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第16話:武神のとある一日

我の一日は人間界で始まる。


朝起き、家の庭で鍛錬を小一時間ほどこなし、肉体と魂の同調とその強化を行う。


どうせ、天界へ向かう時にこの結びつきを一度なくすが、だからこそ初めにその結びつきを強め、より己をしっかりと保つ必要がある。


これがしっかりしていなければ、肉体がその都度調子を変えるため、鍛錬の成果を生かしきれないからだ。



そして、それが終われば朝飯の時間となる。



一人娘の作ってくれた飯を食い、己の命と娘に感謝をする。


そして、それが終われば出勤する。


娘には我の仕事は魔法学園の講師だと言ってあるし、実際に魔法学園の講師も勤めておる。


まぁ、その学園が天界の経営するものではあるのだが。



「お父さん、いってらっしゃい。」


「応。行って参る。」



そして、家を出て職場に向かう。


本来はすぐに転移するのも良いが、己に時間というものを戒めるためにも職場までは普通に歩いてゆく。


そして、校内のとある一室で転移して天界へと向かうのである。




ついた先は白亜の宮殿の内側で、長く先が見えない廊下が続いている。



「おはようございます。武神ザキル様。」



と、その風景の中にぽつりと佇んでいた年老いた様相の神が声をかける。


神格化したのは私よりは遅かったが、すさまじいスピードで私の側近の一人に上りつめた若手のルーキーだ。



「応。今日の予定は?」


「はい。今日は先日の第4監視世界で起こった戦争の報告と纏めが届いております。確認をお願いします。」


「応。その後は鍛錬か?」


「はい。下級の第135軍の鍛錬をお願いします。」


「了解した。して、そなたはいかがする?」


「私めは外壁の巡回とその報告書作りを行う予定です。」


「ならば、街に出るついでに酒を買ってきてはくれぬか?かの世界の戦も終わり、ようやく時間もできてきた頃だ。良く働いたやつらに褒美変わりに振舞ってやりたい。」


「それは、喜びましょうぞ。天下の天武神様から直々に気遣い。」


「なに、此度は我の方がお主らに助けられたのだ。当然の事。それに、先日ちと良き事があっての。」


「ほう、その祝いも兼ねるということですか?」


「あぁ、此方は我が身の事ゆえ、お前らには関係無い事だが。」


「では、そのように。して、召集はどれほど?」


「首都の警備と管理世界の監視に18軍。緊急時のために5軍を控えさせ、残りを集める。此度出席できぬ者たちには、後日我が直々に声を掛けて酒を振舞おう。」



「それは… もったいなきお言葉。かの者どもも喜びましょうぞ。」


「うむ。そなたにはそちらの指揮を任せたいが、頼めるか?」


「はい。私ごときに任せていただけるとは、光栄の極みです。」


「謙遜はよせ。貴殿は良くやってくれておる。」


「ありがたきお言葉。」


「では、そのように。」


「は。」



そして、自分のあてがわれた部屋に入る。


実は、話しながら高速で掛けてきたのだが、生憎とこの程度の距離では息は上がっていない。


人間の世界から離れて形成した此方の体は、損傷をすぐに元に戻す魔法をかけ続けておる。


ゆえに、疲れも傷もない。



「さて、今日の分の仕事をこなすとしよう。」




そして、書類仕事をこなして午後となる。


幸い、書類の間違いやこれといった問題もなく、それを確認して戦闘を見守る事によって消費した物資の補給を行い、他の部門へ報告とそれに関連する仕事の依頼を行って午前の仕事を終えた。



