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第15話:死神の休息


「それで、今度はなんだ?」



部屋の隅で丸くなっている死神に声をかける。


俺の大切な本を盗み見ようとした罰に精神に干渉する魔法でありとあらゆる苦痛をねじ込んでやったから、多少延びているらしい。


ただ、これでも神々を束ねるの要所の一人だし、そろそろ回復するころだろう。


そう思っていると、のそりと起き上がって向き直ってきた。



「いやぁ、ただ遊びに…」


…どん!



近くにあった机が粉々に砕け散る。


…まるで内側から破裂したように。



存在魔法の一つで圧殺という、魂で包んで限界を超えて押しつぶしてやる大技だ。



さすがに、力技とは言え『神殺し』の一つを目の前で見せられは、死神も心なしか青ざめている。



「で?」


「はい、実は今回はあの本の事でして…」



「『白の本』か。俺の物なんだから、俺の好きにさせてもらって何が悪い?」


「あれはまかりなりにも『超越した技術』の一端。あんな誰でも持っていけるようなところに置いておいては、あまりにも危険すぎるのでは…」


「なに、貸し出しも行っているし、中身はただの白紙の本。選ばれた者以外には何の価値もない一冊だろうよ。」


「ですが、あまりにも危険が…」


「くどいな?あの時の契約を忘れたのか?」


「確かに、あの本を渡しましたが、まさかあのように扱われるとは…」


「俺は、俺のやりたいようにやる。今回は、本の持ち主を捜し、本をあるべき場所に置くことが俺の目的だ。文句は受け付けん。」


「でも、危険が…」


「くどい!ならばお前たち神の中からあの本を扱える者を見つければいいだろ?そうすれば、俺は喜んでそいつにあの本をくれてやる。」


「だから、神ですら扱えないから困っているんですよ…」


「それは、自業自得だ。諦めろ。」


「…」


「…」



お互いににらみ合う。

ただし、力の関係で相手に… いや、神には俺に頼む以外の方法がないのだろう。



「どうしても、下げてくださいませんか?」


「神の指図は受けん。」


「はぁ。」



溜息を吐いて肩を落とす。

こういった姿を見ていると、神も所詮は人なんだと思えてくるから不思議だ。



「それと、その気持ち悪い口調をやめろ。虫唾が走る。」


「ひど!これが俺の誠心誠意をこめた限界だって知ってて言ってるだろ!」


「そうか、そりゃ悪かった。じゃぁ、そろそろ帰れ。」



「…はぁ、これで俺首かな?」


「死神をか?よかったじゃねぇか。前々から魂を刈り取るときの苦悩がつらいって顔してたんだし。」


「俺、そんな顔してたのか?」


「痛いくらいの鉄仮面だったよ。」


「はぁ。まぁ、確かに俺には向いてないがね。」



「そんなに命を狩るのがつらいか?」


「死んでるって言ったって、所詮は瀕死状態のやつらだ。それに最後の一撃を与えて引き剥がすってことは、俺が殺しているようなもんだぜ?」


「肉体から魂を引き剥がすのに死ぬも殺すも無いだろ。」


「まぁ、そう思えるなら幸せだよ。」


「死神は普通そう思ってるもんだがね。」


「…」



黙って椅子に腰を下ろす死神。


黒いボロボロのフードつきの布と、足元は同じく黒い足袋を履いた、全身黒ずくめ。


元は人間だったこいつも、肉体を離れて何年もたち、人間の心なんてすでに忘れているはずだった。



でも、妙なところで人間らしさを残した不思議な奴だ。



だからこそ、俺も神のひとりでありながら、いまだに付き合いを続けているんだろう。




「今日は泊っていくか?」


「良いのか?さっきは帰れって言ってたのに。」



「…偶にはそういうときもあるさ。」


「そうか。じゃぁ、お言葉に甘えるよ。」



そして、あいつは背もたれに体重をかけると、うんと伸びをした。


それは、どこかすがすがしい感じにも思える。


と、何となしにそれを見つめていると、ちょっとした違和感を感じた。




そっちに目を向ければ、黒い影が死神の体から伸びてゆっくりと進んでいく。


そして、さっき壊したのとは別の机の上に登っていくと、そこに置かれた本に手を触れた…


瞬間。




「がぁぁぁぁぁ!!!!」



まるで雷にでも打たれたかのように大声をあげて気絶した死神。


身体の所々からは黒い煙が上がっている。



「…全く、俺があんな危険なところに本命を置いておくとでも思ったのか?」


「な、なぜわかった…」


「お前の考えはお見通しだ。どうせ、この本を白の本の代わりに持って帰って手柄にでもしようという魂胆だろ?」


「…ぐっ」


「まったく。手柄が欲しければ俺が作ってやるぞ?」


「いや、良い。施しは受けない。」



「…盗みは良いのか?」


「それは自力だ。」


「はぁ…」



とりあえず、盗まれて困るようなものは禁書庫にあるものだけなので、あそこの封印だけ強化しておこうか?


まぁ、元より主神の連撃でもビクともしないように守ってるんだがね。



あの結界を破るには、天界の最終機密兵器である『最後の審判』を5つくらい収束しないと無理だろうな。


それか、あの2000年かけて組み立てられたくそ難しい術式を解析するか。


どちらにしろ、俺に気付かれずにやるのはほぼ無理だろう。




「そういえば、あの魂はどうした?」


「あの魂って、こないだお前に依頼したやつか?」


「あぁ。転生したのか?」


「まさか。損傷が激しすぎて、おまけにその世界のいろんな魂がごまんと混ざり合ってやがる。当分はその分解と再構築作業、修復作業だろうな。」


「冥界の管轄か。大変そうだな。」


「あぁ。連れて帰る俺たちと違って、ずっと動かないから病むそうだ。」


「こんど、差し入れでも入れてやるか。」


「ほんと、お前はやさしいな。」


「いや。傲慢なだけさ。」



「…それでも、お前はやさしいよ。」


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