第24話:死神の涙(前編)
以降4話は流し読み推奨。
理解しきるのは難しいから、雰囲気だけつかんでくれると幸いです。
最悪、28話まで読んだ後に読み返せば意外と面白いかも?
夏休みも中盤に差し掛かり、そろそろ本格的に暑くなってきました。
もうすぐお盆休みもあって、お父さんとは夏祭りに行く約束をしています。
あの事件から、私の周りはがらりと変わりました。
まず、理恵ちゃんや杏ちゃんとは、秘密を共有したためか、前よりも良く3人で行動するようになりました。
あと、3人そろってブックー君の魔法授業を受けるようにもなりました。
私は存在魔法の発展と応用。
杏ちゃんは『破壊』魔法という分野にのめり込んでいます。
そして、驚いたのが理恵ちゃんの魔法の才能でした。
なんか、私達には隠していた見たいけど、非凡な魔法の才能があるらしいです。
知識より感覚。
力より勢いで魔法を習得し、初級~上級まで半月で昇りつめてしまいました。
ただ、もともとの魔力の無さは補えなかったようで、威力よりも数や効率を重視する魔法が多いです。
日常生活に役立つ魔法は低魔力の物が多いんで、そういう点では一番役に立つ魔法かもしれません。
そして、次に変わったのが私たちの親でした。
理恵ちゃんも杏ちゃんもよほど心配されたのか、親に家から出さないとまで言われたそうです。
現在も、外出の際は帰る時間やどこに行くのかを必ず聞いてくる徹底ぶり。
で、私の方はというと、
「美穂、今日からお前に護衛をつける。此方が護衛部隊を率いる…」
「い、いやぁぁぁ!!!」
てな具合で、目の前には中肉中背の男の群れと上半身裸のむきむきマッチョな男の人に囲まれた私は、この前の事件の軽いトラウマを呼び起されて大騒動。
じゃぁ、女の護衛をつけると言い出したお父さんを何とか説得し、それでもと言い張るお父さんに困ってると、ブックー君と松崎さんが説得を手伝ってくれたので、何とか収まりました。
でも、その後松崎さんがお父さんと密談してたけど、あれは何だったのかな?
そして、私達を襲った宮沢先生は、さすがに首になりました。
どうやら、警察の方で数年間牢に入れるそうです。
その関係で来年度からは新しい先生もくるみたいで、その話で理恵ちゃん達と盛り上がった覚えがあります。
そして、お盆間近の今日この頃。
私は、一人でお墓参りに向かってます。
本当はお父さんと行く予定だったんですが、お盆休みを取るために色々と忙しいみたいで、一人です。
お盆に行っても良いんですが、お母さんの墓石がある霊園はかなり大きいため、お盆は付近の道路が大渋滞を起こすので難しいです。
だから、代わりに私一人で先に挨拶だけ済ませ、お盆も終わって落ち着いてからまたお父さんと二人で行こうと思います。
そんなこんなで自転車を走らせること数時間、朝早くに出たにもかかわらず、着いたころには太陽が真上近くまで登っていました。
「っと、お花も線香も持ったし、忘れ物ないかな?」
近くで買ったお墓参り用の小型キットを持って、私はお母さんの所へ向かいます。
途中、色々なお墓にお花やお菓子が添えられていて、それを狙う鳥や動物が何匹か見かけられました。
そして、お母さんのお墓のある石段にたどり着いた時、見覚えのある黒い衣装が見えます。
「あ…」
それを見てすぐに、少し足早に駆け寄りました。
男の人は、立ち上がって踵を返したところだったからです。
「あの、お兄さん。」
「?」
振り返ったのは、あの時と同じで優しそうな顔のお兄さんでした。
相変わらず、大きな鎌と真黒な衣装で、遠目からは死神に見えます。
でも、どこかその気配が悲しそうに見えるのは、私の気のせいでしょうか?
お兄さんは、一瞬考えたのち、思い出したかのように明るくなりました。
「あぁ、君か。一瞬誰だか分らなかったよ!」
「えっと、あの時は自己紹介も十分にできず申し訳ないです。」
「いや、気にしないで。それに、君が神埼の娘さんだとはあの時聞いたしね!」
「はい。神埼美穂と申します。よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。 …僕の事はお父さんから聞いてるかな?」
「?お父さんにはお兄さんとあった事言ってません…」
「あぁ、そうか。なら仕方ないね。」
「あの、お兄さんはお父さんの知り合いですか?」
「あぁ、君も教えてくれたし、そろそろ俺も自己紹介するかな♪」
そう言って向き直ったお兄さん。
でも、笑顔がすごい硬い気がします。
まるで、笑顔の形の能面をかぶってるみたいです。
そんなお兄さんの、次に出した言葉は、十分私を驚かせる物でした。
「僕は、君のお母さんを殺した者さ。」
「…え?」
最近、驚いてばかりな気もしますが、今回は一際です。
だから、脳が理解しても、私は最初冗談だと思いました。
でも、お兄さんは笑顔のままで、それが本当だと語ります。
「でも、私のお母さんは病気で死んだんじゃ…」
「あれ、聞いてないの?君のお母さんは殺されたんだよ。」
「うそ…」
「ほんとだよ。」
「でも、お母さんは病気で寝たきりになって、体が弱って死んだんだってお父さんが言ってました!」
「そっか、そう言われてるんだね。
じゃぁ、聞こうか。病気で意識混迷。しかし、何の病気か分からないなんて言う都合の良いものある?」
「えっと、そういうのがあるんじゃ…」
「無いね。」
そう、きっぱりと言い切ったお兄さん。
私は、確かにそうかもしれないと心の中で思い始めました。
お母さんは病気で植物状態になって、生きる上では問題が無いけど、意識の無い状態になったんだって。
そして、ベッドの上で点滴と注射によって永らえていたのに、まだ生きられると言われた数年のうち、1割にも満たない日数で息を引き取ったって。
「あれは、僕がやったのさ。脳を壊し、意識を乱し、死に至らしめる呪いの呪縛。この魔法を君のお母さんにかけてね。」
「あ、あなたは一体…」
「僕は死神…。
死神スカルという冥界への案内人さ。」
そう言った彼は、すぐさま振り返ると、そのままどこからともなく現れた空間の歪に身を投じていきます。
そして、消える直前に言った言葉が、私の胸を突き刺しました。
「怨むなら、僕を怨むと良い。」
お兄さんが消えると、空間のひずみは瞬時に閉じて、光の粒を振らせます。
それは、どこか遠い夏に見た花火のように儚く夏の日差しの中に消えていきました。
その後の記憶はありません。
ただ、気づいたら家に帰ってました。
ベッドに飛び込んで目をつぶり考えるのは先ほどの言葉の意味。
そして、記憶の果てにあるお母さんの最後でした。