第15話 黒紋の祠と“呪われし翁”セルヴァン
黒紋との初戦で辛うじて勝利したレンたち。
しかし逃げた敵の残留コードから“攫われた子供の居場所”が割り出される。
その道中で出会うのは―老人の姿をした、異様な魔力を持つ謎の男。
それでは本編をどうぞ。
黒紋との死闘から一夜。
森の外れ。
湿った冷気が漂う中、レンは地面に膝をつき、残留魔力を読み取っていた。
視覚化を最大まで引き上げると、地面の土の粒子ひとつひとつに“黒紋のコード”が絡みついているのが見える。
《黒紋残留構造:追跡→潜伏→輸送》
《対象:幼児/封印儀式の代替供物》
ミオがのぞき込む。
「レン……子供は、生きてる?」
「ああ。コードの流れがまだ“安定”してる。
アイツらは儀式の準備をしている最中だ。まだ間に合う」
セリスとカイは、胸を押さえながら息をついた。
「私たちのせいで……」
「違う。黒紋はもともと、この街を狙ってた。
お前たちのせいじゃない」
優しく言ったつもりだが、セリスはほんの少し赤くなって俯く。
それを見て、隣のミオが肘でレンの脇腹をつつく。
「……優しくしすぎよ。調子に乗らせる気?」
「乗ってないだろ……?」
「乗ってるわよ!!(たぶん!!)」
カイだけが笑っている。
レンは溜息をつき、視覚化の奥へと意識を深く沈めた。
すると―
コードの一番深い階層に、妙な“揺らぎ”があった。
(……ん? これは……呼び出し記号?)
そこには黒紋の拠点へのルートが自動で生成されていた。
《黒紋拠点:東方山脈麓“虚祠”》
「ルート割り出し完了。行くぞ」
レンが立ち上がると、セリスもカイも迷いなくついてくる。
ミオはレンの横に並び、小声で言った。
「レン……本当はもっと深い情報、視えてるんでしょ?」
「…………」
「……言わないってことは、そういうことね。
でも、いい。レンがそう決めてるなら、私は信じる」
(……気づいてたのか)
思わずミオを見つめると、逆に彼女が照れたように目を逸らす。
「べ、別にいいでしょ! アンタのフォローくらい……私がするのよ!」
また頬が少し赤い。
そんな空気のまま、レンたちは山道へ向かった。
◆山道――“異質な気配”
東方山脈は、常に雲がかかり、昼でも薄暗い。
そこを進んでいたときだった。
「……止まれ」
レンは即座に手を上げた。
視覚化すると、前方の岩陰に“巨大な何か”の気配がある。
ミオが杖に手をかける。
「敵……?」
「いや、魔力の性質が黒紋と違う。もっと……古い」
セリスもカイも息を呑む。
そのとき――
岩陰からヨロリと“老人”が姿を現した。
だが、明らかに普通ではない。
背は高く、髪は白い。
しかし老人にしては動きが静かすぎる。
“重さ”がなく、空気を押しのけるような存在感がある。
彼はレンたちを見ると、弱った声で言った。
「……そこの、少年。少し……よいか……」
ミオが前へ出ようとするが、レンは手で制した。
(この人……妙にコードが読みにくい)
視覚化を最大にすると――
彼の体内には“二重構造”があった。
《外層コード:老衰・寿命残量 3日》
《内層コード:封印/偽装/外見変換/魔力抑制》
そして最深部。
《本体:???(解析不能)》
(……解析不能!?)
ミオが小声で囁く。
「レン、どう?敵?」
「……わからん」
老人は、苦しそうに胸を押さえた。
「……頼む。わしの……呪いを、解いてはもらえぬか……?
このままでは……今日か明日にも、命が……」
その言葉に、セリスが駆け寄る。
「呪い、ですか? 私たちに治療は……」
「違う。これは……コード構造そのものが壊れてる」
レンは老人の近くに座り、手をかざす。
すると―
老人の胸の奥に、見覚えのある印がうごめいた。
《黒紋式・深妬呪術/対象の存在価値を“削り消す”もの》
(黒紋と……同じ術式!?)
