催涙雨
15分短編です
織姫と彦星の物語を知っているだろうか。まぁ、知らない人の方が少ないだろう。
年に一度だけ会うことを許された二人は、瞬く星の上、天の川を渡って会いに行く。そんな夏の愛の物語だ。
でもここ数年、七夕の日は雨が続いている。
「知ってる?催涙雨って言うんだよ」
隣の席で優しくそう言った彼は、雨を嬉しそうに見つめていた。
「さいるいう?」
「一説によれば、織姫と彦星が、雨のせいで会うことが出来なくて悲しんでいる、らしいね」
博識な彼は、いつも本を読んでいる。そんな彼は、時々こうして私にその知識を披露してくれるのだ。
「解んないじゃん?会ったはいいけど、年に一回だから、寂しくて別れたくなくて泣いてるのかもよ?」
思いついた反論をしてみると、彼は何とも嬉しそうな顔をする。
「そう。そうなんだよ、そういう説もあってさ!年に一回しか会えないからこそ、あえなくてより悲しい、とも解釈できるし、会えてしまったからこそ、また一年会えない時間が続くから悲しい、ともとれる。文学の解釈はその人それぞれで違うんだ!」
目をキラキラ輝かせてそう言う彼の半ば興奮したような説明を聞くのは、嫌いじゃない。むしろ・・・。
「なになに?何の話?」
前の席の子が話しかけてきた。最近彼と話していると、いつも邪魔をしてくる。
「織姫と彦星の催涙雨についてだよ」
穏やかにそう切り返した彼は、「ね」と私に目くばせをした。秘密の合図みたいで、少し心が浮足立つような気がする。
「ふぅん」
前の子は、あまり文学には興味がない様で、すぐに別の話題を持ち出してくる。
「昨日のドラマ見た!?ずっとすれ違ってて会えていなかった二人が、昨日の話でようやく会うことが出来たの~!ロマンチックよねぇ!」
流行りのドラマは見ないから、私はこの話には混ざれない。彼は前の席の彼女とドラマの話で盛り上がってしまった。いい雰囲気だったのになぁ。
「おら~、席着け~!」
二人が盛り上がり始めたところで、先生が入ってきて、話は遮られてしまった。先生グッジョブ。
でも授業が始まったら、私も彼とはあまり話せない。せっかく話しかけてくれたのに0残念。
授業を聞きつつぼんやり外を見ていると、雲が少し晴れてきた。晴れ間から雨が降っている。狐の嫁入りだ。
「晴れてるのに雨が降ってるね」
小さな声で、彼がそう言った。
「狐の嫁入りって言うんだよね」
「うん。不思議だよね」
「もしかすると、ずっと会えないままだった二人が、今日、ようやく会えて、嬉し涙を流してるのかもね」
「え?」
「・・・私の新解釈、みたいな?」
「・・・いいね、その解釈」
差し込んできた太陽光が、彼の笑顔をよりキラキラと輝かせたように見えた。
——七夕の雨——
その解釈、僕は好きだよ。




