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第28話:父と娘と真実の歴史

所変わって、執務室。


久々に、俺(松崎)視点の物語!!




いやぁ、もう作者なんていらないよね?



ただの筆だ。




物語は止められないんだよ。


俺の介入は俺の意思。



他の登場人物もすでに作者の手を離れて動き出した。




…結末?



知らないね。




まぁ、決められた結末があるならそれに向かって書けばいいさ。



ただし、その過程は俺たちが決める。




そして、そう簡単に思い通りに行くと思うなよ?




俺は、もうすでに知ってるんだぜ?




悲劇の結末も全ての歴史も。




舞台に上がった俺は、物語の中で自由に踊る。



神も悪魔も関係無い。



ただ、俺は俺をこの地位へ押しやったあんたに感謝はしてる。



天の邪鬼たる人の子よ。



現実と空想の狭間の者よ。



ただ一つ動かせる人形で、俺たちを動かせるか?




物語を始めよう



執務室で向き合う親子。


どうやら、ブックーに調べさせたことは大体当たっていたらしい。


てか、知らせていなかった事が驚きだった。




それは、数年前に起こった一つの事件。



天界でも第1級の秘密事項とされた、禁忌。




その中心に座ったのが、この親子だった。








時は遡り、約2000年前。



一人の赤子が誕生する。




その赤子は、順調に育ち、18の誕生日を迎える。





そして、命を失って神になった。





後の、死神スカルだ。





スカルは、死してすぐにその魂を運んだ死神に頼みこみ、自分を死神という役につけた。



それは、有る意味奇跡だったかもしれない。




スカルには才能があったのだ。




元は小さな命のかけら。



それを、たった18年で神になるまでに高めた者。




生れたその瞬間から膨大な魔力で周囲の空間を自分の物にせしめた力。




彼の使う力は、『超越した技術』で神には使えないとされる『創造』の力だった。



それを、人の身で使って魂を作り、己の物としてのけたのだ。




ゆえに、神は危惧した。




彼を再び人の身に宿す事を。





だからこそ、彼は死してすぐに神になる事を許され、死神という役職に就いたのだ。








そして、時は流れて今から20年前。




彼は、一つの事件を起こす。





それは、生れれるはずの赤子の魂のはく奪。


そして、その肉体への憑依。





何があったのか、詳しく聞いたわけじゃない。



ただ、彼は何度も人の身に降りる事を願い、神に拒絶され続けていた。



…当たり前だろう。



『超越した技術』の、しかも自分たちに使えない力は、何をするのか分からない。




だから、彼は強制的に自分の求める場所へと舞い降りた。




そして、誰もそれに気づかぬまま、1年の月日が過ぎる。




母親の胎内で育った彼は、己の体を得てその身を世界に解き放ったのだ。




ただし、生まれてすぐに視た母の姿に、彼は愕然とする。




それは、当然の結果だったのかもしれない。



それは、罰だったのかもしれない。





彼は、胎内で魂を作り、己の体の一部にした。




しかし、魂を作るには対価が必要だった。



そう、周辺に漂う魔力。



それも、膨大な量の魔力だ。




そして、胎児の周辺にある魔力とは、すなわち母の魔力。




母が作り出し、己がために… そして、子を育てるために作り出した命の力。



それを、彼は無意識に奪い続けていたのだ。





当然、そんなことをされて魂を正常に保つことはできない。



失われた魔力は魂を削って補われる。




そして、無くなった魂は二度と戻らない。




彼は、生まれてすぐにそれを理解した。



いや、理解させられた。




神という、人を超えた存在の知識によって。





彼は泣いた…



自分のせいだと悔んだ。




そして、周辺に存在する全ての魔力を使って、強引に失われた母の魂を…



『創造』の魔法によって作られた『仮初の魂』によって補強した。




それは、確かにその一瞬で彼女の魂を元の状態に限りなく近づくまで回復させた。




しかし、それは神々に『超越した技術』の行使を知らせる結果となったのだ。





すぐに彼は天罰という名の神の攻撃にさらされ、命を狩り取られた。



…実の父親の手によって。








これが、神々の世界でも問題となった一つの事件。




もちろん、死神スカルは罰せられ、監視をつけられた。



懲罰の内容は、人間への転生の永久不許可。



それは、彼にとっては限りなく残酷な処罰で、神にとっては実に都合のいいものだった。








しかし、事件はこれでは終わらない。






事件後の数年間は、何事も無いように思われていた。






…しかし、ある日の事。







幸せな家族がそこにはあった。




死神に乗り移られ、最初の我が子を失った家族。



その家族は事件の事を忘れようと必死だった。



そして、失われた我が子の代わりとして、第2児を身ごもる。




それが、悲劇の引き金だとも知らずに。





母親は、身ごもってすぐに体調を崩した。



医者には、軽い疲労だろうと言われて、その日はすぐに退院した。



しかし、その後も体調は治らず、日に日に悪化の一途をたどっていた。




それは、もはや呪いといわれる原因の分からない病だった。







そう、母親は魂を我が子に分け与える。



それは、自分の体を形作る最低限の魂も含めてだ。




もともと、数年の間に少しずつ仮初の魂は剥がれ落ちており、身ごもった子供に魂を与えることで、ついにはその限界を超えたのだ。



始まったのは魂の崩壊。



維持できる最低限度の魂すら失った者の末路。




しかし、この母親は耐えきった。



記念すべき第2児を誕生させ、自身も生き残って見せた。



しかし、それはもう限界に程近い、ギリギリの状態だった。






それからの生活は、神埼の娘さんが知っているだろう。



母親は出来る限り魂を使わない生活を心がけ、夫の必死の看病を受けて命をつないだ。



しかし、限界を超えて倒れてしまう。




昏睡状態。


魂の減少。




終わりに近づく最後の残された時間。





それでも、魂の尽きるぎりぎりまで生き続ける事を彼女は願った。


そして、自分の薄れゆく意識の全てを生きる事に注ぎ、眠りについた。




二度と目覚めぬ眠りの果て。








「これが、お前の知りたがっていた事だ。」




「そう、だから、彼は自分を怨めと言ったのね。」





そう言って肩を落とした神埼の娘さん。


でも、どこかすっきりした顔で、そこに座っている。




でも、何か思いついたのか、顔をあげて質問する。




「でも、その後お母さんはすぐに死んでるよね? 


