第10話:武舞の宴(前戯)
戦いの相手をしてほしいという武神
その目を見る限りでは、魔法を使った総合的なものを思ってるんだろう。
実際、ただの魔法使いが武器を持ったところで、専門の武神に勝てないのは当然だ。
だから、相手は魔法対武術の戦いを望んでいるとみていい。
…しかし、本当にそれでいいのだろうか?
相手は武神。
ということは、おそらくは武術で相まみえたいと思っている。
なら、そっちの力を示すべきではないだろうか?
幸いにして、何にも対抗策がないわけじゃない。
只の図書館の管理人といえども、2000年は生きてるわけだし、普通の人間よりは武術が使える自信だってある。
まぁ、普通は本職の… しかも、自分より長く生きてる奴にはかなわないけど。
だから、ある程度本気で。
しかも、自分なりのオリジナルの戦い方を披露しようと思う。
おそらく、全世界で神すらも使えない武術。
その一端。
いくつもの『超越した技術』を掛け合わせ、自分の発想のもとに現代の技術・未来の技術も取り入れて作られたオリジナル。
手加減は… しない。
相手の武神が構えをとる。
空間の歪から取り出したのは剣。
おそらく天界から取り寄せたのであろうその剣は、幾重にも幾何学的な文様が刻まれている。
その意味するところは『破魔』と『強化』。
シンプルだが、性能は汎用性に富んで万能。
対魔法使いでは妥当な選択だろう。
あの武器の素材はおそらく世界最高品質のオリハルコン。
それはすべてを超える強度と硬度を兼ね備える幻の存在。
現在の世界基準ではそれを超えるものは生み出されていないという極地の一つ。
それを中段に構えて距離をとる。
まぁ、一番の基本形だな。
対する俺は剣でも槍でもない。
魔法使いの主流は杖。
しかし、今回は普通の杖じゃない。
棒術と呼ばれるこちらも基本に忠実な武術のひとつ。
その心得は『風林火山』。
本来の意味は、
疾きこと風の如く
徐かなること林の如く
侵し掠めること火の如く
動かざること山の如し
しかし、俺の場合はちと意味が違う。
風にとらわれず
林に惑わされず
火に耐え
山をも侵せ
これは、俺の考えた俺なりの答。
そして、それにそった俺の武器が、俺の棒術の中核となる一本。
手に集めた魔力で空間の道を開き、それが眠る場所から呼び出す。
そして、呼び出しに応えたそれは、俺の作りだした道を通って右手に収まった。
それは、白亜の棒。
それは、俺の背丈ほどもある長い棒。
六角柱の細長いその棒には、さまざまな文様がびっしりと刻まれている。
そこに書かれているのはさまざまな言語。
しかし、そのすべてはたった一つの意味。
ただ、『強く』とだけ書かれた棒は、うっすらと輝く魔力の光で青白く輝いて見えた。
「貴殿の武器はその棒か?」
「あぁ。これが俺の得意武器でね。」
「うむ。見た処武術をやるようには見えんが…」
「俺は俺なりにこういうのも使えるんだぜ?」
「あい分かった。貴殿がそう申すなら我にとやかく言う筋合いは無し。」
「そう。何事も戦うまで分からない。」
「今一度問うが、我と武術で相まみえる気か?」
「手加減は不要だぜ?」
「ならば、いざ尋常に勝負。」
そして、俺たちは互いに1歩を踏み出した。