第8話:終焉と帰還と白の本
「お疲れ様♪」
どこからか死神があらわれた。
真黒いコートに大鎌を背負ったいつもの出で立ちだが、ちょっと違った雰囲気を帯びて。
「ありがとね♪これからは僕の仕事だよ。」
「あぁ、送ってやってくれ。来生こそ幸せになれるように。」
「その辺はぬかりないよ。第1種観察対象になってるから、責任を持って見届けるし。」
「なら、心配はないな。」
「っと、よいしょっと。」
死神が鎌を振り上げる。
すると、その大鎌はまるで西遊記に出てくる如意棒のように延びてふわふわと漂い続ける魂をとらえた。
「じゃぁ、僕は先にこいつを送り届けるよ。その後に報酬とどけるから、まっちゃんは先に帰っててくれないかな?」
「了解。忘れるなよ?」
「わかってるよ♪じゃぁ、またあとで~」
そう言って、死神は帰って行った。
黒い空間の歪に、苦しみの果てで果てた魂とともに。
「さて、俺も帰るかな。」
虚空に魔法陣を展開して次元を割る。
神と違って次元空間に歪を作れる特殊能力なんてないなら、その辺は魔法で代用した。
そして、世界間移動のためのルートを魔力で押し広げ、安定させる。
その状態で自身を高速加速して射出すれば、空間移動の出来上がりってわけだ。
転移の瞬間、俺は後ろを振り返る。
そこにあるのはどこまでも果てしなく続く荒野と、どんよりと曇った空、そして、かつては栄光をおさめ、今は最後の生存者の果てた崩れゆく世界の末路。
俺は、本来そこにあるべき文明と歴史の終焉に静かに黙祷をささげ、帰路に着いた。
1週間ほどの時間が過ぎ、俺のもとに届けられた1冊の本。
例の死神は事後処理に忙しいらしく、届けたのは上位の神の一角でまだ若い武神だった。
そいつは無口なのか、用事を済ますとすぐに帰って行った。
「で、これが白の本か。」
開けてみても空白のページが続くだけの1冊の本。
魔力を流してみても何の反応も見せず、何か書かれている様子はない。
ただし、これが神のもとで厳重に保管されていたのを見ると、相当厄介なものだということだ。
「まぁ、何が書かれてるのかは想像がつくがね。」
おそらく、これに記されているのは『超越した知識』の一つにして神々の使えぬ力の一つ、『世界創造』に関する内容。
すでに失われた文明の一つにして『原始文明』と呼ばれる、世界の誕生から比較的早い段階、神々の管理が始まる前に生まれて滅びた文明の遺産だとは想像がたやすい。
「所有者を選ぶのか、はたまた起動譜が特殊なのか。」
どちらにしても、普通には見ることはでき無いんだろう。
神々が渡してきたということは、危険性がありながらもそれを紐解くことは不可能と判断したということだから。
「いっそのこと、一般書庫の方で閲覧可能にしてみるか?」
所有者を選ぶならそいつを見つけてやるのが本のためだ。
読まれない本ほど空しいものはないしな。
それに、そもそも何が書かれているのか分からんし、本当は何も書かれていない可能性だってある。
まぁ、それはないだろうけどね。
と、ここで、白の本について詳しく説明しておこうか。
『白の本』
本名を『無限の書』と言うらしく、『原始文明』の一つで最も発展したといわれる『全知全能の世界』の消滅時に出現したといわれる魔道書だ。
迷信では、その世界のすべての知識を1冊の本にまとめ、それを持てるすべての力で封じたとされる。
本自体は神々の世界で存在が明かされており、何人もの学者がその本の解読に挑んだが、すべて失敗に終わっている。
また、読解に行き詰まったある学者が燃やしてしまおうとした時は、この本の魔力に押されて出来なかったし、水に濡れてもふやけることはなく、風に押されても動かず、地に埋めようとも自力で這い上がってくる、まさに不死身の書なわけだ。
そんな本だから、俺も一回読解を依頼されたが、結局無理だった。
でもまぁ、本のコレクションはしたいし、貰いたいと何度か言ってるんだけどね。
で、晴れて今回俺のものになったわけだ。
いくら危険だとはいえ、解読不可能なものなら危険はないと踏んだんだろう。
「さてと、じゃぁ、カウンターの脇にでも置いてもらいますかね。」