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第23話:事後処理と新たな力



私が目を覚ますと、そこには見知らぬ天井がありました。



朦朧とする頭を振ってはっきりさせようとすると、さっきまであった事が徐々に思い出されてきます。




(…あ、そうだ。わたし、あの時魔法使ったんだ…。)



記憶の中の私は、かなり錯乱していたと思います。




怒りに我を忘れ、宮沢先生を殺そうとし、挙句の果てにはブックー君にまで…




「…!!」




それを思い出した時、私は飛び起きました。




そうだ、わたし、ブックー君を邪魔だと思って…





…コロソウトシタ






「そんな…」




未然に防がれたとはいえ、その時の私は確かに思っていました。




…邪魔者は消せばいい



…あいつを殺さないといけない。



…殺さなければ、大変なことになると。。。





それを止めてくれたブックー君にまで、同じ思いを抱いて牙を向けようとした…




それが、とても悲しくて、自分の力が怖くて、目からあふれる涙を止められませんでした。






「美穂ちゃん、大丈夫?」





と、側から声がかかります。



振り向けば、杏ちゃんが心配そうに私を見つめていました。



驚いて数歩後ずさると、今度は彼女の全身と、その向こうで未だに眠り続ける理恵ちゃんが見えました。



「あ、大丈夫、理恵ちゃんは寝てるだけだから。」



そう言って、安心させるように笑いかけてくれます。



それを見て、ちょっとだけ肩の力がおりました。



その時初めて、自分が強張っていた事に気づかされます。




「なんか、私達起きたらここにいたの。


で、なんか変な男の子が、自分は美穂の師匠で、自分がここに運んだ。あの男たちは縛って警察に突き出したから、心配しなくて良いって…」




「あ、それブックー君だ。」



「ブックー君?」




「うん。私の魔法の先生で、無限書庫のお手伝いをしている子。」



「えっと、じゃぁやっぱりここって無限書庫の中?」



「う~ん、そうなのかな?」




部屋を見渡せば、確かに作りが無限書庫に似ている気がする。



でも、私はこんな場所が無限書庫の中にあるのは知らない。



まぁ、中庭や透明な壁の個室なんかもあるから、こういう部屋があっても不思議じゃないというくらいには思えるけど。




「ねぇ、逃げた方が良いと思う?」



「う~ん、ブックー君なら心配無いと思うよ。」



「…うん、わかった。じゃぁ、美穂を信じるね。」



「ありがとう。」




信じると言ってもらったは良いものの、どうすればいいのか分からない。



そろそろお父さんも心配してるだろうし、帰らないとまずいだろう。



と、そこまで考えてふと思いいたった。




「ねぇ、今何時?」



「あ、そういえば… えっと、ちょっと待ってね。確かポーチの中に時計が入ってたと思うから。」





そう言って、時計を取り出してくれる杏ちゃん。


それによると、今はまだ21時すぎらしい。



私達がいつも帰るのが19時だから、今は2時間ほど遅れている計算になる。



たまに遅くなる事はあっても、いつも同じような時間に帰ってる私達だから、親が心配し始める頃だろう。




「携帯とかは繋がらない?」



「試したけど、無理っぽい。電波が届かない。」



「じゃぁ、部屋の外は?」



「出ても良いけど、さっきの子が、絶対に迷うから独り歩きしないでしばらく待っていてほしいって。」



ブックー君がそう言ったのなら、そうなんだろうと納得する私。



自分でも単純だと思うけど、なぜか納得できる。




だから、私達はブックー君の帰ってくるのを待つことにした。





…それから、数十分が過ぎた。



私達は、杏ちゃんや理恵ちゃんの容態が悪くないか、あの事件が何だったのか、そして、秘密といわれていたけど私が使った魔法が何なのかを話しました。


何か話していないと、何かに押しつぶされそうに感じたんです。




そして、あらかた話し終えたころ、ドアがノックされる音に、私達はびくっと体を震わせました。



でも、聞こえた声がブックー君の物だと分かると、安心して扉をあけられます。




「お待たせしたのです。ちょっと遅れてしまって申し訳ないのです。」



そう言って、頭を下げるブックー君の姿に、ようやく私は落ち着きを取り戻しました。





「さて、まずは先に事後報告をするのです。


まず、君たち3人は強姦に襲われ、何とか逃げ延びて警察に保護されたことになっているのです。


