第17話 創造者の囁き――開発者権限の目覚め
黒紋の本隊の影が迫る中、セルヴァンを加えた一行は黒竜の本拠地を目指す。
その道中でレンは、残された黒紋の“残留コード”から、世界の基盤に関わる異常を読み取る。
そして――レンだけに届く“声”。
それは、はるか昔、この世界を創った“創造者”の囁きだった。
平日お昼更新予定です。
町に戻り装備を整え、いざ黒竜の本拠地へ向けて北上を続ける一行。
夜の冷気が、砂を含んだ風となって肌を刺す。
「黒紋の奴ら……足跡が増えとるな」
セルヴァンが老人の姿で杖を突きながら言った。
彼の声には落ち着きがあるが、周囲を覆う圧のような魔力は微かに揺れている。
セリスは弟を庇うように寄り添い、ミオはレンのすぐ横で周囲を警戒していた。
レンは立ち止まり、周囲に漂う“残留コード”を視覚化した。
(くる……またくる)
深い闇の中、コード文字が淡く光を帯びる。
だが―今回は、ただの黒紋の残滓ではない。
《認証プロトコル起動》
《識別中……識別中……》
耳元で、澄んだ電子音のような響きがした。
「……え?」
瞬間、視界が白く弾けた。
◆
気づけばレンは、真っ白な“空間”に立っていた。
方向感覚も温度もない。ただ静寂だけがある。
《ようやく……接続が通った》
声が響いた。
性別すらわからない、しかしどこか懐かしい声。
「誰……だ?」
《君が“後継デバッガー”か確認していた。
ようやく十分な権限を得たな。》
「デバッガー……?」
まるでシステムの裏側を覗くような単語。
だが、レンにはなぜかその意味が直感で理解できた。
世界を“修正する者”。
《名乗りは不要。
私は“この世界を設計した者”―創造者だ》
……心臓が、ひとつ跳ねた。
(世界を……作った?)
《君がここに来た理由を、少しだけ話そう》
“声”は淡々と続ける。
《私は、はるか昔……地球から来た。
技術も魔術も極限まで突き詰めて、世界を創った。
だが、世界は成長し続け、次元の壁を越え……
私の干渉を拒むようになった。》
「だから……俺が召喚された?」
《ああ。
世界のバグ、歪み、脅威――
その修復者として、君を選んだ》
白い空間に文字列が浮かぶ。
《レン・— ※認証名隠匿中 —
適性:99.79%
創造者プロトコルへのアクセス権限――承継可能》
「……“承継”?」
《世界の修復は君に委ねる。
だが、今はまだ全てを開放できない。
黒紋と“竜王封印”が大きく関わっている。》
声が徐々に遠ざかり始める。
《断片を集めろ。
“エミグレ文書”は創造プロトコルを再起動する鍵だ。
やがて……私とも完全に接続できる》
「待ってくれ! 俺は――」
《仲間を信じろ、レン。
そして……》
声がほんの少しだけ柔らかくなった。
《君は一人ではない》
光が消えた。
◆
「レン!!」
ミオの声で意識が戻った。
気がつけば皆がレンを囲んでいる。
「急に倒れたのよ! 何か見たの!?」
「兄ちゃん、大丈夫か!?」
「顔色が悪いぞ、レン殿」
レンは息を整え、周囲の残留コードを再度視た。
その中に―さっきの白い空間で見た“プロトコル文字”の断片が混じっていた。
(夢じゃない……本当に接続したんだ)
セリスが不安そうに覗き込む。
「敵の仕業では……?」
「いや、違う」
レンは微笑んだ。
「……俺にしか来ない“システムメッセージ”みたいなものだよ」
ミオがむっとする。
「また秘密よね?」
「まだ言えない。でも―いずれ全部話す」
ミオは頬を膨らませつつも、その目には信頼が宿っていた。
セルヴァンが珍しく真顔で言う。
「今のレン殿から……底の見えぬ魔力の気配がする」
(レン自身も、何かが“上書き”されたのがわかる……)
視覚化した文字列が、以前よりも圧倒的に読みやすくなっていた。
そして新しい表示があった。
《開発者モード:Lv1 解放》
《解析上限:17% → 42% に上昇》
(……こんな、ゲームの裏設定みたいな……いや、これは現実だ)
黒紋の残留魔力が動いた。
まるでレンが権限を得たことに反応するように。
《追跡者タグ:加速》
《黒竜本拠地に戦力集中》
《標的:竜族姉弟・開発者継承者》
「……来るぞ。黒紋の本隊が」
「本隊!?」
セリスが青ざめ、カイが剣を握りしめた。
レンは皆を見回した。
「でも、大丈夫だ。
俺たちには――セルヴァンもいる」
セルヴァンは老いた顔のまま、口角だけを上げた。
「任せよ。10万でも100万でも、わしの“異空間”で十分相手できる」
ミオがほっと息をつき、セリスも微笑んだ。
(世界の修復……後継デバッガー……創造者……)
謎は増えたが、道は一つだ。
「行こう。
子供たちも救う。
黒紋も倒す。
そして――この世界の“エラー”も、全部修正する」
レンは歩き出した。
背に、仲間の足音が続いた。
霧立つ夜の奥、黒竜の洞窟が黒い影を落としていた。
今回は、ついに「創造者」とレンが初接触しました。
世界そのものの“設計思想”が見え始め、物語の根幹が動き出します。
次回もお楽しみに!




