第33話 原初竜王の血が哭く ――時間断層
影界からあふれ出す呪いがカイの竜核を侵し、覚醒の炎を揺らす。
その傍らで姉セリスは、竜族に伝わる古い鎮静術で暴走を押しとどめようとする。
一方、レンは十二神獣のサポートを受けながら戦線を指揮していたが、
その視界に“時間の揺らぎ”が走る。
そして――遠く離れた深層世界で彼を導く姉ユナの存在が、
“なぜこの世界にいるのか”という小さな疑問を残していく。
それでは本編をどうぞ!平日昼の更新です。
●0:原初書架からの帰還
原初書架を満たした光は、やがて“ひび割れた世界そのもの”へと拡散していった。
深層世界。
無数のコードが崩れ落ち、空間が断層のようにずれていく。
ユナ
「レン……! 意識を保って!
今、世界修正と同時に“座標固定”が外れかけてる!」
レン
「……大丈夫……
閉じるのは境界だけだ……
俺自身は……“戻る”……!」
ゼヴァリオンの影声が、裂け目の奥から滲む。
ゼヴァリオン
『創造主……
世界を繕っても……
人の“器”は耐えきれぬ……』
次の瞬間──
光が爆ぜ、深層世界そのものが“強制切断”された。
現実世界。
戦場を覆っていた影界の裂け目が、
一瞬だけ“縮む”。
セルヴァン
「……来るぞ。
境界が閉じる直前、反動が出る」
ミオ
「反動……って、嫌な予感しかしないんだけど!」
その直感通り、
裂け目の内側から“押し返されるように”影喰の増援が噴き出した。
影界の歪みが、
レン不在の数秒間に戦場へ圧し寄せる。
セリス
「レン……まだ戻らないの……!?」
カイは胸の蒼核を押さえ、歯を食いしばる。
カイ
「……来る。
影が……さっきより、濃い……」
十二神獣が即座に反応する。
《酉》シェルファ
『敵性反応、急増!』
《戌》バルゴ
「すごく嫌なにおい!
さっきより……“深い”!」
《未》フェリオンの毛並みが逆立ち、
防護本能が限界まで高まる。
そのとき──
空間が一瞬、“巻き戻るように歪んだ”。
まるで時間が息を吸い直したかのように。
次の瞬間、
レンが戦場の中心に“帰還”する。
レン
「……戻った。
境界は……完全じゃないけど……
――今は、戦線を維持する!」
その声を合図に、影界の圧力が一気に増した。
●1:戦場の立て直し
影喰の増援が戦場を黒く染める中、レンは即座に指示を飛ばす。
レン
「《未》フェリオン、前衛の結界を三重に!
《丑》モーロス、周囲の重力を安定させて!」
もこもこのフェリオンから淡い膜が広がり、
モーロスは一歩踏み出すだけで地面の揺れを“固定”した。
ミオ
「影喰の波、減らないわね……!
セルヴァンさん、この流れ、読める?」
セルヴァン
「ふむ……敵が“本気”ではないのう。
ただの捨て駒じゃ。問題は、
――“この後に続くもの”よ」
ミオ
「この後……?」
セルヴァンは笑う代わりに、影のゆらぎを指差すだけだった。
●2:カイの異変と、寄り添うセリス
突然、カイが胸を押さえてしゃがみ込む。
カイ
「ぐ……っ……気持ち悪……」
セリス
「カイ! 大丈夫、私がいるから……!」
セリスはカイの背に手を添え、竜族の呼吸術で魔力の波を整え始める。
《卯》リリアも治癒光を注ぐが、蒼核の炎は収まらない。
リリア
「だめ……これは傷じゃない……!」
セルヴァンが遠くから目を細める。
セルヴァン
「竜王の血が、影界王の呪いと“反応”しておるな……。
今のカイは、蓋の壊れた壺みたいなものじゃ」
ミオ
「例えが悪いわよ!」
●3:十二神獣が戦線を維持
《酉》シェルファが空から警報を飛ばす。
シェルファ
『敵、三方向から! 深度レベル上昇!』
《戌》バルゴが毛を逆立て、レンに吠える。
バルゴ
「レン! とても悪いにおいする! すごく近い!」
《亥》ドルンが怒って地面を踏み鳴らすと、
衝撃で影喰が後退。
《午》ガイオスは味方の速度を底上げし、
《寅》ラガンはレンの周囲で高速巡回。
レン
「よし、このまま押し返す――!」
だが次の瞬間、レンの視界に“時間のノイズ”が走った。
●4:レンの視界に走る“揺らぎ”
影喰が飛び掛かる。
普通なら迎撃するタイミングはギリギリ――のはずだった。
だがレンには“ゆっくりと”見えた。
レン
「……え? なんだ今の。動きが――遅い?」
《申》コングルが肩で急速演算を開始。
コングル
「レン、君の脳波……“時系列が伸びてる”。
時流のズレが起きてるよ!」
ミオ
「え、ちょっと待って、それどういう――」
セルヴァン
「ほほう。とうとう“第二段階”が顔を覗かせおったか」
レン
「第二段階……?」
セルヴァン
「“時間”じゃよ。
おぬし、世界の主軸に触れ始めておる」
ミオ
「は!? 時間!?
