第18話 気づいている者―虚ろな本拠地と迫る十万の影
黒紋の影を追い、本拠地へ向かったレンたち。
しかし、辿り着いた敵の拠点はあまりに静かで、あまりに“軽い”。
その違和感は、レンだけが気づいていた。
敵の真の狙いは―すでに“エルド”へ向けて動き出している。
今回は、真の絶望を逆手に取る“静かな宣戦布告回”となります。
北方の山岳地帯。空気は薄く、足を踏み出すたびに細かな砂が舞い上がる。
黒紋の残留コードを辿ったレンたちは、巨大な亀裂の底にひっそりと広がる洞窟群へ辿り着いていた。
「……ここが、黒紋の本拠地……のはずなんだけどな」
ミオが眉をひそめる。
セリスとカイも周囲を見回し、首を傾げていた。
「おかしいです。竜族の気配も、敵の気配も薄すぎます。
ここが“中心”とは思えません……」
カイも槍を握りしめながら疑問を口にする。
「ねえ兄ちゃん。これ、罠じゃないの?」
――そう。
この違和感は最初から“あからさま”だった。
(敵の残留コード……薄すぎる。
それに、ここへ誘導されているような“誘いタグ”が散りばめられてるな)
まるで、レンたちに“ここが本拠地だよ”と信じ込ませるかのような稚拙な誘導。
本物の策士がやることではない。
これは“時間稼ぎ”以外の何物でもなかった。
洞窟の奥へと進むと、かすかに魔力の揺らぎが生じた。
「レン、何か……いる!」
ミオの声と同時に、洞窟の闇の奥から影がふらりと歩み出た。
痩せた身体。黒紋の外套。
しかしその魔力は弱々しく、兵の一人にも満たない。
「……誰だ。お前たち……」
声も虚ろ。
明らかに時間稼ぎ要員だ。
ミオが杖を向ける。
「弱っ……。これ、本当に司令塔なの?」
セリスも眉を寄せる。
「……この者から“守りたいもの”の意志が感じられません。操られているような……」
レンは視覚化を起動した。
すると――残留コードの奥に、はっきりとした“本命”が浮かび上がる。
《本隊:十万規模
目的:エルド侵攻 → 周辺地域制圧 → 王都包囲
レンたちを絶望させ、弱ったところを黒竜の洞窟へ誘導
※この拠点は偽装/時間稼ぎ》
(……やっぱりな)
レンは息をゆっくり吐いた。
「レン、なにか分かったの?」
ミオが問う。
セリスも不安げに唇を噛む。
カイは手を震わせていた。
レンは―あえて“簡単な部分”だけを選んで言う。
「……敵は分散してる。本隊はここじゃない。
どこかへ動いたみたいだ」
セリスの表情が強張る。
「それって……まさか……」
「エルドに戻らないと!」
ミオが焦った声をあげる。
だが、レンは静かに言った。
「心配いらない」
三人が同時にレンを見た。
「……どうして、そんな落ち着いて?」
レンはそれ以上何も言わず、洞窟の壁に手を当てる。
そこに滲んだコードから、セルヴァンの“署名”が見えた。
《分身体:稼働中
本体:エルドにて待機》
そう、“彼”は最初からエルドにいた。
レンは口元にわずかな笑みを浮かべた。
「セルヴァンは、ここにいない」
「…………え?」
ミオがぽかんと口を開ける。
「じゃあ、一緒に歩いてたあれは……」
「分身体だ。
あいつは本隊がエルドに向かったと知った瞬間、戻ってる。
俺がそう仕込んだからな」
カイは目を丸くし、セリスは息を呑んだ。
「レン……あなた、最初から……?」
レンはうなずく。
「黒紋の誘導が雑すぎて逆に“分かりやすかった”だけだよ」
虚ろな敵兵ががくりと膝をつく。
糸の切れた操り人形のように倒れていった。
レンたちは洞窟の外へ出た。
薄曇りの空から、わずかに光が差し込んでくる。
ミオがしがみつくようにしてレンを見つめる。
「レン……エルド、大丈夫なの……?」
レンは深く息を吸い、振り向かずに言った。
「――ああ。むしろ問題があるとしたら、敵の方だ」
「どういう意味よ、それ……」
ミオの問いに答えず、レンは歩き出す。
「俺たちはこのまま行くぞ。最深部に進む。
……黒紋が誰を相手にしているのか、すぐに分かる」
その言葉に、三人は息を呑み、足を早めた。
やがて訪れる“地鳴りのような光景”を予感しながら。
第18話は、静かに迫る“本当の脅威”と、レンの先読み能力が際立つ回になりました。
敵十万の本隊はすでにエルドへ侵攻開始――しかし、セルヴァンは分身体。
次回もお楽しみに!




