第3話 動かぬ魔導機と、再起動のコード
第3話です。
今回はレンとミオが協力して、動かなくなった魔導機を再起動します。
ふたりの軽妙な掛け合いと、魔法コードの応用をご堪能ください。
午前の光が差し込む工房の中で、レンは立ち尽くしていた。
ミオが腰に手を当て、目の前の巨大な魔導機を睨みつけている。
円盤状の装置が何層ものルーンを刻みながら沈黙していた。
「また動かないの?」
「また、じゃないわよ。これ、町の水供給を制御してる《エーテル・コンダクタ》なの。
止まると水圧が下がって井戸まで影響が出るのよ」
ミオの口調は不機嫌そのもの。
だがレンは気にせず、腰をかがめて装置の内部を覗き込む。
「なるほど。。これは魔法というより、プログラムに近いな」
「はあ? またその“ぷろぐらむ”って言葉? 意味が分かんないのよ」
「論理の設計図みたいなもんだ。順番通りに命令が動けば、魔法も正しく動作する」
レンは小声で呟きながら、指先でルーンの刻印をなぞった。
そこには複雑に絡み合った魔力回路が刻まれている。。が、中央の式に明らかな欠陥があった。
「ここ、mana_routeの再帰式が終わってないな」
「え、どこが?」
「ほら、ここのカッコ閉じ忘れ」
「カッコってなによ!」
ミオがむっとしてレンを睨む。
レンは肩をすくめた。
「ツンツンしてると余計にわかりづらいよ、先生」
「だ、誰が先生よ! あ・た・し・は職人!」
顔を赤らめながら叫ぶミオに、レンはくすっと笑う。
その表情が悔しかったのか、ミオは頬を膨らませた。
装置の周囲に浮かぶ魔法式を、レンは杖で書き換えた。
if (manaFlow == unstable) {
reroute(manaChannel);
log("stabilized");
}
淡い光がルーンの間を走る。
しばらく静寂が続き、低い唸り音とともに、円盤がゆっくりと回転を始めた。
ミオが目を丸くする。
「動いた。ほんとに動いたじゃない!」
「そりゃ、コードが通れば動くさ。魔導機もPCも、同じ理屈だよ」
「ピ、シー?」
「気にするな、こっちの世界の話だ」
レンが手を払うと、装置の魔力流が安定し、青白い光が町の水路へ流れ込んでいく。
遠くから子どもの歓声が聞こえた。
井戸から再び、水が湧き出したのだ。
ミオは呆然とその様子を見ていたが、やがて唇を尖らせた。
「ずるい。あたし、これ三週間も悩んでたのに」
「三週間の努力を五分で直すのが、俺の仕事でね」
「むかつく!」
肘で小突かれ、レンは笑った。
だがその直後、装置が再び不穏な音を立てる。
魔力出力が急上昇し、光が暴走を始めた。
「っ、制御がループしてる!」
「無限ループか。。お約束だな」
「いま冷静に語ってる場合じゃないでしょ!」
ミオが必死に魔力遮断装置を叩く中、レンは落ち着いた声で呟く。
for (mana in flow) {
if (overflow) break;
}
コードが光となって空中に浮かび、装置全体を包み込む。
眩い閃光のあと、音が消えた。
円盤は静かに、正しいリズムで回転を続ける。
ミオが肩で息をしながら、レンを見上げる。
「ほんと、変な人。普通、あんな暴走をあっさり止められないのよ」
「慣れてるんだ。前の世界で、システムの火消しばかりしてたからな」
「何それ、やっぱりあんたって社畜だったのね」
「言い方」
ミオがぷいっと顔を背ける。
その頬が、少し赤いのをレンは見逃さなかった。
数時間後。町の水路が再び輝きを取り戻し、人々が感謝を叫んでいた。
子どもたちは噴水で遊び、老人は「助かった」と手を合わせる。
ミオは照れくさそうに腕を組みながら言う。
「ま、別にあんたのおかげなんて思ってないけど。まあ、ちょっとは感謝してやってもいいわ」
「はいはい、ツンモード発動だな」
「なにそれ!?」
レンは笑いながら、回復した魔導機を見上げる。
その中央のルーンが、一瞬だけ光を放った。
そして、古代語の断片が浮かび上がる。
《世界の基盤に触れた者、再起動の権限を得る》
レンの目がわずかに見開かれる。
「カーネル」の言葉を、聞き間違うはずがない。
「エミグレ文書の断片だわ」
ミオが囁く。
レンは静かに頷いた。
「なるほど。どうやら、ただの水道修理じゃなかったみたいだな」
読んでいただきありがとうございます。
今回は、町のインフラを担う魔導機の修理を通じて、
レンとミオの関係が少しだけ近づきました。
そして、エミグレ文書の断片が初めて姿を現します。
次回二人はその記録を追い、森の遺跡へ向かうことになります。




