第39話 蒼竜の盾、そして禁忌の影
蒼紋の丘の地下深く。
レンの創造主コードによって構築された《加速空間》は、静かに稼働を始めていた。
外界では、決戦まで残された時間はわずか十日。
だがこの空間では、三年という“猶予”が与えられている。
――しかし、時間が増えたからといって、
すべてが穏やかに進むとは限らなかった。
最初に変化を迎えたのは、
誰よりも“戦わずに支えてきた”存在だった。
◆1:加速空間、初日の朝
蒼い空。
だが雲はなく、太陽もない。
魔力と時間だけが均等に配分された、人工的な空。
レンは空間全体を見渡し、静かに息を吐いた。
レン
「……安定してる。
時間圧縮率も想定どおりだ」
《申》コングルが肩の上で小さく鳴く。
コングル
「キー……(解析完了。
魔力循環、外界比三百六十五倍)」
ミオ
「三年……って、やっぱり実感湧かないね」
セルヴァン
「ふむ。
この空間なら、儂も“本気”に近い状態で動けそうじゃ」
和やかな空気――
だが、その中で一人だけ、表情を曇らせる者がいた。
セリスは、胸元に手を当てていた。
◆2:カイの異変
カイの呼吸が、少しずつ荒くなる。
カイ
「……兄ちゃん。
なんか、魔力が……集まりすぎてる」
彼の腕、首筋、背中に――
蒼い竜の刻印が、呪文のように浮かび上がる。
《辰》リュニスが即座に反応する。
リュニス
「……竜王因子が、空間に共鳴してる。
これは……濃度が高すぎる」
ミオ
「え、ちょっと……大丈夫なの?」
カイの膝が、がくりと落ちる。
カイ
「……っ、く……!」
次の瞬間――
竜王核の波動が、抑えきれず外へ溢れた。
空間が、震える。
◆3:姉として、前に出る
「カイ!」
誰よりも早く、セリスが前に出ていた。
レン
「セリス、待て!」
だが、彼女は止まらない。
セリス
「大丈夫……。
カイ、私がいるわ」
震える弟の前に立ち、
そっと、両腕を広げる。
その瞬間――
魔力の流れが、反転した。
爆発するはずだった竜王波動が、
“受け止められる側”へと変質する。
セリスの背後に、
蒼く、巨大な“何か”が立ち上がった。
それは竜。
だが、牙も爪も持たない。
ただ、翼だけを広げた――
守護の幻影。
セルヴァン
「……ほう。
これは“蒼竜守護形態”じゃな」
◆4:蒼竜守護形態
セリスの姿は、人のまま。
だが背後の幻影は、
カイの竜王波動をすべて受け止め、
砕き、分散し、空間へ溶かしていく。
攻撃しない。
押し返さない。
――ただ、守る。
カイ
「……姉ちゃん……」
セリス
「大丈夫。
暴れなくていい。……全部、受け止めるから」
カイの刻印が、少しずつ沈静化していく。
◆5:ほんの一瞬の“歪み”
だが。
セリスの背後で、
蒼竜の幻影が――一瞬だけ、黒く揺らいだ。
ほんの刹那。
誰も気づかないほどのノイズ。
セリス(心の声)
(……この力。
これ以上使えば……私は……)
一瞬、迷いがよぎる。
だが、彼女は微笑んだ。
セリス
「……考えるのは、あとでいい」
その瞬間、蒼竜の影は再び澄み切った蒼へ戻る。
◆6:レンの理解
レンは、静かに解析結果を確認していた。
レン
「……なるほどな」
ミオ
「レン……?」
レン
「セリスは“竜王”にならない。
……いや、最初から選んでないんだ」
セルヴァン
「守る者は、剣にならぬ。
盾となる」
レン
「……最初に変わったのが、
セリスでよかった」
その言葉に、セリスは一瞬だけ目を見開き、
そして小さく笑った。
◆7:姉と弟
カイは、ゆっくりと立ち上がる。
カイ
「……姉ちゃん。
俺、ちゃんと制御できるようになる」
セリス
「ええ。
だから――その時までは、私がここにいる」
カイ
「……ありがと」
蒼竜の幻影が、静かに消える。
加速空間初日。
最初の覚醒は、“破壊”ではなく“守護”。
だがその奥で、
確かに――禁忌の影が、息を潜めていた。
第39話は、「誰が強くなるか」ではなく、
「誰が何になるか」を描いた回です。
セリスは竜にならなかった。
けれど、竜王を制御し、守れる存在として覚醒した。
その力は優しく、そして危うい。
一歩踏み越えれば、彼女自身が“人でなくなる”可能性を秘めています。
三年分の時間は、まだ始まったばかり。
次に変わるのは――誰か。
ここから先は、
覚醒と選択の連続です。
平日昼の更新です。次回もお楽しみに!




