第11話:武舞の宴(本編)
相手の攻撃はただ単調な切り下ろし。
まっすぐ振り上げられた時点でそれは読める。
ここで避けてもいいが、あえて棒を構えて相手の攻撃を弾く。
棒の中段を持ち、腰も使って放たれた一撃で剣の正面から打ち込めば、普通の相手なら武器を手放すだろう。
しかし、相手は低級といえども武神。
その弾かれた一撃を利用して距離をとると、今度は左右からの2連撃を繰り出してくる。
それを最小の動きで避け、地面に突き立てた棒を軸に体を浮かび上がらせる。
そして、その浮いた体を軸にして今度は斜め上からの切り下ろしを放つ。
むろん、そんな大ぶりの一撃は避けられるが、これもよめていたこと。
交わしてすぐに攻勢に転じようとした相手の動きを抑えて距離をとる。
「手加減は不要と言ったはずだが?」
「なるほど、貴殿を少々甘く見すぎていたようだ。」
「『超越した技術』を使ってないだけで、ただの寿命の長い人間と見られちゃ困るんだけど?」
「確かに。思い込みは己を殺すとは良く言ったもの。」
「神の戦いに準備運動は必要ない。君の本気を見せてくれ。」
「あい分かった。」
今度もまた中段の構え。
しかし、相手の隙がさっきより少ない。
それは、相手の動きを見るものから、同等かそれ以上の者と戦う構えに変えた証。
だから、俺もそれを受けて気を引き締める。
見栄を張っても所詮は人間の自分と、低級とはいえ存在自体が高貴な神。
その差を埋めるのは、経験と力と知識。
今回は経験も力も相手に分がある以上、知識において勝つしかない。
ただ、相手の武術はほぼ分かっている。
どの軌道を取ってどのように攻めてくるか。
どのように守り、どのように戦うのか。
細かい相手の癖を除けば、相手のほぼすべてを知っているこちらに分がある。
そう思い直し、自分の武器を構えた。
それを合図に再び攻撃の応酬が始まる。
しかし、それは先ほどの物とは比べ物にならないレベルの物。
先ほどまでが相手の力を見極めるものなら、今回のは倒すための物。
相手の繰り出すのは無数の連撃。
それは、神の身体能力ですら達成するのが難しいであろう強力なもの。
一撃一撃の精度が高く、威力も十分にある。
さらに、所々に織り交ぜられたフェイントと合間に繰り出される鋭い突き。
通常は斬るための剣で突きを出すのは難しい。
確かに狙えない攻撃ではないが、一度引いてから突きだすその攻撃は、攻撃の通りやすさは高い物の、防御が一切できなくなってしまう。
ゆえに、普通は自分より弱い者か、防御を無視した時にしか使えない。
しかし、彼の放ってくる突きはその弱点を補って余りある。
剣での斬撃を放ち、その隙にできた一瞬の空白を持って下げ、死角を突いて突きだされるまさに神業。
それを何度も交わし、時には弾き、時には正面から受け止める。
そして、こちらの攻撃に転じて相手を薙ぎ払い、突き、叩き、惑わす。
技の応酬のたびにそれらはどんどん加速していき、今では人間ではたどり着けない高みに至っている。
ただ、これもまだ本気じゃない。
これは相手にも言えることで、呼吸の乱れすらない。
すでに人間をやめた身とはいえ、そのあまりの規格外には神ですら驚くであろう。
さて、本来はできないことができる。
これも、一種の『超越した技術』の一つである。
ただ、これは神の消した文明に残された知識ではない。
むしろ、そこまでされる文明の知識はもっとずば抜けた威力をもったものがほとんどだ。
では、どういったものなのか?
それは、神の定めた… いや、世界の定めた禁忌の一つを犯す愚行。
そして、至極当然の… それでいて偶然にも起きるはずのない確率の事象を兼ね合わせてできる技術。
完全俺のオリジナル。
『並列思考回路』
空間内に漂う魔素を魔力に変換。
それを使って脳内で行われている処理を体外の空間で行う。
そして、その情報を脳内で行った処理と合わせて行動する。
それは、一瞬が無限になる規模の思考能力。
一撃一撃が無限の時を刻むように遅くなる思考速度。
そんな中で、とある本に記されていた過去に起きたすべての出来事をすべて思い起こし、該当の状況と似通った状況を探してそれをもとに次の攻撃を予想。
そして、最善となる行動を選択し反映する。
通常は、こんなバカげたことはできない。
人間だろうと神だろうと、命あるものはみな平等に魂を与えられ、それを用いて魔力を作っている。
だから、魂の変換できる魔力までしか魔法を使えない。
当然、こんな『並列思考回路』なんて使える余力はどんな魔法使いにもない。
でも、魂が大きければ?
それこそ、人の何億、何兆倍も大きかったら?
