第34話 凝縮覚醒――人の姿の竜王と、負荷を捨てた創造主
竜王の力は、巨大な姿を取らなかった。
それは世界を支配するためではなく、
世界の中で“生き続ける”ために選ばれた形。
そして創造主は、
自らを縛っていた「代償」という概念を、
コードとして切り捨て始める。
人のまま覚醒する竜王と、
人を超え始めた創造主。
その瞬間、戦場は――
世界の管理領域へと変貌する。
平日昼の更新です。それでは本編をどうぞ!
影界の裂け目は閉じた。
だが、安心にはほど遠い。
逃げ場を失った影界呪流は、戦場一帯に凝縮し、
空気そのものを黒く、重く染め上げていた。
足元の地面が、じわりと歪む。
まるで世界が、自らの重さに耐えかねているかのように。
セルヴァンが杖を鳴らす。
「数は減ったが……質が上がりおったな。
この密度……影界の将級が混じっとる」
ミオは唾を飲み込んだ。
「冗談でしょ……
息をするだけで、体が押し潰されそう……」
その中心で、カイは膝をついていた。
胸元の蒼核が激しく明滅し、
蒼い光が皮膚の内側から浮き上がる。
「……っ……」
歯を食いしばるカイの肩を、
セリスが強く抱き寄せる。
「カイ! しっかりして!
ここにいる! ひとりじゃない!」
「……姉ちゃん……」
その声は、今にも消えそうだった。
だが次の瞬間――
蒼核の光が、爆発するように広がった。
一瞬、巨大な竜の影が空に映る。
誰もが“竜化”を覚悟した、その刹那。
影は、外へは広がらなかった。
逆に――
内側へ、圧縮されていく。
光が収束する。
カイの身体が宙に浮かび、
輪郭が書き換えられるように変化していく。
長く伸びた四肢。
引き締まった体躯。
そして全身に、呪文のような蒼い刻印が浮かび上がった。
それは鱗ではない。
紋章でもない。
世界法則そのものを刻んだ文字だった。
《辰》リュニスが、震える声で呟く。
「……これが……
原初竜王ソルヴァリスと同じ……
“凝縮覚醒”……!」
カイは、ゆっくりと地面に降り立った。
人の姿のまま。
だが、明らかに“別の次元”に立っている。
セリスが、恐る恐る名前を呼ぶ。
「……カイ……?」
カイは振り返り、少し照れたように笑った。
「大丈夫だよ、姉ちゃん。
……ちゃんと、俺だ」
その直後――
影喰の一体が、雄叫びを上げて突進してきた。
カイは一歩踏み出す。
拳を、ただ前に突き出した。
衝突音はなかった。
代わりに、影喰の身体が内側から潰れた。
圧縮。
存在そのものが、耐えきれず崩壊する。
ミオの声が、かすれる。
「……力の“量”じゃない……
情報密度……」
セルヴァンは、目を細めた。
「知性と力を同時に扱う覚醒……
やはり、竜王は“獣”ではない」
その時、レンが前に出た。
額に汗が浮かぶが、目は冴えきっている。
「……ここからは、俺の番だ」
《申》コングルが即座に反応する。
「創造主レン。
時間干渉および多重処理、
自己負荷は致死領域です」
レンは一度、深呼吸した。
「分かってる」
そして、静かに告げる。
「――処理する。
自己負荷、コードで無効化」
世界が、一瞬だけ“引っかかった”。
空気が、音を立てて軋む。
ミオが目を見開く。
「……今……
“無理”を……消した……?」
影喰の動きが、止まった。
一体は急激に老化し、
数秒で灰と化す。
別の個体は、時間が逆行し、
影界に生まれる前の“空白”へと還元された。
セルヴァンが低く笑う。
「戦闘ではないな。
完全に……管理者の処理じゃ」
その時、レンの意識に、ユナの声が割り込む。
『レン……
それ以上は、本当に人をやめるわ』
レンは、答えなかった。
ただ、カイを見る。
カイが小さく頷いた。
「兄ちゃん。
……“止めて”くれ」
レンは笑った。
「任せろ」
時間を固定。
カイが踏み込み、確実に一撃を叩き込む。
二人の連携は、完璧だった。
戦場が、静まる。
ミオが、ぽつりと呟いた。
「ねえ、レン……
あんたたち……
本当に“偶然”ここに来たの?」
レンは、少しだけ考えた。
「……さあな」
それから、空を見上げる。
「でも最近、思うんだ。
俺も、姉さんも……
呼ばれた気がするって」
セルヴァンが、意味深に笑った。
「ふむ……
選ばれた移住者……
かもしれんな」
遠くで、影界が軋む音がした。
まだ、終わってはいない。
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