第38話 加速する世界、選ばれた十日
決戦は、すぐそこまで迫っていた。
影界王ゼヴァリオン。
世界を侵食する存在との最終局面を前に、レンの胸に渦巻くのは焦燥だった。
強くなりたい。
守りたい。
だが――時間が、足りない。
そんな夜。
蒼紋の丘に、静かすぎるほどの闇が降りる中、
レンの意識は“内側”へと引き込まれていく。
そこに現れたのは――
創造者と、姉ユナだった。
◆1 眠れぬ夜、焦りの正体
蒼紋の丘。
夜風が草原を撫で、拠点は静まり返っている。
仲間たちは眠っていた。
ミオも、カイも、セリスも、十二神獣たちも。
――だが、レンだけが起きていた。
焚き火の残り火を見つめながら、レンは拳を握る。
(十日……いや、もっと短いかもしれない)
十二神獣は成長途中。
カイの覚醒は始まったばかりで、まだ不安定。
ミオとセリスも、確かな“壁”を越えきれていない。
セルヴァンですら、制約を抱えたままだ。
レン
「……時間が、足りない」
その呟きが、闇に溶けるより先に――
世界が、静止した。
音が消え、風が止み、焚き火の火花が宙に留まる。
次の瞬間、レンの意識は“深く”引きずり込まれた。
◆2 創造者と、姉ユナ
白と蒼が溶け合う空間。
そこは創造主コードの内層――だが、以前よりも“近い”。
レン
「……ここは……」
その前に、二つの存在が現れる。
一つは、輪郭の定まらない“創造者”。
もう一つは――
ユナ
「久しぶりね、レン」
レン
「……姉さん」
現世で別れたはずの姉。
天才プログラマーであり、レンがこの道を選ぶきっかけとなった存在。
ユナは、少し困ったように微笑む。
ユナ
「やっぱり眠れなかったみたいね」
レン
「……時間がない。
それだけは、どうしようもなくて」
創造者が、静かに告げる。
創造者
『焦燥は正しい。
だが解決策は――すでに君の中にある』
◆3 “時間を作る”という選択
ユナが一歩前に出る。
ユナ
「レン。
あなたの時間操作は、もう“対象操作”の段階じゃない」
レン
「……どういう意味だ?」
ユナ
「時間を早める、戻す、止める――
それは“使う”能力」
彼女は、レンの胸にそっと手を当てる。
ユナ
「あなたはもう、時間の流れそのものを設計できる」
創造者
『閉鎖空間を生成し、
外界とは異なる時間流速を与えることが可能だ』
レンの瞳が見開かれる。
レン
「……時間加速空間……?」
ユナ
「ええ。
外の世界で残る時間は、せいぜい十日前後」
彼女は、はっきりと告げた。
ユナ
「でもその空間なら――
三年分の時間を得られる」
◆4 得られる未来
創造者が淡々と続ける。
創造者
『その空間内で可能なことは多い』
・十二神獣の完成体への進化
・カイの完全覚醒の定着
・ミオとセリスの覚醒因子の解放
・セルヴァンが“本来の姿”で戦える位相固定空間の構築
セルヴァンの制約すら、
“事前に整えた空間”なら問題ない。
レンは、息を呑んだ。
レン
「……そんなことまで……」
ユナ
「できる。
あなたはもう“世界を守る側”じゃない」
彼女は、優しく、しかし確かに言った。
ユナ
「世界を作り直せる側よ、レン」
◆5 選択の重み
だが、ユナの表情が少し曇る。
ユナ
「ただし……これは逃げにもなる」
レン
「……」
ユナ
「外の時間は進まない。
でも、覚悟だけは――進む」
創造者
『仲間に選ばせろ。
それが創造主としての責任だ』
レンは、深く息を吸った。
レン
「……わかった」
◆6 仲間たちへ
夜明け。
レンは全員を集めた。
ミオ、カイ、セリス、セルヴァン。
そして、十二神獣たち。
レンは、すべてを話した。
時間加速空間。
三年分の鍛錬。
そして――決戦。
短い沈黙。
最初に口を開いたのは、ミオだった。
ミオ
「……当たり前でしょ」
レン
「ミオ……?」
ミオ
「行くに決まってるじゃない。
ここまで来て、止まるわけないでしょ」
カイ
「兄ちゃんが言うなら、俺もやる。
……強くなりたい」
セリス
「カイを守るためなら、いくらでも」
セルヴァン
「ふむ……面白い。
久しく“全力”を出す場もなかったからの」
十二神獣たちも、一斉に鳴き声を上げる。
《辰》リュニス
「レン、行こう。最後まで」
◆7 蒼紋の丘に開く“時間の扉”
レンは丘の中央に立ち、手を掲げる。
レン
「――時間加速領域、生成」
蒼い紋章が大地に浮かび上がり、空間が歪む。
風が止み、音が消え、
まるで世界が一息ついたように静まり返る。
レン
「行こう。
十日で終わる戦いを――
三年分の覚悟で迎えるために」
◆8 そして、踏み出す
一人、また一人と、
蒼い光の中へ消えていく仲間たち。
最後に、レン。
彼は一度だけ振り返り、
蒼紋の丘を見渡した。
レン(心の声)
(……必ず、全員で帰る)
そして――踏み出す。
その瞬間、
外の世界の時間は、完全に止まった。
決戦前、最大の選択。
それは力ではなく、“時間”を作る決断でした。
ここから始まるのは修行ではありません。
覚悟と進化の章です。
次話より、時間加速空間内部での鍛錬、覚醒、そして変化が描かれていきます。
すべては――
影界王ゼヴァリオンとの、最終決戦のために。
平日昼の更新です。次回もお楽しみに!




