第50話・最終回 世界修正、その先で
それは、
剣を振るうための戦いではなかった。
世界に「在り続ける理由」を問う、
最後の問いだった。
蒼紋の丘の空が、
ゆっくりと、しかし確実に“剥がれ落ちた”。
雲が裂けたのではない。
空そのものが、裏返った。
空の向こうに広がるのは、
光の存在しない“影の海”。
そこから、歩いて出てくる影があった。
巨大ではない。
禍々しくもない。
だが――
その影が立つだけで、世界の色が失われていく。
影界王ゼヴァリオン。
存在そのものが、
「世界を侵食する概念」。
背後には、整列する十の気配。
影滅十二将――残る十体。
彼らが一歩踏み出した瞬間、
大地が“きしんだ”。
ミオが、思わずレンの袖を掴む。
「……来たね」
レンは、静かに頷く。
「ああ。
でも――終わらせる」
その声には、恐怖がない。
前へ出たのは、カイとセリスだった。
カイの姿は、すでに変化している。
青年へと移行した長身の体。
引き締まった輪郭。
そして――肌に浮かぶ、蒼く燃える竜の刻印。
だが翼はない。
竜化もしない。
すべての力を、人の形に圧縮した覚醒。
セリスが、そっと隣に立つ。
「カイ……無理はしないで」
「わかってるよ、姉さん」
カイは笑う。
「俺は“竜”になるんじゃない。
――人のまま、勝つ」
ゼヴァリオンが、低く嗤った。
『……原初竜王と、同じ答えだ』
レンが、一歩踏み出す。
「――配置、開始」
その声に応え、
十二の小さな存在が、世界に散った。
《子》チトラが宙に舞う。
光と闇が螺旋を描き、戦場を包む。
《子》チトラ
『魔力偏差、修正開始』
影滅将たちの歪んだ魔力が、
強制的に“均される”。
《丑》モーロスが地を踏みしめる。
重力が再構築され、
崩壊寸前だった大地が“戦場として固定”される。
《寅》ラガンは、音もなく消えた。
次の瞬間、
影滅将の一体が膝をつく。
速さが、理解を置き去りにした。
《卯》リリアの光が、仲間を包む。
「だいじょうぶ……
傷も、心も……治る……」
《未》フェリオンの結界が展開され、
恐怖と呪流を遮断する。
《申》コングルが、レンの肩で鳴く。
『敵行動、予測更新!
三秒後、同時攻撃!』
ミオが、深く息を吸う。
「――感情支援魔法」
恐怖、焦燥、死の予感。
それらが共有され、薄まっていく。
「……レン」
「大丈夫だ」
視線を交わさなくても、
想いは通じていた。
影界王が、腕を振るう。
空間が削れた。
存在が“欠ける”。
その一撃を、
セルヴァンが前に出て受け止める。
完全体の王として。
「――この世界は、
もはやお主の狩場ではないぞ」
王権が、発動する。
影界の侵食が――止まる。
ゼヴァリオンが、初めて目を細めた。
『……なるほど』
その刹那。
カイが踏み込む。
圧縮された力が、拳に集束する。
蒼い一撃。
影滅将の一体が、
“存在していた事実ごと”砕け散る。
セリスが、即座に支える。
「大丈夫?」
「ああ。
……支えられてる」
残る影滅将が、同時に動く。
その瞬間――
レンが告げた。
「――時間権限、完全解放」
世界が、止まる。
風も、光も、影も。
すべてが“停止した絵画”になる。
レンは、歩く。
ミオの横を通り、
神獣たちを見て、
セルヴァンに一礼し、
カイとセリスの背を見る。
(……俺は、一人じゃない)
レンは、原因ではなく“結果”だけを書き換える。
影滅将たちは、
「存在していた時間」を終えただけ。
時間、再開。
影界王ゼヴァリオンが、崩れ落ちる。
『……原初竜王も』