そして、現在は警察の管理の下、静養中だということにしてあるのです。




もう夜も遅いから、ここで一晩明かせるように、親御さんの許可も取り付けたのです。




そして、そっちの子には話したのですが、君たちを襲っていたあの男たちは、警察の方で取り調べを行っているのです。


これが、今の現状なのです。



何か質問はあるのです?」




と、一気に言われたので、私達は必死に脳みそを回転させて現状を把握します。



それと共に、一応親の心配はないという事が分かりました。



でも、一つ疑問が…



「はい!」



「どうぞなのです。」



「私達って、今警察の保護の下に居るんですよね?なら、ここはどこですか?」



と、杏ちゃんが私の聞こうとした事を聞いてくれました。



それに気付いたのか、ブックー君は私の顔も見ながら語りだします。



「まず、君たちを保護しているのは『無限書庫』なのです。


そして、警察の方には圧力をかけて、沈黙させているのです。



理由は、ちょっと言えないのですが、こっちの女の子の使った魔法に関係するのです。」



そう言われて、ハッとしました。



どうでもいい事ですが、私達は自己紹介をしていません。



てか、ブックー君はもしかしたら私の名前を知らないのでは?



そう思って聞いてみれば、案の定「知らないのです」と答えられました。




「えっと、今更だけど、自己紹介させていただきます。神埼美穂です。趣味は読書で特技は料理です。あと、いつもお世話になっています。」



「じゃぁ、次私ね。椎名杏です。美穂ちゃんとは幼稚園からの友達で、今は同じ学校の文系に通ってます!趣味は遊びで特技は無し! 元気なのが取り柄です!!」



「分かったのです。神埼美穂さんと椎名杏さんなのです。覚えたのです。



僕は無限書庫の司書をやっている、【Books manager】 通称ブックーなのです。


『無限書庫』の2番目の権力者だと思ってもらえればいいのです。」



「え、ブックー君ってそんなに偉かったの!?」



「え、美穂知らなかったの?」




と、まぁ、ちょっと驚きです。



というか、ブックー君の本当の名前、初めて聞いた気がします。




「じゃぁ、自己紹介も済んだし、次の説明に移るのです。


まず、ここは『無限書庫』の通常は立ち入り禁止区域なのです。」



「え、立ち入り禁止区域なんてあったの?」


「あったのです。正確には、特定の人しか入れないようになっている場所なのです。」



「えっと、じゃぁ意外と私達ってすごい所にいるの?」



「凄いなんてもんじゃないのです。『無限書庫』が出来てから、あの世界の人間がここまでたどり着いた事は無いのです。2000年の歴史の新たな一ページなのです。」



「2000年!?」


「はいなのです。知らなかったかもしれないですが、ここは出来てから2000年経過してるのです。


そして、その当初に作られた僕は2000歳なのです。だから、君たちより遥かに年上なのです。」



「そんな、2000年なんて…」



驚きでものも言えません。


まさか、私は知らない間にそんな凄い人と知り合い、あまつさえその歴史の中心部に近づいているんですから。




「じゃぁ、次は僕からの質問なのです。あそこで何があったのか詳しく話すのです。」



「えっと…」



そう言われて、気分は一気に沈みました…。


まさか、あんなことになるなんて…



でも、話さないといけません。



助けてくれたのはブックー君だし、私達は警察の保護の下にいるのです。


だから、話す義務があります。



「その前に、椎名さんは席をはずしてほしいのです。ちょっと、聞かれたくない事があるのです。」



「あ、ブックー君、実は…」



杏ちゃんに話した事を伝えると、ブックー君は驚いたようですが、怒るでもなく、悲しむでもなく、どこか疲れたように溜息を吐きました。



「分かったのです。なら、聞いても良いのです。それに、僕もあなたに聞きたい事があるのです。」



「それって…」



「これは、何があったのかを聞いてから判断する事なのです。良いから話すのです。」



と、投げやりに言われ、しょうがなく私達は事件の概要を話しました。



こうやって聞くと、主観的に見た事件と客観的に見た事件が大きく見え方が変わるものだと驚かされます。



私は、私が理恵ちゃんをとらえていた男の顔面を打ち抜いた時、その男の腕を首に巻かれていた理恵ちゃんが男に引きずられて首を絞められ、意識を失っていた事に驚き、自分の力の怖さを改めて思い出されます。



