情と波乱に満ちた日々を予感させます。
「はたして無事に卒業できるのか……」という不安を胸に、浩一の一歩が今始まります。
次回の展開もどうぞお楽しみに!