老人が息を絞り出すように言った。
「……わしは、セルヴァン。
もとは……魔族の一族を束ねる、ひとり……じゃった……」
ミオ「魔族!?」
セリスとカイ「……魔族……」
老人は続けた。
「……弟に……嫉妬されてな。
兄であるわしの力を恐れ、呪いを……かけたのじゃ……
この姿も、寿命も……すべてが偽り……」
その瞬間、老人の体を構成するコードが崩れ始めた。
《老衰値:95% → 97% → 99%》
「このままでは死ぬ!」
レンは即座にコード改変を試みた。
(呪術の根は深い……だが、寿命値だけなら書き換えられる!)
《寿命値:3日 → 500年》
老人の目が驚きに見開かれる。
「なっ……!?」
さらに偽装コードの一部も修復し、安定化させた。
老人の体から黒い霧のような呪術が剥がれ落ちる。
ミオが呆然とする。
「レン……これ、もはや神業じゃない……?」
老人―セルヴァンは、しばらく黙っていたが、
やがて深く頭を下げた。
「……命を、救われた。
恩は……必ず返す。
わしは貴殿らに従おう」
カイが思わず叫ぶ。
「す、すげぇ仲間が増えた!!」
セリスも息を呑む。
「この魔力……本来の姿は、一体……」
セルヴァンは微笑んだ。
「本来の姿は……騒ぎになるでな。
今は、この老人姿のままがよかろう。
―さて。黒紋を追っているのであろう?」
レンはうなずいた。
セルヴァンは杖のような指先を伸ばし、
山奥を指した。
「黒紋の本拠“虚祠”は、すぐそこじゃ。
案内してやろう。
―あやつらには、わしにも因縁がある」
その瞬間、視覚化の底に新しい文字列が走った。
《セルヴァン:同行開始》
《協力値:SSS》
《危険:味方にすると世界レベルでバランスが崩れる》
(……いやいや、どんな味方だよ)
ミオがレンの袖を引いた。
「レン……やばい人拾ってない……?これ……」
「……たぶん、やばい。
でも……味方なら最強だ」
セルヴァンは静かに笑い、歩き出した。
「行こうか、若き“視る者”よ。
黒紋を討ち、子供を救うのじゃ」
レンたちは頷き――
黒紋の潜む山奥、“虚祠”へと進む。
虚祠――それは山脈の裂け目の奥深くに、ぽっかりと開いた暗黒の洞窟だった。
外気より10度は低い。
空気が淀み、わずかに鉄の匂いが漂っている。
ミオが震える。
「……ここ、完全に結界で覆われてる。入るだけで魔力を吸われるタイプ」
セリスも頷きながら背を丸める。
「黒紋族の祠は、外敵を疲弊させる構造だと聞いたことがあります……」
セルヴァンが老人らしい足取りで洞窟前に立つ。
しかしその背からは、老人らしからぬ圧力が滲み出た。
「うむ……黒紋の“餌場”か。ここに子供を囚えておるのじゃろう」
「餌場……?」
カイが青ざめる。
セルヴァンは淡々と言った。
「黒紋の儀式は、生贄の“恐怖の感情”を封印の触媒に使う。
子供は恐怖心の純度が高く、最適なのじゃ」
ミオが怒りのあまり杖を握りしめる。
「人の子供を……道具扱いとか、許せない……!」
レンは視覚化を発動させた。
すると洞窟奥に、微弱な光の粒――人間の“感情データ”が滞留しているのが見えた。
《対象:人間の子供/状況:恐怖+疲労/生命値:30%》
(間に合う……!)
レンは拳を握りしめた。
「急ぐぞ。儀式が始まる前に――助け出す」
セルヴァンは微笑みながら、洞窟内へ先に歩き出した。
「――このような闇など、儂がおる限り通用せぬわ」
その言葉と同時に、洞窟の闇が“ひるむ”ように後退した。
ミオが小声でレンにささやく。
「ねぇ……レン。あの人、本当に老人なの……?」
「……見た目はたぶん趣味だ。実力は……マジで規格外」
「私、ちょっと怖いんだけど……」
「俺もだよ……」
そんなやり取りの中、洞窟最奥にたどり着いた。
◆最奥――“虚祠の祭壇”
そこは大きな空洞になっており、中央には黒紋が渦巻く祭壇があった。
そして――
「……っ!!」
ミオが叫ぶ。
鎖で縛られた状態で、
攫われた子供が祠の中心に座らされていた。
泣き疲れて声も出ない。
顔は涙で濡れ、恐怖の波動が空気に滲んでいる。
その背後には、黒いローブをまとった男が一人。
白く鋭い角――黒紋の追跡者だ。
「貴様ら……よくぞここまで」
追跡者の声は低いが、どこか割れたように響いていた。
レンは視覚化でその男のコードを読む。
《黒紋・執行役/階級:中位》
《任務:生贄確保/視る者の排除/竜族姉弟の奪還》
(やっぱり……レンたちを全部狙い撃ちか)
追跡者は子供の肩に手を置き、こちらを見た。
「間もなく封印が開く。
生贄の恐怖は十分に蓄積された。
――邪魔をするなら、容赦はしない」
セリスが前へ出る。
「どうして……どうして子供を傷つけるの!
