第12話-2 興味
(家族との仲は、どうなのだろう)
ミハエルの言葉では自ら選んであの小屋に居るような言い方をしていたが、アレクサンダーには、どうも屋敷と小屋との間で何か深く断絶された空気が漂っているような気配を感じている。
それにしても本人からの申し出とはいえ、子どもが一週間も学舎を休むような風邪を引いて本邸にむりやり連れ戻されることもしないのだろうか。
ダミッシュ家ほどの大きさの屋敷ならば、風邪の子どもを一人隔離するくらいの部屋はありそうなものであるが。
(家族とまったく接点を持たないということは無いだろうが、いや、でも……)
訊いたところでミハエルはおそらく答えてはくれないだろう。
(俺が踏み込みすぎなのか?)
高い天井を見つめながら考える。
小屋に立ち入られて嫌そうな顔をするミハエルの顔を思い出す。
(……いや、まあ、それはそうだな)
だからといって、ミハエルをこのまま放っておくのは何か違うような気がする。
ここ数日で明るみになったミハエルの状況に、何か違和感のようなものを感じている。
(ミハエルは限りなく独りぼっちだ)
ミハエルへの個人的な興味は別にしても、一週間も休んであんな風に少しやつれた同級生を見れば心配になるのは当然ではなかろうか。
むしろ放っておける方がどうかしている。
(ミハエル・ダミッシュは謎めいている)
心の中でその言葉が思い返された。
ミハエルは自己開示しない。
最初は自身の泉の思い出に触れるつもりで近づいたミハエルだが、今はそれ以上にミハエルのことを知りたいと思っている。
それくらい、彼は秘密めいている。
アレクサンダーは、寝転がったまま自室の立派な造りの書机に目をやった。
そろそろ課題に取り掛からねばならない。
そして、つと思う。
ミハエルはこれから一週間分の授業の遅れを取り戻さなければならない。
ギムナジウムの授業は、内容が高度だ。
大学進学を目的とした機関であるからして、難しくて当然である。
生徒の中には、日々の授業や課題にいっぱいいっぱいで精神的に追い詰められたり、授業に追いつけなくなったりする者もいる。
稀に卒業叶わず去っていく者もある。
モーリッツが言うには、今のギムナジウムでも辞めていった者が学年を問わず数名いるという。
ギムナジウムの難関試験に突破して入学してもこれである。
これまでこのギムナジウムで主席をの座を維持してきたミハエルも、一週間分の遅れを取り戻すとなると大変なのではなかろうか。
現にミハエルは登校を再開して以来、休憩時間を潰してたびたび教師の元へ足を運んでいる。
(今日はノートを受け取ってくれてよかった)
思いの外、ミハエルは素直にノートを受け取ってくれた。
その素直さこそが彼の本質のような気がした。
それこそ、泉の少年を彷彿とさせるような―――……。
「君には、関係ない」
粗末な小屋の中で放たれた、ミハエルの言葉が頭をよぎる。
きっちりと自分と他人を線引きした、あの拒絶感。
(ミハエルの本音はどこにあるのだろう?)
あのビー玉みたいに空虚な眼。
本来の彼は、もっと凄い輝きをたたえた眼を持っているはずなのに。
ミハエルにとって、誰かと心通わせ、安らぎを得られる時間が少しでもあるのだろうか。
ミハエルの、その瞳の暗く奥に抱えている深淵を払拭したい衝動に駆られる。
ふと、アレクサンダーはモーリッツが言いかけた言葉を思い出す。
―――アイツんち、複雑なんだよな
アレクサンダーは天井を見つめながら考える。
(モーリッツに訊いてみるか。)
アレクサンダーはそこまで考えると、起き上がって勉強に取り掛かることにした。