逆に、杏ちゃんは私が宮沢先生に苛めを受けていた事を知り、宮沢先生への怒りと、気づかなかった己の不甲斐なさを嘆いていました。


そして、最後の最後で私の使った魔法。


あれは、私が考えていたオリジナルの魔法だと思ったんですが、すでに出ていたらしいです。


で、それの破り方も考案されていて、まずは魂の1点に魔法を集中して突き破る。


で、出来た道を固定してそこから魂の一部を投入。魔力に変換して魔法を発動。



魔素耐性のあるシールドを張って私の魂を押し返したらしいです。



普通のシールドは魔力を薄く伸ばしたもので、存在魔法を受けたらひとたまりもありません。


でも、このシールドは厚めに作られていて、普通の障壁魔法と違って耐える力ではなく押し出す力を使うため、私の魂の拘束を内側から押し壊したそうです。



で、後は精神安定の魔法で眠らせて魔法で運んでここまで来たと。




「分かったのです。じゃぁ、最後に質問なのです。椎名さんの魔法はなんなのです?」



それが、聞かれると分かってはいたが、あまり知られたくない秘密の一つ。


私達3人は親友の証と言って教えられたけど、ブックー君はまだ出あったばかりの他人。



私が教えてはいけない気がして、杏ちゃんの方を黙って見つめます。


しばらくは杏ちゃんも黙っていたけど、重そうに口を開きました。



「うん、私も存在魔法なんて言う秘密教えてもらっちゃったし、答えるべきかな。」



そう言って語ったのは、私達の聞いた魔法。


魂の機構の逆転と自殺魔法。



それを無表情で聞いたブックー君は、話を聞き終わるとさっきより深い溜息を吐きだしました。



「あなたは大バカ者なのです。その魔法は自殺行為なのです。



確かに、理論上はその魔法が使えるのです。


でも、魂自体がそんな危険行為を侵すのを許さないのです。



人体に本能があるように、魂にも制約があるのです。


その一つが、魔力生成機構の無意識下の継続なのです。


ようは、心臓を動かしているのと同じで、勝手に動いているのです。



椎名さんは、これを意識下でできるという、もうすでに論外の力を持っているのです。



そして、発生するのが魔力の逆変換なのです。



でも、これは危険がつきものなのです。


心臓を逆転するほどじゃないのですが、魂を逆に利用するという事は、その間魔力が魂の維持に使われなくなるという事なのです。


足りない力は、補われるのです。


それが、魂自体を解体して行われるのです。」



「うん、それは知ってるよ。だから、普段は使わない。」



「普段どころじゃないのです。一回でも使っちゃダメなのです。これを冥府の神が聞いたら、カンカンに怒るのです。」



「冥府の神?」



「これも機密事項なのです。だから、他言は避けてほしいのです。


まず、この世界には世界を管理する神々がいるのです。


その一つに、冥府の神がいるのです。


彼らは、死んだ人間の魂を黄泉で休ませることを仕事にしているのです。


そして、長い時間と労力をかけて、魂の損傷を治し、不足分を数百年単位で作り出して補い、命を蘇らせる事をしているのです。



そして、今回椎名さんがやったのは、彼らが根気良く作った数百年分の魂を一瞬で消費して、効率の悪い魔法を使ったのです。


やられた方としては、たまったものじゃないのです。」



「でも、あの時はあれ以外なかったもん。」



「そうかもしれないのです。でも、君ほどの腕があれば、そんな魔法使わなくてもどうにかなったのです。」



「私、これ以外取り柄が無いよ?」



「大間違いなのです。君は、魔力を逆変換できる力の強さを分かって無いのです。それは、逆にいえばその魔法は"大した消費なしに使えるはず"なのです。」



「え?」




思わず聞き返した杏ちゃん。


私は、もうちんぷんかんぷんな領域に入ろうとしています。


頭で必死に理解しようとするけど、話に着いていけません。



「でも、これって魂で魔素を作るんだよね?」



「そうなのです。でも、考えても見てほしいのです。」



…普通の魔法使いは果たして魂で作った魔力だけで魔法を使っているのかと。




「えっと、それってどういう…」



「つまり、空気中の魔力と自分の魔力を合わせて魔法を使っているのです。


そして、彼らは無意識化で魂周辺の近隣魔素をも魔力に変えているのです。


分かったですか?」



「あ、あぁぁぁ…!!」



と、杏ちゃんは何かひらめいたようです。


突然、声を荒げて言います。



「つまり、こういうことですか?


