表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/50

第40話 届かない背中に、手を伸ばして

加速空間での鍛錬が始まって数日。

限られた時間を何倍にも引き延ばしたこの場所で、

仲間たちはそれぞれの「役割」を掴みつつあった。

竜王の血を制御し始めたカイ。

蒼竜守護形態を安定させるセリス。

時間すらねじ伏せ始めたレン。

だが――

その中心にいながら、ミオだけが立ち止まっていた。

これは、

“戦えない”と悩んだ少女が、

戦場そのものを支配する存在へ至る物語。


加速空間の朝は、いつも静かだった。

空は薄く白み、風もない。

それなのに、ここでは魔力の脈動だけが、はっきりと感じ取れる。


ミオは少し離れた場所から、訓練を見つめていた。

カイが踏み出す一歩は、もう迷いがない。

蒼い刻印が肌に浮かび、青年の姿へと変じた瞬間、空気そのものが引き締まる。


「……すごい」


思わず、声が漏れた。

隣ではセリスが剣を構え、蒼竜の加護を纏いながら動きを確認している。

守るための力。支えるための覚悟。

そのすべてが、彼女の背中から伝わってきた。


そして――レン。


時間を刻む指先。

空間に浮かぶ無数のコードを見つめ、彼は淡々と世界を“最適化”していく。


(みんな……前に進んでる)


ミオは、ぎゅっと拳を握った。

治癒はできる。

補助魔法も使える。

でも、それは「できる」だけで――決定打にならない。

戦場を変えているのは、いつも他の誰かだった。


「……私だけ、置いていかれてる」


誰に聞かせるでもない呟きは、空間に溶けて消えた。




その夜。

加速空間の外縁、星もない空を見上げながら、ミオは一人立っていた。

背後から、足音。


「……無理してないか?」


レンだった。

ミオは振り返らない。


「してないよ。ただ……役に立ってないだけ」

「そんなこと――」

「あるよ!」


思わず、声が強くなる。


「レンは世界を書き換えて、カイは竜王で、セリスは守護竜で……

 私は、ただ後ろにいるだけ」


沈黙が落ちる。


レンは否定しようとして、言葉を失った。

その一瞬が、ミオには答えに見えた。


「……ごめん」


ミオは小さく言った。


「今日は、一人にして」


そう言って背を向けた背中は、少し震えていた。




翌日。

ミオはセルヴァンに呼び止められた。


「のう、ミオよ」


柔らかな声。


「お主は、戦場をどう思う?」

「……怖い場所、です」


即答だった。

「では、勝敗は何で決まる?」

「……強い人が……」


セルヴァンは首を振る。

「違う。崩れた心がある側が負ける」


ミオは息を呑んだ。


「前線は刃。

 後方は、世界そのものじゃ」


その言葉は、すぐには理解できなかった。

だが、心の奥に、静かに残った。




模擬戦訓練中。

予想外の魔力逆流が発生した。


《未》フェリオンの結界が、一瞬揺らぐ。

「――ッ!」


その隙を突き、影界模擬体が暴走する。

時間停止を解除した直後のレンへ、刃が迫った。


「レン!!」


考えるより早く、ミオは前に出ていた。

恐怖よりも先に浮かんだのは、


――この人が倒れるのは嫌だ、という想い。


その瞬間。


ミオの中で、何かが“噛み合った”。

魔力が爆発しない。

放たれもしない。


ただ、広がった。


空間全体に、やさしい圧が満ちる。

敵の動きが鈍る。

味方の呼吸が揃う。


《子》チトラが目を見開く。

「……魔力の偏りが、消えてる……感情ごと……」


《申》コングルが素早く解析を走らせる。

「魔力媒介ではありません。

 これは……意思共鳴型支配領域」


セルヴァンが、楽しそうに笑った。

「ほう……

 支援ではないな。戦場支配じゃ」


ミオの力は、

恐怖を鎮め、迷いを削ぎ、

味方の判断力と連携精度を引き上げる。

敵からは、高揚と憎悪だけを削り取る。


――感情そのものを制御する力。


レンは、はっきりと理解した。

「……ミオがいるだけで、戦場が安定する」


ミオは震える声で言った。

「……それって……」


「最強だよ。誰にも真似できない」


涙が、こぼれた。

「……遅いよ……そう言うの……」




訓練後。

二人は並んで座り、何もない空を見上げていた。


「私、前に立つ勇気はない」


ミオは正直に言った。

「でも……レンが倒れそうになるのは、もっと嫌」

「……それでいい」


レンは穏やかに答える。

「そばにいても、いい?」

「最初から、そのつもりだ」


そっと、手が重なる。

派手な光はない。

だが確かに――

戦場の“核”が、ここに生まれていた。


ミオの覚醒は、破壊でも進化でもありません。

それは「戦場を勝たせる力」。

彼女がいることで、

仲間は迷わず、本来の力を出せる。

それは、決戦において最も重要な力です。

平日昼の更新です。次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