第29話 竜血の鼓動、影守の刃
敵本隊との決戦が始まった戦場に、セルヴァンが密かに送り込んだ“影守”が現れる。
十二神獣は言語能力が高まり、レンたちの戦いは次元が一段上がりつつあった。
だがその裏で──カイの中に眠る“原初竜王ソルヴァリスの血”が、静かに目覚め始めていた。
戦場の空気が、ねじれるように揺らいだ。
次の瞬間──“影”が地面に落ちる気配とともに、敵の影猟兵が一体、音もなく崩れた。
何が起きたのか理解した者は、一人もいなかった。
ただ一つ。
黒銀の“影武者”が、風のように姿を現した。
『──状況、把握した』
低くよく通る声。
それだけで、味方も敵も背筋が冷える。
レンが目を見開いた。
「お前が……セルヴァンの“影守”か」
『うむ。主より“そなたらを導き助勢せよ”との命だ』
静かで、隙のない声。
戦場の中心にいてなお、微塵も揺らぎを感じさせない。
ギルダ(ハーフウルフ)が思わず呻く。
「……なんだこの気配。俺たちとは……格が違いすぎるぞ」
フロル(木精族)は震える声で呟いた。
「精霊の気配……でも、もっと……深い……底の見えない影……」
その間にも、影守は軽く指を振った。
ただ、それだけ。
すると、三十メートル先で敵影兵が二体、同時に崩れ落ちた。
ベリィ(夜猫族)
「な、何をしたの……?」
影守
『何も難しいことはしていない。“死角を整理した”だけだ』
意味すらわからない。
ただ、圧倒的で“あまりにも自然な強者の所作”だった。
◆十二神獣、いよいよ“仲間としての声”を持つ
《午》ガイオスが、レンの肩の上で蹄を軽く鳴らした。
『レン、前方に四……いや五。土の揺れが変わった』
レン
「おお、ガイオス、普通に喋ってる!」
《酉》シェルファが翼を広げる。
『レン様、偵察完了。右後方から敵が回り込みます!
わたし、もう三十羽に分裂できますよ!』
レン
「スキルが進化してる!? どんどん強くなってるな……!」
《未》フェリオンがふわふわ揺れながら言う。
『レン……落ち着いて……魔力、ざわついてる……』
心が落ち着く感覚が、レンの身体を包んだ。
十二神獣が“本格的な戦術ユニット”として機能しはじめている。
◆影界王直属《影猟兵》との遭遇
その時だった。
空気が沈む。
冷たい闇の刃が、カイの首めがけて走った。
カイ
「っ──!?」
影守の手が、影刃を“つまむように”止めた。
影猟兵
「小僧……その身体……その核……
まさか“竜王の心核”を宿しているとはな」
カイ
「え……なんだよ、その、竜王って……?」
敵影猟兵の瞳が深く揺らいだ。
「影界王へ届けねば……
原初竜王ソルヴァリスの末裔が、この陣にいると……」
レン
「ちょっと待て、今なんて!?」
ミオ
「ソルヴァリスって……あの世界最古の竜王でしょ!?
カイが、そんな……?」
カイは答えようとしたが──胸を抑えて崩れた。
「う、あ……熱い……! なんだこれっ……!」
◆カイ、覚醒の“片鱗”
周囲の魔力が、カイの体へ吸い込まれていく。
影猟兵
「竜因子が……目覚めかけている!!」
カイの瞳が金色に煌めき、
足元に“竜の影”が浮かんだ。
「うぅ……来る……っ!」
影猟兵の急襲が放たれる。
だが──
カイは“見えた”。
高速斬撃の軌道を、まるで最初から知っていたかのように。
剣が、竜の咆哮の残響のようなエフェクトを纏う。
影猟兵
「見切った……? 馬鹿な、この速度を……!」
影守は腕を組み、興味深げに見つめていた。
『……なるほど。この程度の覚醒でも“竜王の血”は侮れぬな』
◆影猟兵の撤退──重大伏線
影猟兵は、カイの覚醒の片鱗を確認すると即座に後退。
「……情報は得た。影界王が必ず迎えに来る……
“竜王の器”よ……!」
そして影の霧となって消滅。
◆影守、意味深な宣告
カイは肩で息をした。
「はぁ……はぁ……俺……何なんだ……?」
影守がゆっくりと歩み寄る。
『カイ。その“竜血”が完全に目覚めた時──
おぬしは“竜王”として生きるか、
あるいは“影王”の道を歩むか、選ぶことになる』
カイ
「影王……? どういう意味だよ……?」
影守
『主は、すでに気づいておる』
強大な運命の分岐を告げるその声に、
カイはただ戸惑うしかなかった。
◆セルヴァン帰還
戦場の風が一瞬だけ止んだ。
次の瞬間、セルヴァンが影から立ち現れた。
「ふむ……影守よ、よくやった。
──そして、カイ。
まさか、ソルヴァリスの血がこれほど濃いとはな」
カイ
「セルヴァンさん……俺は……どうすれば……」
セルヴァンは薄く笑った。
「それを知りたくば、いずれ“影界の扉”を開く時が来よう。
おぬしの運命は、まだ始まったばかりよ」
戦いの余韻の中、
遠くで影界の蠢動が響いた気がした。
――影王の手が、確実に迫っている。
影守の圧倒的戦闘力。
十二神獣の進化。
そしてカイの“竜血覚醒”の始まり。
全てが影界編へ向けて動き出す回でした。
次話では、影界王が動き出す前夜として
レンたちの陣営に新たな決意が芽生え始めます。
どうぞ続きもお楽しみに。
平日昼の更新予定です!




