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第9話 影の封じ手

レンの視覚化能力が、静かに限界へ近づきつつある――。

町では魔道具の誤作動が続き、世界の地脈にも微細な揺らぎが現れ始めた。

そして“それ”は、ある朝、気づかぬうちに足元まで忍び寄っていた。

静かに、しかし確実に世界のバグが牙を剥きはじめます。

では、第9話「影の封じ手」をどうぞ。

レン達が住む町エルドの朝は、いつもより張りつめていた。

昨夜から続く魔力の乱れを敏感に察したのか、

市場の人々は落ち着かず、ひそひそと噂を交わし合っている。

「森の方……なんか黒い影が見えたってよ」

「また魔獣か? この間の一件で魔力が狂ってるんだろ……」

町の入り口近くに、レンとミオが立っていた。

「なんだか、いや~な空気ね……」

ミオが眉を寄せる。

「うん、昨夜から森の魔力分布が乱れてる。まだ大きな被害は出てないが……」

レンは視界の隅で流れる淡い光の線――“構造コード”をみつめた。

必要な情報だけが浮かび上がるフィルター処理は、

昨日よりも安定している。

(……とはいえ、慣れない感覚だな。雑音は減ったけど、精度が上がった分、違和感もはっきり見える)

「レン、また“視えてる”の?」

ミオが心配そうに覗き込む。

「大丈夫。……ただ、森が呼んでる気がする」

「呼んでるって……あんた、詩人なの?」

「俺のセンスをバカにするのやめてくれる?」

軽口を交わしつつ、二人は北門へ向かった。

北門に到着すると、見張りの兵士がレンに気づいて声をかけてきた。

「冒険者さんたち! 森の中に妙な魔影がいるって通報があったんだ。

まだ近くには来てないが……念のため調査を頼めるか?」

「わかった。様子を見てくるよ」

レンは頷き、ミオも剣の柄に手を添える。

二人が森へ足を踏み入れた途端――

空気が変わった。

冷たく、湿ったような気配。

まるで“闇”そのものが森を覆っているようだ。

「……なにこれ。すごく嫌な感じがするわ」

ミオが身をすくめる。

レンも頷いた。

(魔力の流れ……完全に(ゆが)んでいる。普通の魔獣じゃありえない)

森の入口で足を止めた瞬間、視界に“ノイズ”が走った。

黒い(もや)のような揺らぎが前方に浮かび上がる。

(……影のコードが(ゆが)んでる? いや、破損……?)

既存の魔獣がまとっている魔力とは違う。

ひび割れた画面のように、存在だけが欠け落ちている。

「レン、また見えてるのね。……顔、ちょっと青いわよ?」

「大丈夫。この程度なら問題ない。……けど、あれは普通じゃないな」

ミオが不安げに囁く。

「ま、また変なやつ……?」

「その可能性が高い」

二人は慎重に森の奥へ進んでいく。

ふと、ミオがぴたりと立ち止まった。

「……聞こえた?」

「いや、何も」

「……違うの。気配。すごく薄いのに、妙に圧がある」

エルフ特有の感覚だろう。

ミオの言葉を裏付けるように、レンの視界でも黒ノイズが波打った。

その瞬間――

“影”が弾けて現れた。

――シュンッ。

黒い(もや)の塊が、木々の間を滑るように移動する。

姿を現したのは、(ゆが)んだ獣の形をした影の魔獣。

《エラービースト》。

存在そのものが不自然に揺れ、

部分的に“欠損”したように見える。

「うっ……っ!」

ミオが後ずさるほどの不気味な圧。

「……なるほど。影に潜って位置をずらしてるな」

レンは淡々と分析する。

「なんでそんな冷静なのよ!」

「だって視えるんだよ。コードが、ほら」

レンは指先で空中をなぞるようにし、

エラービーストを取り巻く黒い線の束を示した。

途端にミオが顔をしかめる。

「……気持ち悪い……」

「触れてみる?」

「嫌に決まってるでしょ!」

エラービーストが動いた。

地面に落ちた影が裂け――

次の瞬間にはミオの背後に回り込んでいる。

「速っ――!」

「影経由だ。位置座標を上書きしてワープしてるようなもんだな」

「説明いらないから助けてぇ!!」

ミオが叫ぶのと同時に、

レンの杖が光を放つ。


《if enemy.shadow == true : emit("光源")》

《loop 3 : cast〈ライトバースト〉》

《break》


バンッ!

眩い光が森を照らし、

影が強制的に剥がれ落ちる。

「ギャアアアアアッ!」

エラービーストは苦痛の叫びをあげた。

ミオがすかさず距離を取る。

「今のなに!? コードみたいなの見えたけど……」

「影属性に対しての強制干渉ルーチン。まあ光をぶつけただけさ」

「言い方!」

影が弱まり、エラービーストの姿がようやく固定される。

レンは続けざまに、視界に浮かぶ黒ノイズの“線”を掴むようにして引きちぎった。

バツッ!

影の補正が完全に断たれた。

「……なっ!? 今、何したの?」

ミオが目を見開く。

「影に潜るコードを無効化した。……もうワープはしない」

「無効化って……指でちぎっただけじゃない!」

「あれはコードの“実体化”だよ。説明すると長くなる」

「説明しなさいよ!!」

その間にも、エラービーストは暴れ回っていた。

だが、影補正を失った今は遅い。

ミオが剣を構え、

「行くわよ!」

と叫んで飛び込む。

レンは後方から補助魔法を展開。


《cast〈ショートバフ〉》

《if Mio.hp < 70% : auto heal》


「ミオ、左足の関節が弱ってる。踏み込みは浅めに!」

「なんでそんなことまで知ってるのよ!」

「視えてるから」

「便利すぎるわよその力!!」

ミオの一撃が、エラービーストの胸部を貫く。

黒い(もや)が散り、魔獣は崩れ落ちた。

残骸が地面に消えていくと、森の空気がようやく軽くなった。

ミオが肩で息をしながらレンを見る。

「……ふぅ。なんとかなったけど……あんた、やっぱおかしいわよ」

「心外だな。俺は常識的だぞ」

「その“常識”が異常なのよ!」

レンは苦笑した。

(……情報の流れは安定してきた。慣れればもっと見える範囲が広がる)

だが、森の奥から微かな気配を感じた。

「……まだ終わりじゃないな。何かが動き始めてる」

ミオも同じ方向を見ていた。

それは、次なる“覚醒”と“運命”の始まりを告げる気配だった。

第9話は大幅増量&バトル強化回でした!

レンの能力の真価が少しずつ露わになっていきます。

次回ついに――

ミオの“第一覚醒”イベントへ突入!

ブックマーク・評価励みになります!

次話も平日昼に投稿予定です。

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