第45話 三年後の世界、変わらぬ空の下で
三年。
それは人にとっては長く、
世界にとっては一瞬の時間。
だが、確かに――
彼らはその三年を、生き抜いた。
蒼紋の丘。
かつてと変わらぬ青空。
だが、空気そのものが違っていた。
大地に走る微細な魔力の脈動。
結界は意識せずとも張られ、
風は静かに、しかし力強く流れている。
そこに、一人の青年が立っていた。
レンだ。
外見は大きく変わらない。
だが――存在の密度が違う。
ただ立っているだけで、
世界の側が彼を“基準”として認識している。
レン
「……三年、か」
懐かしむような声でも、
感慨に浸るような声でもない。
“確認”だ。
背後から、軽い足音。
「兄ちゃん」
振り向いた瞬間、
そこにいたのは――青年の姿をしたカイ。
変身ではない。
だが、いつでも“あの姿”へ移行できる余裕がある。
蒼い竜紋は、今は沈黙している。
レン
「……落ち着いたな」
カイ
「三年もあればね」
その声には、焦りも恐怖もない。
あるのは、覚悟を越えた安定。
セリスが続く。
「もう、守られるだけの姉じゃないよ」
彼女の背後には、
淡い蒼の守護紋が常に展開している。
“蒼竜守護形態”は、
もはや一時的な覚醒ではなかった。
レンの隣に、ミオが並ぶ。
雰囲気は変わらない。
だが、彼女の魔力は――常に全体を包むように配置されている。
支援・補助・感情増幅。
それらが無意識に最適化されている状態。
ミオ
「……なに、ぼーっとしてるの」
レン
「いや。
ちゃんと、全員ここにいるなって」
ミオは少しだけ視線を逸らす。
「当たり前でしょ」
だが、その距離は自然だった。
足元で、何かが鳴いた。
《子》チトラは、もはや幼獣の姿ではない。
完全体への“入口”に立つ存在感。
《丑》モーロスの重力制御は地形と同化し、
《寅》ラガンは影のようにレンの背後にいる。
《卯》リリアの治癒は“常時展開型”。
《辰》リュニスの瞳は、未来の分岐を読む。
他の神獣たちも同様だ。
まだ“完成”ではない。
だが――世界が彼らを拒まなくなっている。
最後に、影が揺れる。
セルヴァンが姿を現す。
その存在圧は、もはや抑えられていない。
しかし、暴れもしていない。
“王が立つ”という事実だけが、そこにある。
レンは一歩前に出て、深く一礼した。
レン
「……セルヴァン。
三年間、ご指導ありがとうございました」
セルヴァン
「礼には及ばん」
一拍置いて。
セルヴァン
「だが――
よくぞ、ここまで“壊れずに”来た」
それは最大級の評価だった。
空が、一瞬だけ暗転する。
遠く。
影界の方向で、何かが“完成した”気配。
レンは空を見上げる。
「……来るな」
ミオが拳を握る。
「じゃあ……」
レンは、皆を見渡す。
「行こう」
短く、迷いのない一言。
「三年前より、
ずっと成長した俺たちで」
三年後。
彼らは強くなった。
だがそれ以上に――
折れない存在になった。
次回、
ついに動き出す影界王。
決戦の幕が、静かに上がる。