それは、魔力の使える量も大きいということ。
つまりはそういうことだ。
余剰魔力を思考回路に回しているから普通のやつより頭が切れる。
で、相手の攻撃をよんで対応する。
正直、此処まで打ち合わなくてもすぐに蹴りはつけられた。
ただ、今回は相手の限界を知りたいという思いからきているため、相手にそれを分からせないといけない。
面倒なことだが、頼まれたらとことんやるのが俺の主義。
だから、相手の攻撃の浅いところを突いて、常人には分からないであろう隙をギリギリ交わせるように突いている。
切り上げ、振り下ろした時の脇と左頭部の死角。
後方からの攻撃を受けた時の反応の遅れ。
意表を突かれた時の一瞬の戸惑い。
何千年を生きた神でも乗り越えられない精神の壁。
達人でも神でもそれは同じこと。
ただ、常人よりは遥かにその壁が遠いだけで、決して届かない訳じゃない。
だから、そこを見極めてやる。
正直、これができるのは現在の世界では俺と武皇だけだろう。
主神ですら、接近戦に関しては頂点に届かない。
まぁ、武皇ならもしかするとこの『並列思考回路』を超えた動きを見せてくれるかもしれないけど。
ただ、その場合も一度だけだ。
その一度で俺を仕留めない限り、放たれたそれはすでに過去の技となって俺のデータバンクに保存される。
まぁ、それすらも『超越した技術』の前では無意味に終わる可能性が高いが。
さて、そうこうしている間に相手も疲れを見せてきたのか、攻撃を受けた反動で大きく距離を取った。
「どうかな?俺の腕の方は。」
「正味、己が未熟さを思い知らされるばかり也。我が武で貴殿を侵せると思っておった過去に恥じたい。」
「まぁ、俺の武術は魔法も使ってるからちょっと反則だけどね。」
「魔法に関するならば我も同じ。強化の術式がなければ我が限界は人にも劣る。」
「俺らの使う技に耐えられる武器はないしね。」
そう言いながらも相手への警戒は怠らない。
まだ戦いの途中であって、これで終わりではないからだ。
緊張の糸を緩めぬまま、次の一手を待つ。
そして、今度は俺の方から少し切り込んでみることにした。
今までの戦いを見て、ほぼ相手は万能系の動きを見せている。
それは、戦いにおいて苦手をなくすとともに、特異点もなくしている。
ただし、その万能系の隙を見つけるのは通常とても難しい。
それは、一種の防御向きの流派でもあるからだ。
そう考えた上での先攻。
長い棒の中ほどを持って跳躍する。
狙うは相手の頭。
ただし、それは棒の片側でのこと。
通常の武器では踏み込みの段階で攻撃はある一方向の半円にしか繰り出せない。
しかし、攻撃箇所の決まっていない棒の場合、上だけでなく下も使える。
それは、小さな動作で攻撃の幅をどこまでも広げることができるという特徴。
相手は直前でこの攻撃の矛先を読み、対処しなければならない。
しかし、逆にいえばその段階まで予備動作がないということ。
それは、攻撃の威力を大幅に低めるということでもある。
だから、戦いによる勢いのない先攻でしか使えない技でもある。
そして、相手はそれをすぐに理解したのか、鋭い目線で武器に注目する。
…しかし、甘い。
敵前で持っていた棒を動かし、片側で打ち付けると同時に、相手の足元に足払いをかけた。
「!!!」
驚く相手を余所に引っかけて宙に浮いた体を辛うじて弾き飛ばされた棒の力も利用して打ち抜く。
そして、相手に向かって駆け、追撃を狙う。
もちろん、それは手加減したが、そもそもあまり大技じゃなかったため、相手のダメージは少ない。
しかし、これから相手に放つ技は、おそらく神としては天敵になる技だろう。
…いや、常識にとらわれている限りとしておこうか。
飛んでいた相手が地面に足をつく。
それと同時に駆けだす。
それを見極めて、俺は棒を縦横無尽に振り回した。
それは、一瞬。
突っ込んできた相手の体が、空中の見えない何かにぶつかって弾き飛ばされる。
そして、それを追うように空気の塊が打ち出され、相手の体を痛めつける。
純粋な体技にして『並列思考回路』を極限まで活用する大技。
…空圧
振り回した棒によって空気の流れを一方向に絞り、そこにあった空気を押し出して打ち付ける技術。
通常は魔法によって発動する空気砲を魔法を使わずに実践した大技にして無駄な一つ。
ただ一つ、魔力を使わないために、本当に気づけないのだ。
それに気づくには、空気操作系の魔法で大気の状態を把握するか、俺の行動を見て軌道を予想するしかない。
まれに、勘で気づく強者もいるが、それはほとんどが人間だ。
だからこそ、事前の対応なしに…
いや、あったとしても、戦闘中にその対応が生きる可能性はかなり低い状態で挑むとかなり分が悪いから、実際はどうしようもない攻撃なんだ。
そして、その攻撃を食らった相手は案の定予想外の攻撃で打ちのめされてまともに立ち上がることもできないようだった。
「…今のは魔法か?」
「いや、純粋な体術だ。」
「…応。我が考えも酷く微温湯に浸かり過ぎたようだな。」
「あの技は初見で見切れる技じゃないけどね。」
「しかし、見せたという事はその域も超えておろう?」
「見てもどうしようもない技だとでも?