『同じ顔をしていた』
レンは、手を差し出す。
「終わりです」
影は、静かに消えた。
影界王ゼヴァリオンの崩れ落ちる影の奥で、
なおも世界を蝕もうとする“残滓”が暴れ狂う。
それは、
「王が消えてもなお残る概念的侵食」。
レンが、静かに告げる。
「――十二神獣。
完成体への“仮到達”を許可する」
小さな体に、神代の紋様が走った。
《子》チトラ
決め技:
《均衡再構築・ツインパラドクス》
光と闇が同時に展開。
敵味方、善悪、存在と非存在。
戦場の“偏り”そのものを修正し、
影界の呪流を無力化する。
影が、ただの影に戻っていく。
《丑》モーロス
決め技:
《世界架橋・グラヴィティピラー》
大地に拳を打ち込む。
重力柱が無数に立ち上がり、
崩壊寸前の戦場を“固定世界”として再定義。
「戦える地面」を作る――
それが、建築神獣の真価。
《寅》ラガン
決め技:
《瞬界断・ラストストライド》
世界の端から端まで、一歩。
影滅将三体が、同時に“切断”される。
速さは、力を超える。
《卯》リリア
決め技:
《生命回帰・エターナルララバイ》
光が、優しく降り注ぐ。
傷だけではない。
恐怖、後悔、死への恐れ。
「心」そのものを回復させる奇跡。
《辰》リュニス
決め技:
《原初竜律・蒼界共鳴》
カイの蒼核と共鳴。
竜王の血が、正しい形で覚醒する。
「暴走しない覚醒」
それが、リュニスの役割。
《巳》ミィナ
決め技:
《毒界反転・アポトーシスループ》
敵の呪毒を解析し、
即座に“解毒不能な毒”へ反転。
影滅将が、自壊する。
《午》ガイオス
決め技:
《疾風号令・テンペストマーチ》
味方全員の行動速度が倍化。
時間操作と重なり、
戦場が“置き去り”になる。
《未》フェリオン
決め技:
《絶対防護・セイクリッドフリース》
結界が、世界を包む。
「守れなかった未来」を、
ここで終わらせる。
《申》コングル
決め技:
《原初解析・コードオーバーレイ》
影界の構造式を暴き、
レンの書き換えを補助。
「世界を読む」神獣。
《酉》シェルファ
決め技:
《天穹伝令・セレスティアルコール》
戦場全域を掌握。
敵の位置、行動、未来予測――
すべてが共有される。
《戌》バルゴ
決め技:
《忠誠嗅覚・ラストアラート》
ゼヴァリオンの“最後の悪意”を感知。
不意打ちを、未然に消す。
《亥》ドルン
決め技:
《原界突破・グランドブレイカー》
世界の底を踏み抜く。
侵食された影界層が、完全崩壊。
レンは、静かに頷いた。
「……十分だ」
セルヴァンが、完全体で立つ。
「――これで、終わりじゃ」
影界王ゼヴァリオンは、
静かに消滅した。
それぞれの「これから」
ミオ
夜風の中、レンの隣。
「……ねえ。
戦いが終わったらさ」
「一緒に、生きようよ」
レンは、迷わず頷く。
カイとセリス
並んで空を見上げる。
「兄ちゃん、強かったな」
「あなたもよ」
人のまま、竜を超えた。
十二神獣
小さな姿に戻り、眠る。
だが――
その背には、未来がある。
セルヴァン
蒼紋の丘を見渡し、微笑む。
「良き時代じゃ」
ユナ
レンの隣で、静かに言う。
「あなたは、
私が誇る弟よ」
レン
空を見上げ、深く息を吸う。
「――終わったな」
そして、歩き出す。
物語は、ここで終わる。
人生は、ここから続いていく。
<完>
英雄は、一人じゃなかった。
世界を救ったのは、
共に在ろうとした人たちだった。
――でも、
彼らの人生は、続いていく。
完。
最後までお読みいただきありがとうございました。