「さて、軍部の実力が落ちていないか、量るとするか。」





我々の仕事の一つに、下の者たちの鍛錬がある。


さまざまな状況で的確に動けるように指導するのだ。


これは、本来我より下の者たちの仕事であるのだが、上位の武神は己の鍛錬も兼ねて偶にこうした場にも顔を出す。


そして、その場に応じて手合わせや指揮、戦術指南などを行って己の知識を見つめなおすのだ。



さて、今回我が担当するのは135軍。


ここは、新兵や武術を習いに来た者の集まった軍だ。



武神の中での階級は、かなり下の方になる。



詳しくは、武王を頂点とし、聖武三神の3名、我の勤める天武神の12名の計16名を上級神とし、各天武神はそれぞれ100の軍をつかさどる。


各軍は6階級の役職に分かれ、ほとんどの軍に関する事柄を各軍に任せておる。


そのため、我らの管理するは世界規模の戦いの報告と各軍間の調節がほとんどだ。



まぁ、先日は『白の書』の護送という大任をまかされたが、あのように少数精鋭で『超越した技術』を運ぶ等の仕事は滅多な事がなければ起こらない。


よって、我の仕事は専ら上記の事柄と、軍の鍛錬になってくる。




そして、今回向かう第135軍は、正規軍とは外れた予備軍となっておる。


101軍から200軍まであり、此方は招集をかけることで集まる軍だ。


武神候補生とも呼ばれ、いざという時の軍の補充と原石の採掘の場となっておる。


此方の軍の人数は、正規軍と比べて圧倒的に多いため、確率は非常に少ないが、偶にここから正規軍に引き抜かれる者もでる。


そして、その機会の一つが今回の鍛錬となっておるのだ。



「では、素振り1万本始め!」



そして、そんな場だからこそ勢いもある。


皆、必死に剣を振り、気を張り、己が力を認めてもらおうとする。



まだ青いが、十分将来性のある顔ぶれが多く見受けられ、非常にうれしい限りだ。



しかし、それらすべてを取り入れるだけの余裕は軍には無い。


いや、実際はそれだけ雇い入れても金銭的な問題はないが、あまりむやみに増やし過ぎると監視の目が行き届かなくなる。


それでは、有事に連携が取れず、問題があるのだ。



ゆえに、ここにいる者たちの中でも特に輝きを放つ者だけが選ばれる。




「ふむ。」



しかし、そうした才色のある者を見極めるのはとても難しい。


本当の才能は目に見えない事も多いからだ。


ゆえに、天武神たる自分の全霊をもって目を光らせる。


それは、まるで相手を睨みつけ、強烈な殺気を浴びせるが如き所業。



慣れぬ者、弱きものはそれだけで剣筋が鈍り、才を持つものはそれに応えて見せる。


そんな状態を見回り、幾人かの原石を見つけたころ、一際輝く者をみつけた。


それは、ただ静かに見る者。


それは、ただそこに在るだけで才を放つ者。



並みいる者たちの中でも剣筋に迷いが無く、それはさながら何かを相手に戦うような揺ぎ無い一撃を放つ。


しかし、非常に珍しい。



なにせ、その者は異質な身なりをしておる。


手には片刃の日本刀、胸や膝は鉄の鎧を着込み、頭には何もつけておらぬ。



その顔は世界的には良くいる一般的な顔立ちで、髪は茶色がかった金髪に青い目をした男。


しかし、その目は今は我が見えておらぬかのように、それでいて我を含めた全体を見渡しているかのように開けられており、瞬きもない。




「うむ。そなた。我と手合わせをせぬか?」



気がつけば、そう声をかけていた。


しかし、それは疑問系でありながら命令。

それは相手の男も分かっておるだろう。


しかし、答は否。



なぜかと問えば、自分はまだまだ未熟で、我の一撃を受ける資格がないからと申す。




「さずれば、汝は戦場で相手を選ぶと申すか?」



「私は敵を選びません。ただ、己の上に立つ者を選び、その方に尽くすのみ。」



まっすぐな目で見返すその目は、一つだけ語っていた。


それは、我に、自分の上に立つ資格はないのだと。


慢心過ぎれば己を殺すと。


…そして、そんな事が酷く当然のこととして受け入れられてしまった。




しかし、同時に思う。


これを乗り越えずして、いかにして上に立つ者としての風格を見せようか。


