第5話-2 孤独な優等生
(やっかまれているのか?)
アレクサンダーは後ろの席からミハエルの背中を見つめつつ、手を顎にあてて、あれこれ考えを巡らせてみる。
ミハエルはいつも決まって教室の窓際の一番前の席に座った。
二人掛けの席にいつも一人で。
誰も彼の隣に座ろうとしない。
だからといって、あからさまに苛められているのかというと、そうではなさそうだ。
ギムナジウムでの生活を送る上で、最低限のやりとりはしている。
先日も級友たちと授業で必要な会話をしている姿を見かけた。
人間とは不思議なもので、本人が至って真面目で何の問題も起こさないのに、あまりにも優れていると今度は嫉妬の対象になることもある。
苛めではないのだとしたら、やはりやっかまれているのだろうか。
と、まぁ、そんなことを考えてみても、ミハエルを取り巻く環境は今のところよく分からない。
すべてアレクサンダーの思い過ごしということもある。
そんなことよりも―――……、アレクサンダーはミハエルの背中をジッと見つめた。
「泉で会ったのは、お前だよな?」
本当は、はっきりとそう問うてみたい。
が、ミハエルはそっけなくて隙がないし、アレクサンダーはアレクサンダーで新しい環境に馴染むのに必死だった。
比較的裕福な家庭の子どもたちが多いこのギムナジウムであるが、やはり今まで居たところとは勝手が違う。
育ちの良い子たちとはいえ、根本的に階級の違う人間と毎日過ごすのはこれが初めてなのだ。
アレクサンダーは人との関わりは得意であると自負している。
人間関係を築く上で特に最初の印象作りは重要だ。
アレクサンダーはこのギムナジウムにおいて、自分の姓にかかる称号を自覚していた。
このギムナジウムの者たちがこの称号をどう解釈するかは、己の立ち回りにかかっている。
自身を取り囲む無邪気な級友たちと上手く関係を築くのは、今のアレクサンダーにとって最重要事項なのである。
(それにしても)
アレクサンダーは、ふむ、と顎にあてる。
(ミハエル・ダミッシュは謎めいている)
話しかければつっけんどんに返し、級友たちともほとんど会話しない。
教師たちには優等生として取り繕っているし、自己開示しているのを今のところ全く見かけたことがない。
笑顔といえば顔に貼り付けた儀礼的なものばかりで、誰かと腹を割って話す気など毛頭なさそうだ。
腹の底から笑っている姿など、想像もつかない。
彼の本当の人となりというのが、いまいち見えてこないのだ。
ミハエルがこの教室でどういう立ち位置にいるのか、アレクサンダーは探ってみることにした。
「ミハエル、お前もこっちに来いよ」
数名の級友たちと教室で話が盛り上がっている時に、アレクサンダーは輪に入るようミハエルに明るく声をかけた。
本人と級友たちの反応を見極めるために、意図的にやっている。
級友たちがギョッとする気配を、アレクサンダーは見逃さなかった。
「僕は遠慮するよ。先生に用事があるんだ」
ミハエルは顔に笑みを張り付けながら丁寧に断った。
先ほどまで大人しく勉強していたのに、わざとらしく席を立つ。
(ふむ)
やはり、ミハエルと級友たちとの双方から、何かぎこちない空気が流れているのを感じ取る。
またある時、校庭で蹴球フースバルをすることになった時のことである。
「ミハエルも誘わないか?」
気軽を装いつつ、モーリッツに訊いてみる。
モーリッツは級友の中でもいたくアレクサンダーのことを気に入っていて、最近よくつるんでいる。
モーリッツは気まずそうに答える。
「アイツ、運動は苦手だぜ」
ミハエルのことを慮るように見せかけて、その口調からは誘いたくないのがありありと伝わってきた。
「ふーん?」
さらにモーリッツは、ポリポリと頭を掻きながらボソリと呟いた。
「……アイツんち、複雑なんだよな」
「それは、どういう」
言いかけたその時、
「モーリッツ!」
ヨハンに呼ばれ、モーリッツは先に行ってしまった。かと思うと、もう一度扉のところまで戻ってきて叫んでいる。
「アレクも早く来いよ!」
「おう、今行く!」
モーリッツが呟いた言葉を頭の隅に書きとめて、彼の後を追いかけた。