…とんでもない。
あれは、ただの小技だ。」
「なるほど。我も落ちぶれたものよ。
なれば、さらに高みに待つ物もあろう?」
「まぁね。それは教えられないけどね。」
「ふむ。あいや、分かった。これ以上貴殿に迷惑を被る事は避けねばなるまい。」
「いや、こっちも武神相手にどれだけ自分の技が通用するかわかってよかったよ。」
「さずれば、またの機会に再戦の約束をしては貰えぬか?
その折は、我も更なる高みにて貴殿と相まみえる事を約束しようぞ。」
「こちらこそ。こんな機会は少ないからね。また頼む。」
「応。それでは、我が思いも成し遂げたところで帰路に着くとしようか。」
「あぁ、『白の書』の配達ありがとな。
また写本は後日送るから、楽しみに待っててくれ。」
「応。それでは、失敬。」
そう言って彼は次元のひずみに体を沈めていく。
それは、神特有の移動手段の一つ。
人と違い、元は魂だけの存在である神にとって、身体とは魂の形に沿って物質が構築したもの。
だから、本来人の姿を取っている必要もなければ、そもそも姿形を持つ必要もない。
だからこそ、空間移動のときは次元のひずみに魂だけとなって入り込んで移動する、いわば電気のようなものだ。
そして、移動先でまた身体を構築するんだろう。
さっきの武神が人の身だったのは、おそらく俺に配慮したためなのと、効率がいいからだ。
人の体は身体的機能の点からいえば神の限界に劣るが、肉体を構成し、汎用に動かす点においては比較的使いやすい。
魔法生物である彼らは基本的に目や鼻はなくても周囲の状況を理解できる。
しかし、詳細な風景や匂いを知るためにはどうしても感覚器官が必要になる。
そして、そのためには身体を作り出す必要がある。
その体なんだが、目や鼻は別にいくつあっても良いし、手が10本あったりしても本来は良い。
しかし、そうするとバランスがとりずらくなる。
さらに、大きければ鈍くなるし、魂の大きさまでしか拡大できない。
よって、今のところは人型が動きやすい形の一つと言われている。
まぁ、手足の代わりに魔法を使えるから、そういう点では別にどんな形でもいいんだがね。
だから、全身目で覆われた魔法生物みたいなのや、目と鼻と口だけの化け物じみたやつもいる。
そして、イルカ見たく超音波で周囲を感じとる者もいるし、まぁ、挙げればきりがない。
というわけで、本来魂生物である神は、移動の際身体が混沌に入り混じるのを気にせずに空間移動できるわけだ。
そんなこんなで、彼らも帰って行き、今回の騒動も終わった。
これで、またしばらくは静かになってくれるだろう。
まぁ、カウンターに飾っておいた『白の本』の事を神がいつ気づくかにもよるけどね。。
皆さん、はじめまして!
一応作者です。
と、11話になって今更挨拶とは、遅すぎますかね?
…すいません^^;;
本当はもっと前に色々と書いてたんですよ♪
ただ、あとがき書いたときに限ってなぜか消えるんですよね…
サブタイトル入れ忘れたり、掲載予約の時間ミスったりして^^;
という言い訳は置いといて、皆さんどうですか?
楽しんでもらえてます?
正直、今までの話は人物紹介と主人公の能力紹介、あとは細々した設定を色々話してるだけなんで、面白みがないかもしれませんが…
そして、一つ謝らないといけないのが、もうちょっとこれ続きます。
というか、第1章は本編の下準備ですね。
ほんとに小さい設定は全部入らないので、要点だけにしたいんですが、意外とこの説明が難しいんですよ^^;
どんどん書きたいことが増えて、結局は物語の大半が説明文なんてザラ…
まぁ、それで主要キャラだけ出し終えれば物語に入れますがね。
あ、「これが終われば面白い!!」なんていう大それたこと言う気じゃありませんよ?
…てか、色々書きたいことが膨らむんですが、長々と書くのも難だし3つほど皆さんにお伝えしときます。
1つ目は、物語中にキャラの性格が変わるときがありますが、許してください…
気づけば直してますが、なかなかすべて見直すのも難しいんで…
理由としては、直前まで読んでいた小説の影響をもろに受けるためです!
内容も一部そうなってるところあり。
で、2つ目が誤字脱字です!
これは、どこでもそうですが自分だけではどうにもなりません;;
見つけたら教えてもらえるとうれしいな♪
そして、3つ目。
…此処まで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます!!!
正直、読者がいる現状が驚きです…
こんな駄文…
作者の気力や集中力、リアルの事情で2カ月ほどで完結させたいし、そのためにも今までハイペースで進めてきましたが、これからはこのペースの執筆は前後の話の脈略と合わせたいので、難しいかもしれません。
ただ、精一杯完結まで書ききりたいので、今後ともお付き合いよろしくお願いします!