そう思ったら、自然と体は動いていた。






空気が凍りつく。


それは、兵士の中に動揺として広がり、またたく間に我の周りの剣を振る音が止まった。




「これは失礼した。我が名は武神ザキル。偉大なる武皇のもとに集いし貴殿と同じ志を持ちし者。どうか、我と手合わせを願えぬか?」



地に座り、座禅を組み、両手を握って地に突き立てる。


そして、深く頭を下げて礼を見せた。



その心は、同等の立場での申し入れ。




それが真に心からの言葉だと伝わったのか、彼もまた我と向き合い、同じく地に伏した。




「これは、偉大なる天武神の一柱にして武神ザキルの名を冠するお方に頭を下げられるなど、一神の一人にすぎぬ我にはもったいなき事。頭を御あげください。」



「我が願いは同じ心を持つ者としての立場の関わらぬ願い。この頼み、受けてはくれぬか。」



「…分かりました。しからば、我からも願いましょう。我らの願いは今一つとなった。


この願い受けてもらえましょうか?」


「承知した。


…者ども、場を開けよ!! 真円一周の領域を我らの地とする!!!」



その声とともに、我らを中心に半径200mが開けられた。


外周には様々な目をした者たちが見守っている。



我の先ほど目を付けた者たちは、この先の戦いを期待し、見極めようという目を。


愚かな者たちは、すでに彼が選ばれたものとみて憎しみと嫉妬、困惑の入り混じった目を。


単調な者たちは、祭りごとでも見るように浮かれた目を。


賢きものは、この後の事に思いをはせ、我らの戦いを目に焼き付けようと必死な目を。



さまざまな想いと心の中で、我らは立つ。



しかし、それも互いに対峙するまでの事。



互いが位置に収まると、空気もどこか張りつめ、周りの者たちもただ静かに見守るだけになった。






…そして、一呼吸ののちに互いに前に出る。



先に仕掛けたのは此方。


踏み込みでつけた勢いのままに斬りかかり、相手を一刀の下に切り捨てるべく振り下ろす。



これは、我が対峙した相手の力量を量るために打つ、相手の戦い方を見極めるための指針となる一撃。



あるものは避け、あるものは受け、あるものは流してその者の戦い方を伝える。



そして、今回の相手の場合は避けて我の腹を狙う。




しかし、我はそれを紙一重で交わし、返す刃で連撃を与える。



相手の剣は片刃ゆえに耐久度の高い物。


対する此方は両刃ゆえに汎用性の高い物。



重さと力は此方が勝るが、早さと強さは相手に分がある。



だからこそ、本来は刃の痛む前に勝負をつける必要がある。




しかし、急いては事を仕損じる。




最初は余裕があったが、何号か打ち合わせるうちに力が拮抗するように思えてきた。



それほどに、相手の放つ剣筋は鋭い。



人間ゆえに体力にも限界があり、常に完全な状態で戦える我らより劣るところはある。



しかし、それゆえに持つ一撃の重みは、無視できないほどに大きかった。



さらに、見ていると全身を惜しみなく使って技を繰り出してくる。


先ほどは異様に感じた胸当ては、剣を受けた時の反動を身体に流し、その衝撃を受け止め、和らげるもの。


ひざ当てはそれ自体が武器であるかのように、蹴りの際に足全体を使えるようにしたもの。



神の回復魔法を辛うじて使えるが、普通の神ならばそんなことをしている余裕はないほどの連撃の応酬が続いている。


ひとえに、日課の早朝鍛錬による無意識領域での回復魔法の行使が生きている。



だからこそ、疲れで相手の剣筋が落ちても全力で戦っている事が出来、時間とともに余裕を持つ事が出来た。



そして、一瞬の疲れから来る隙をついて相手の剣を切り上げ、返す刃でのど元に剣を当てる。




これで、我の勝利が決まった。




「恐れ入りました。先ほどの無礼をもう一度詫びなければなりません。」



「いや、実際我と互角にやりあうとは思わなかった。こちらこそ見くびっていた事を詫びたい。」



「御冗談を。まだまだ底が見えませぬ。」



「我の勝利はひとえに我が神ゆえの勝利。貴殿が鍛錬を積めば我を超えるやもしれぬ。」



