第44話 覚悟を整える場所
力を得ることは、簡単だ。
だが――
力を持ったまま、人であり続けることは、何よりも難しい。
これは、決戦前夜の物語。
剣を振るう前に、心を定めるための時間だ。
1.静止した時間の中心で
蒼紋の丘地下深部。
加速空間の核となる領域。
そこは、時間の流れがほとんど停止したような場所だった。
風も音も、意味を失っている。
レンは一人、淡く光るコードの層を前に立っていた。
「……やっぱり、時間が足りないな」
呟きは、誰にも届かない。
だが、彼自身にははっきりと返ってくる。
創造主コード。
時間干渉、世界修正、存在定義。
今のレンには、それらを“制限なく使える”だけの力がある。
――だからこそ。
「怖い、か……」
逃げたくなるほどではない。
だが、無視できるほど軽くもない。
その感情を、レンは否定しなかった。
「でも……逃げる理由にはならない」
指先でコードをなぞる。
自己への負荷を無効化する処理は、すでに組み上がっている。
それでも、心までは誤魔化さない。
「俺は神様じゃない。
……ただの、運の悪いプログラマーだ」
だからこそ、決める。
「守る。
それだけは、絶対に変えない」
2.セルヴァンの“戦う場所”
レンは踵を返し、セルヴァンの前に立つ。
「セルヴァン、
あなたが本来の姿で戦える空間を、用意します」
セルヴァンは腕を組み、静かに頷いた。
「……ようやく、その段階か」
レンは両手を広げる。
時間操作と空間定義を同時に走らせる高度処理。
世界の一部を切り取り、
王格・存在圧・概念干渉の制限を解除する。
空間が、重く、深く、圧縮されていく。
ミオが小さく息を呑む。
「……なに、これ……空気が、違う……」
セルヴァンの背後に、かつて世界を支配した“王の気配”が立ち上がる。
セルヴァン
「この場なら……
決戦の地でも、我は全力で在れる」
レン
「はい。
世界を壊さず、あなたの力だけを解放します」
セルヴァンは、わずかに笑った。
「随分と、無茶なことを考える」
レンも苦笑する。
「今さらですよ」
一瞬の沈黙。
レン
「……どうか、全力で戦ってください。
俺たちと一緒に」
セルヴァン
「――当然だ」
3.仲間たちとの距離
空間の中央に、全員が集まる。
カイが腕を組み、レンを見る。
「兄ちゃん、顔に出てるぞ。不安」
「出てるか?」
レンは肩をすくめる。
ミオが一歩近づく。
「……無茶するつもりでしょ」
「まあ、多少はな」
「“多少”で済ませなさいよ」
セリスがカイの隣で静かに言う。
「でも……やるしかないんだよね」
レンは頷いた。
「だから、逃げないための時間を作る」
4.三年への宣言
レンは皆を見渡す。
「残り十日を、三年にする」
誰も驚かない。
すでに、覚悟は共有されていた。
「カイ。完全覚醒を“自分のもの”にしろ」
「任せろ。兄ちゃん」
「セリス、ミオ。
無理はしなくていい。でも――限界は超えて」
ミオは少し照れたように視線を逸らす。
「……言われなくても」
十二神獣たちが一斉に鳴く。
「セルヴァン」
レンは最後に、彼を見る。
「あなたが本気で戦えるなら、
俺たちは――必ず勝てます」
セルヴァン
「勝つのは、皆だ。
我は、その背を預かるだけよ」
5.踏み出す一歩
加速空間の“内側”への扉が開く。
時間が、ゆっくりと歪み始める。
レンが最初に一歩踏み出す。
その背中を、
ミオが、カイが、セリスが、神獣たちが追う。
セルヴァンは最後に、静かに歩き出した。
戦いの前に、
彼らは走らなかった。
ただ、立ち止まり、
覚悟を揃え、
そして歩き出した。
三年後、
その一歩が世界を変えると信じて。
力を誇る回ではない。
勝利を叫ぶ回でもない。
だが――
負けないための回だ。
次章、三年後。
覚悟は、形になる。
平日昼の更新です。次回もお楽しみに!