魂内部で魔素を作るから問題であって、魂の外で魔素を作れば問題ないと。」



「そうなのです。」



「ごめ、私さっぱり分からない…」



と、とうとう耐えきれなくなって口を挟んでしまいました。


というか、今の説明だけで分かったのがすごいです。



専門的すぎて私では理解できませんでした。




そして、順を追って説明してくれるとこうらしいです。





★基礎知識★


まず、魂は自分の中で魔力を生成する機構を持っている。


その魔力生成機構は、魂の内部で生命維持に必要な魔力を作っている。


そして、その過程で余剰魔力を作って体外に放出する。


この、放出された魔力を使って使う魔法が、一般的な魔法。



★応用編★


実は、最近の研究で魂は魂の表面上でも魔力を作っているのが確認された。


そして、この表面の魔力生成機構の強さによって、使える魔法の量が変わる事が分かってきた。



つまり、魂外に放出される余剰魔力より、魂の表面で作られた魔力を使って、私達は魔法を使っていたらしい。



で、その理論に基づけば、杏ちゃんの場合は、


魂の内部での魔素生成→不要


魂表面での魔素生成→これが重量



そして、魂表面の生成に関しては、魂を傷つけることなく、少ない消費で魔素を作れるらしい。



だから、練習すれば魔法無効化空間を普通に使えるようになると。





「なんか、凄い話だね。」



「ほんと、凄い話すなのです。凄過ぎて驚きなのです。もしもそんな事が出来るなら、僕は椎名さんに敵わないのです。」



「そんなにすごいの?」



「そうなのです。僕の使う魔法は、ほとんど全てが魔力を使った魔法なのです。だから、無効化されたらどうしようもないのです。」



「でも、ブックー君も存在魔法使えるよね?」



「あんな力技、僕には到底使いこなせいないのです。知識はあるけど、使えない魔法なのです。」



「あ、そうなんだ…」



ここ数日練習を見てもらってたから、てっきりブックー君も使えるもんだと思い込んでたよ…



「さて、ようやく話しにひと段落ついたのです。これ以上長話しても時間の無駄なので、そろそろ夕飯にするのです。」



「そういえば…」



ぐぅ~~♪



と、思いだしたらおなかが鳴りました。


恥ずかしくて顔をあげてられません。



杏ちゃんは御飯だということに喜んで浮かれて踊っています。




「そこの人も、そろそろ起きるのです。寝たふりしてても僕には分かるのです。」



「…! いつから!」


振り返れば、理恵ちゃんが起き上るところでした。


どうやら、話を聞いていたみたいです。



「べ、別に盗み聞きしたわけじゃないのよ。ただ、起きるタイミングが無くて…」



そう言って俯く理恵ちゃん。


確かに、言われてみれば無かったかもしれません。



「…いつから起きてたの?」



「…存在魔法の説明のあたりから?」




ほぼ最初っからです!!


まぁ、もうすでに聞かれちゃったからにはしょうがないです。


諦めて私は溜息を吐きました。



「じゃぁ、そろそろ食事に向かうのです。お腹が減ってきたのです。」




そう言って歩き足したブックー君に私達は黙ってついていきます。



…その先で見た豪勢な料理と食べた事のない食材の山に、私達が度肝を抜かれるのは別の話。。。



事件後の始末を一気に付けました。



そして、どうしようか迷ってた二人の介入も、結局こんな形になってます。



この物語の冒頭部分では、二人は先に帰って頂こうと考えてました。


ただ、どう考えても椎名杏さんをこのままってのはね…



そして、椎名さんだけのつもりが、最後の食事の場面で井原理恵さんをどうすればいいのか迷い、介入…


もう、後はどうにでもなれ!!!



椎名さんの魔法無効化空間、これからどうなるんだろ?


このキャラクターが一番のイレギュラーだ…w

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