…いったい、何があったの?」




「それは、もうひとつの事件だよ。神崎さん。」



「…松岡さん?」




「ザキル、話しても良いよね?」



「あぁ、その後の事は私も詳しく知らん。だから、頼む。」



「あぁ。




まず、スカルは悔んでいた。


君のお母さんを死に至らしめた事をね。



だから、その後の経過も色んな伝手(つて)を通じてしていたんだ。



そして、君のお母さんが倒れた事を聞きつけた。




そこからは、死神の仕事さ。



魂が肉体との結びつきの限界を迎えた時点で、死神が狩り取って冥府へ送る。




でも、ここで一つのルールがある。




死にゆく魂は離れるべき時まで手を出してはならぬ。




これは、魂が肉体との結びつきの限界に程近い一瞬。




でも、君のお母さんは眠りながらにして強固に結びつきを保っていた。




魂を消費してね。





このままでは魂が先に尽きる…


そう思った彼は、ルールに反して君のお母さんを殺してしまう。




後は、さすがにその状態で魂が再結合する事も出来ず、ザキルによって君のお母さんの魂は冥府へ運ばれた。



今は、治療を受けているはずだよ。」





「じゃぁ、死神さんがお母さんを殺したのって…」




「魂の消滅を食い止めるため。自分のやった事の始末をつけたんだ。」



「私…そんな事情も知らないで、死神さんを殴っちゃいました…」




「美穂…」





悲痛な面持ちで沈み込んだ神崎さん。



でも、誤解はとかないといけない。




「それは、ちょっと違うね。」



今にも泣きそうだった神崎さんが、顔を上げる。




その目には、いまさら何を言うのかという語りかけが含まれていた。



でも、それに気づかないふりをして話を進める。




「俺は、死神スカルとは知り合いなんだ。そして、あいつの想いも何度か聞いてきた。



…一つ言えるのは、あいつは誰かに怒ってほしかったんだ。」




「…えっ?」





俺は、武神ザキルの方を向き直る。


その前に、聞いておきたい事があったからだ。




「ザキル、あんたはスカルを怒ったか?」



「否。」



「…なぜだ?」




「その罪は確かにあの者のしでかした事。されど、… あやつを生れたその時に叩き斬ったのは我自身。」




武神は語る。



もしも、あの時彼を生かしておけばと。



そうすれば、妻はいつでも魂を補給でき、幸せに生きられたのにと。





そして、切り捨ててすぐに思った罪悪感。



神々のルールの下に起きた悲劇の一つ。





「我は、我が子を殺してしまった。それなのに、怒る事などできようか?」




そう言った武神の顔は、涙に濡れていた。





そこにあるのは後悔と無念。



神であるゆえに、縛られる神のルール。




…破った者には制裁を。



…犯した者には等しく罰を。





その結果が、この悲劇の一端。




しかし、それゆえに救われぬ魂もある。




死神は自分に怒りをぶつけてくれる者を求め、そして神埼美穂に行きついた。





そして、彼女は彼の想いを受け、その通りに操られる。




理由は簡単だ。




彼女の魂は彼の魔法によって作られた物。




ゆえに、ある程度は思いのままに操れる。


しかし、それではやはりあいつを満足させる事は出来なかったみたいだが。






「あ、ちなみに神埼の娘さんは魂枯渇して死ぬなんて事は無いから安心していいよ。」





死神スカルによって作られ、母を通じて娘に伝わった仮初の魂。



膨大な魔力を集めて作られたそれは、所詮偽りの魂。



不完全ゆえに欠点がある。



それが、魂の自然崩壊。



しかし、そんな環境にも魂は適応する物。



神埼美穂の魂は、自らの魂表層の魔力生成機構を魂維持のために使うことで、無意識的に己の身の安全を確保したんだ。




そして、膨大な魔力によって維持された魂は、成長と共に鍛え上げられ、普通の魂とは比べ物にならない力を宿した。




これが、神埼美穂がたった一人の人間でありながらも存在魔法を使える理由。












…この悲劇はこれで全て語られた。




しかし、まだ煮え切らない者たちがいる。





父は己の子を殺めた罪を背負い続け、娘は死神とどう向き合うべきか決めかねる。




そして、死神は、自分の罪を悔み続ける。





無き魂は冥府の底で伝えたい言葉を叫び。






初めの犠牲は忘れ去られて生き続けるのみ。







「さて、そろそろ落とし前をつけますかね。」




つくづくお人よしの俺は、そんな奴らでも嫌いになれない。




絶対なる神によって歪められた家族。




俺がきっちり責任を持ってやろうか。



かなりの含みを持たせた、訳分からない前4話。


そして、それまでの謎を全て締めくくる形で、この話は結末しました。



ただ、まぁ、事後処理がまだですが。


というわけで、次回からこれらを片づけていきたいと思います。

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