「それでも、私の志があなたの志に届かなかった事に変わりありません。鍛錬に費やす時間の差を超えてまで、あなたは私に勝った。それが、事実です。」



「ならば、その言葉ありがたく頂戴しよう。」



そして、どちらともなく握手を交わす。


握ったその手は、どちらも硬く、強い意志を宿していた。




「…正規軍の方へ移らぬか?」



だから、至極当然の事を聞く。


しかし、何となしに我はその答えが分かっていた。



「いえ、私は忙しい身なので、誠に光栄ですが、辞退させていただきたい。」



「ふむ。ならば、時間の空いた時に我が鍛錬の相手となってはくれぬか?」



だから、次の言葉も滞りなく出せる。




「分かりました。私如きでよろしければ、いつでもお呼びください。」



「応。 では、者ども定位置へ戻れ!!鍛錬の再開だ!!!」



「「「応!!!」」」




…こうして、我は新たな鍛錬の相手を手に入れたのだった。




そんなちょっとした事件がありながらも、この日も変わらず訓練を見て戻り、目を付けた者たちを各軍に報告して席を立った。


そして、元来た道を戻って家へと帰る。



人間界に戻ると、日はとうに暮れ、手元の時計では21時をまわっていた。




「ただいま帰った。」



「父さん、おかえりなさい!」



家に帰ると、娘が出迎えてくれた。


どうやら2階の自分の部屋に帰るところだったらしく、片足は階段に添えられている。


若干髪が濡れており、寝まきからかすかな熱気が立ち上っておるところをみると、どうやら風呂上りのようだ。


しかし、我の姿を確認してすぐに廊下を戻っていく。


どうやら飯を温めなおしてくれるらしい。



「かたじけない。」


「うん?あぁ、これくらいどうってことないよ!」



元気に返す娘の声に心温められ、出してくれた飯を感謝していただく。


その味は、ここ数年で格段に腕を上げていた。



「うむ。嫁にやるのが惜しいほどだ。」


「あ、何言ってるのよ、父さん!!お嫁なんて、まだ早いよ!」



「いや、早くないぞ。我もそう思っておった時もあったが、人間年を取るのは早い。頃合いを逃せばすぐに生き遅れてしまう。お前も早く相手を見つけ、身を固めてくれると、我も安心して生きられるというものだ。」



「もう、そんなこと言って、私がいないとお父さん生きていけないでしょ?」



「確かに、生活が難しくはなろう。しかし、金もあるし、如何様にもできる。心配せずとも人はそうは死なぬ。」



「難しいこと言ってるけど、ようはお手伝いさん雇うのよね?そんなことしないでも、再婚でも何でもすればいいのに。」



「我が愛したものは今生では妻一人。そして、今はお前がいる。その他に目を向けるのはあり得ぬこと。お前には苦労をかけるが、それは分かって貰いたい。」



「分かるけどさ。お父さんはそれで幸せなの?」



「幸せか。満たされた人生を幸せと言うなら、我は幸せ者だろう。愛した者と結ばれ、一生を添い遂げたのだからの。」



「爺臭い事言ってないで、もうちょっと年相応の話し方すればいいのに。」



「我はこれが地だ。それ以外は我にあらず。」



「まぁ、良いけどね。じゃぁ、私はそろそろ寝るね。」



「うむ。早寝早起きは良き事ゆえ、ゆっくり休みなさい。」



「うん、そうする。お休みなさい。」



「おやすみ。」




そして、娘は部屋へと帰って行った。



少しすれば眠りに着いた気配がするだろう。



それまでに、娘の作ってくれた料理を堪能し、片づけて風呂に入り、心身を健康に保って寝るとしよう。



戦の処理でなかなか早く帰れなかった、久方ぶりの我が家を満喫しながら。




というわけで、第1章の最終話です。


登場人物、もう一人増えましたね。


…まぁ、どう出していくかはおいおい考えます。


そして、次回から第2章に入っていきます。


第1章が下準備だとすると、第2章は本編になります。


一応、第2章でも新たに数人のキャラクターが出ますが、基本的には今メインに書いている人を主役にして書いていこうと思います。

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