第2章 第17話:運命と誓いと始まりの予感
予定箇所まで進んだので、第2章始めます。
この後が作者の腕の見せ所!!
多彩なストーリーをどれだけ上手く表現できるか。
『無限書庫の管理人』第2章:紡がれる運命の連鎖
始めましょう。
一人の少女が泣いていた。
暗い暗い部屋の中。
窓のない一室にはぽつりと置かれた一つの棺桶。
そして、側に佇む男と女。
男の手は、まだ小さい娘の頭に載せられ、しかし、その手は震えている。
「いやだ、嫌だよ…。死なないでよ…。」
「…」
暗室にこだまする悲痛な叫び。
永遠の別れを悲しむその目からは、とめどない涙の雨が溢れだしている。
しかし、男にはその涙を拭ってやる余裕はなかった。
男の目は、どこか虚ろに虚空を見つめている。
それは遥か黄泉の果て、今は亡き者の御霊を見つめるかのように。
しかし、そこは男にも届かぬ場所。
ただ、静かに聖地の入り口を見つめ、佇むのみ。
(今想うのは、過ぎ去った幸せな日々。
悔む物は無い。
我が最善が果たされた。
されど、この身の力をこれほど嘆いた事が過去にあろうか?
ただ、今願うは愛した者の安らぎと平穏。
そして、これからの誓い。
彼女は知った頃だろうか?
隠し続けた我の正体を。
ならば、怒り狂うだろうか?
それとも、悲しむだろうか?
だが、すでに届かぬ地へ旅立った者に、聞く術は無い。)
男の願いは果たされるだろう。
それは、無欲な男の数少ない願い。
ならば、神々も悪くは扱わない。
だが、それはすでに男自身の力では成し遂げられない。
(守ると誓った…)
己の力で守り続けると誓ったあの日。
しかし、知っていた結末。
それでも、男は信じ続ける。
愛しき者の再来を。
そして、その者に誓う。
今度こそ、守り続ける事を。
自分たちの愛した者を守り続ける事を。
(どうか、見届けてほしい。
我の誓いを。
そして、いつか相まみえるその時まで。)
待ち続けよう…
静かな誓いは閉じられた部屋に僅かな風をもたらす。
それは、たとえ彼が歴戦の戦士であろうと気づかぬほどの小さな物。
しかし、その風は語っていた。
「またね」と。
閉じられた部屋の入り口が開き、生者は現実へと帰る。
残されるは死者の骸。
そして、役目を終えた冥府の使者は黒いマントを翻らせ、その場を後にした。