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第26話:死神の涙(後編)

過ぎゆく景色を超えて、私はここに戻ってきました。



一日ぶりに見る景色は、とても澄んだ空気をたたえているような気がします。




私は、沸き立つ心を抑えて階段を上りました。




目指すはお母さんのお墓の前。




石段を一段一段上る度に、私の心臓が高鳴るのを抑えられません。




そして、たどり着いたそこには、案の定黒い服を纏い、大鎌を持った死神がぽつりと座っていました。




まだ太陽は真上にたどり着いてすらいないのに、肌がやけに暑く感じます。



心の底で、何かが警告を発している気がします。




でも、私は無作為に近付くと、死神に向かって手を振り下ろしました。





頬をたたかれたのに、怒るでもなく、悲しむでもなく、酷くうれしそうに見える死神に、なぜか怒りがわきあがってきたのを感じます。






「なぜ、なぜお母さんを殺したんですか!!!」





心の枷が外れたかのように。



でも、何かすっきりしない気持で、私はもう一度死神に向かって手を振り下ろします。




心の底で叫んでいる自分が、何かを言ってるようにも聞こえますが、今の私には関係ありません。




ただ、2度目に振り下ろした手が非常に痛かったのが分かります。




「答えてください!!



私は幸せだった!!




私はあれでよかった!!




なのに、なんであなたはお母さんを…!!!」




答える声は無い。



言い訳を考えるそぶりもない。




当然だ。




だって、あんなひどい事をしたんだから。







「答えてください!!!」




3度目に振り上げた手に込める若干の力。




それに打たれて、初めて彼は意識をこちらに向けました。




戻された顔にあったのは、驚きと喜び。



それが、何なのか分からなくて…




分かる事が怖くて、何度も何度もたたき続けました。





手が痛くなり、心が悲鳴を上げ、魂が拒絶してもその手は止まることなく繰り返し同じことを繰り返します。





数十分たったのでしょうか?




手の感覚は失せ、力は無くなり、体が言う事を聞かなくなりつつあります。



それでも、打ち続けていると、その手が不意に受け止められました。





握ったその手から伝わる想い。



それは、先ほどとは違って悲しみにも悲痛にも満ちた表情。







なんで…




なんで……




なんで、そんな顔をするの?




何があったの?




私の知らない事って何?






「ごめん。」





そういうと、彼は立ちあがって手を離しました。





「あ、待って!!!」




その手が離れると同時に、去ろうとした事が分かって、私は瞬時に握り返します。




でも、お兄さんは困ったような顔で、私を見つめるばかりでした。







「どうしたの?」





困った顔でつぶやくお兄さんに、私は何を聞いていいのか分からなくなりました。




いや、心のどこかで聞こえる声は、はっきりと、知っていると。




忘れているだけだと伝えてくれます。






それを聞いたとたん、何か自分の中で間違って嵌っていたピースが外れるように。




そして、今度こそ何が足らないのか分かったような気がします。




「俺はもう帰らないといけない。」





「…行かないで。」





言葉に出せない何か。




分かったようでいて分からない感情のかけら。




いくつも分かれて剥がれ落ちた心のかけらは、酷く繊細で、脆くて、壊れやすくて。




でも、大事な宝物。





「さようなら。美穂ちゃん。あと、ごめんね。」




「行かないで!!!」




存在魔法を極限まで振り絞って、男の人を魂の檻に閉じ込めます。



私がゆるなければ、誰も出る事の出来ないはずの空間。



ブックー君や松崎さんじゃなければ超えられない壁。



それを、お兄さんは簡単に越えて、私の手の中から離れていきます。





「あっ…」




そして、するりと解けた腕の先で、今度もまたお兄さんは歪に埋もれていきます。



最後に伸ばした手は届かず。




でも、今度ははっきりと聞こえた言葉。




「怨むなら、僕を怨むと良い。」





風に揺られて消えゆく透明な光の粒に、私はまた何かとんでもない間違いを犯したような気がしました。



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