ちょっと待って、そんなチート本当にアリ!?」
セルヴァン
「まあ“いずれ”じゃがな。今は片足を突っ込んだだけよ」
レンは混乱しながらも再び戦線へ意識を戻す。
●5:ユナの“違和感”が一瞬だけ
突如、レンの脳裏に声が響く。
ユナ(幻聴)
『……レン、そこはもう……“始まっている”から……』
レン
「ユナ……?」
ミオ
「レン!? どうしたの?」
レン
「いや……なんでも……ない。ただ――」
セリスが遠くから、心配そうにレンを見ていた。
レン
(姉さん……なぜ深層世界に“いた”んだ?
……そもそも、どうやってあそこへ?)
疑問は、答えをくれないまま消えた。
その“わずかな違和感”だけを残して。
●6:影滅十二将(第十位)の襲来
《戌》バルゴが吠えた。
バルゴ
「来る!! すごく悪い!!」
闇を裂いて、影滅十二将の第十位が姿を現す。
ミオ
「うわ、絶対強いヤツじゃん!」
セルヴァン
「まあまあ、まだ“雑魚の端っこ”よ」
ミオ
「嘘つけ!!」
十二神獣が一斉に構えた。
●7:乱戦開始
影滅十二将の影鎌が地面を裂く。
ミオ
「うわっ、攻撃全部影!? 物理も魔法も効かなそう!」
レン
「いや、《子》チトラ! 魔力の偏りを直して!」
チトラの光と闇の均衡化が発動し、
影の濃度が半減する。
セルヴァン
「ほう、よい働きよ。バランサーとして一級じゃ」
ミオ
「褒めてる場合じゃないでしょ!」
●8:レン、無意識の“時間遅延”
影鎌がバルゴへ迫る瞬間――
レンの内部で魔法陣が回転する。
レン
「止まれ……!」
世界が雑音に満たされ、
局所的に0.5秒だけ時間が遅延した。
バルゴ
「わっ、遅くなった……?」
ミオ
「レン!? 今のあんたでしょ!」
セルヴァン
「まあ、未熟ながら立派じゃ。
時間とは、創造主のなかでも“上位権限”よ」
レン
「……俺、覚えていないのに……」
●9:カイ、人型のまま覚醒段階へ
影滅十二将が影を分裂して攻撃をしかけた。
だが――カイにはすべてが“ほぼ静止”に見えていた。
カイ
「……あれ? さっきより……もっと遅い」
セリス
「カイ、それがあなたの血よ。
ソルヴァリスが辿り着いた境地――
“人型のまま、竜王の目を持つ姿”……!」
リュニス
「カイ……君、本当にそこへ行くつもりなのか……?」
●10:影滅十二将の撃破
分裂影が一斉に襲いかかるが、
レンの局所遅延とカイの覚醒速度が“同期”する。
カイが踏み込んだだけで――
影の位相が追いつけない。
次の瞬間、影滅十二将はまとめて砕け散った。
ミオ
「うそ……強すぎ……!」
セルヴァン
「まあ“竜王の血”じゃし、それくらい当然よのう」
●11:ユナの“存在の謎”
レンの胸に再び魔法陣が浮かぶ。
《創造主コード:第二段階
Chrono-System(時流制御)
※現在:知覚拡張/局所遅延のみ》
その瞬間、ユナの声が再び響く。
ユナ
『レン……気をつけて……
その力は、まだ“この世界”が……
あなたを受け入れていない……』
レン
(――この世界が?
まるで、姉さんは“外側”から来たみたいな……)
疑問は深まり、前兆だけを残して消えた。
●12:締め
ミオ
「レン、あんた……本当に何者なの?」
レン
「……自分でも、わからなくなってきたよ」
セルヴァンは微笑む。
セルヴァン
「答えは“いずれ”わかる。
おぬしも、あの姉も――
ただの人間にしては異質すぎるでな」
影界の裂け目はなおも拡がり、
カイの覚醒はさらに熱を帯びていく。
──第34話へ続く。
今回はカイの人型覚醒の前段階、
そしてレンの第二段階=時間系能力の発露という
二つの“進化の兆し”を描きました。
次回、カイの覚醒は次のステップへ。
そしてレンはついに――
“時間系の本質”へ踏み込むことになります。