あなたたち黒紋族が追うのは……私たちじゃないの!?」
追跡者は冷笑する。
「竜族の女よ……勘違いするな。
我らの目的は“封印の完全解放”。
お前たちは、その“鍵の欠片”でしかない。
儀式には、より純度の高い触媒が必要なのだ」
ミオが吠える。
「じゃあなんで最初に子供を狙ったのよ!!」
「……効率の問題だ。
竜族は抵抗するが、子供はしない」
その瞬間、ミオの怒りが頂点に達した。
「アンタ……絶対に許さない!!!!」
杖を構えるミオ。
しかし追跡者が指を鳴らした瞬間――
周囲の壁から黒い影の獣が何十体も現れた。
セリスとカイが後退する。
「黒影獣……!」
追跡者が静かに呟く。
「さあ――“視る者”よ。お前の力、我が見極めてやろう」
レンは深く息を吸い込み、視覚化を最上位で起動させた。
情報が奔流となって脳に流れ込んでくる。
《影獣:構造コードは単純/干渉可能》
《追跡者:弱点→胸部の魔核》
《祭壇:封印開始まで残り5分》
(時間がない……!)
その時、セルヴァンが一歩前に出た。
「――よいか、若造ども」
レンたちは振り向く。
セルヴァンは深く息を吸い込み――
“老いた皮膚の下で、別の存在が目を覚ます”ような圧を放った。
「黒紋風情が……
わしの前で、好き勝手できると思うたか?」
追跡者が一歩後退する。
「……その気配……“お前”は……!」
セルヴァンは手を軽く払った。
すると影獣たちが一斉に地に伏せ、震え出した。
ミオが声を失う。
「な、なに……今の……」
セルヴァンはいつもの老人の表情のまま、静かに言った。
「――ただの威圧じゃよ。
本気ではない」
(これが……本気じゃない……!?)
追跡者が焦りと怒りの入り混じった声を上げる。
「貴様……死んだはず……いや、呪いで……!」
「呪いは解けた。
わしを殺せぬなら――お前に勝ち目などない」
セルヴァンが掌を振ると、影獣たちは霧のように消え去った。
追跡者は後退し、最奥の闇へ飛び込む。
「……覚えていろ!
封印は必ず……完成する……!」
そして消えた。
ミオが駆け寄る。
「レン! 子供は!?」
レンは急いで祭壇に駆け寄り、鎖のコードを読み取った。
《解除可能》
一瞬で解錠。
子供を抱き上げると、弱々しいながらも息をしていた。
(助かった……!)
セリスとカイが安堵の表情をする。
セルヴァンは静かに言う。
「ここは危険じゃ。急いで外へ出るぞ」
レンたちは洞窟を駆け戻り、無事脱出した。
子供は震えながらも、ミオの腕の中で小さく囁いた。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
ミオは涙ぐみながら、子供を強く抱きしめた。
その隣で、レンはセルヴァンを見る。
老人は穏やかな笑みを浮かべていた。
「さて――若き者らよ。
儂も、しばらく共に行こう。
まだ……借りを返しきれておらぬでな」
こうして――
最強の“呪われし翁”セルヴァンが、
レンたちの仲間に加わった。
物語は、さらに激しく、深く進んでいく。
黒紋との戦いは一段落、しかし逃げた追跡者はまだ何かを企んでいます。
そしてついに登場した新キャラ“セルヴァン”。
老人姿だけど中身は世界レベルの怪物、しかし仲間には最強の盾であり矛。
この先の展開にも大きく関わってきます。
次話もよろしくです!




