第12話 暴走竜の咆哮(ドラゴン・フレア)初めての共闘
竜族の姉弟――セリスとカイ。
彼らの正体は“人間に擬態した竜”であり、その力は封印によって長らく抑え込まれていた。
だがカイの魔力暴走が始まった今、森は危機に瀕している。
レン、ミオ、そして竜族姉弟。
四人で挑む初めての共闘が、ここから始まる。
森の空気が……震えていた。
「レン、これ……ただ事じゃないわよ!」
ミオが顔をしかめる。
風の精霊がざわつき、枝の一本一本が“逃げろ”と言わんばかりに騒いでいた。
問題の中心にいるのは――少年、カイ・ヴァルディナ。
息は荒く、額には汗。
背中からは光の筋が走り、角が倍近く伸びている。
擬態が破れ始めている証拠だ。
「カイ!? だめ、落ち着いて!」
姉のセリスが抱きしめようとするが、魔力の噴出がそれを拒む。
「……姉ちゃん……俺、なんで……身体が熱くて……」
声は震え、瞳は金色に光り始めている。
――竜化の前兆。
レンは視覚化を展開する。
カイの身体に流れる情報がコードの形で立ち上がる。
(竜化アルゴリズム……破損してる。暴走ループが複数起動して――これは危険だ)
破損したコードは、触れただけで爆ぜるような不安定さ。
レンはため息をひとつつき、手を伸ばす。
「レン、近寄っちゃだめ! 今のカイは――」
「ミオ、俺がやらないと誰も止められない」
ミオは噛みしめるように唇を結んだ。
セリスが震える声で言う。
「どうか……弟を助けてください。あなたなら……」
その瞳は切実な願いと深い信頼で満たされていた。
ミオの眉がぴくっと跳ねる。
(……なんでそんな“特別な目”で見るのよ)
レンには気づく余裕がない。
◆ 森が唸る
突然、森の奥から獰猛な咆哮が響いた。
複数。
それも、同時に。
「やば……魔獣が集まってきてる!? しかも、数が多い!」
ミオが目を見開いた。
通常なら縄張り意識があるため集まることはない。
だが今は違う。
カイの暴走魔力に引き寄せられ、狂化しているのだ。
木々の間から、黒毛の狼型魔獣が群れで走り出す。
その後ろには、二足歩行の熊まで混じっている。
「セリス、ミオ! 一旦、魔獣の足止めだ!」
「わかったわ!」
ミオは杖を構え、風と光の複合魔法を展開する。
「《ライト・ウィンドバインド》!!」
光の鎖と旋風が魔獣たちを飲み込み、大群の動きを鈍らせた。
同時にセリスが人型のまま、片腕だけ竜化させる。
爪が伸び、蒼い竜鱗が腕に走る。
「はぁッ!!」
振るった爪がガルベアの腕を弾き飛ばす。
圧倒的な膂力だ。
レンは小さく呟く。
(竜族……人型でもここまで強いのか)
そんな感心をしている暇もなく、魔獣が四方から迫る。
ミオがレンに叫ぶ。
「レン! 本当にカイを一人で止められるの!?」
「止めるんだよ。……俺がやらなきゃいけない」
「あんた……またそうやって!」
ミオの目に焦りと怒りと――僅かな嫉妬が混ざる。
(セリスが近づきすぎ……レンを見る目が違うんだもん)
だが、戦いは続く。
◆ 竜化暴走――始動
カイの身体が光に包まれた。
「ぁ、ああああああ!!」
悲鳴とともに、背中から“半透明の竜翼”が生え始める。
尾の骨格のようなものも浮かび上がる。
完全竜化の一歩手前だ。
セリスが蒼白になる。
「だめ……これ以上は戻れなくなる!」
レンは視覚化したコードに手を伸ばし、直接干渉を試みる。
情報の奔流が脳を揺らす。
(クッ……くるな……遮断、制御……必要な情報だけ抽出……!)
第1覚醒の副作用はまだあるが、レンはコントロールを習得し始めていた。
ノイズを切り離し、目的のコードだけを取り出す。
「見つけた……破損の根源。“竜核の暴走ループ”だ」
魔獣が襲いかかるが、ミオの結界が阻む。
「今は集中して! 絶対通さないから!」
セリスも竜炎を吐き、次々と魔獣を弾き飛ばす。
レンはカイの胸元に触れた。
「……俺に任せろ。カイ」
震える身体を押さえ、コード修正を開始する。
◆ レンの新アルゴリズム
「《竜核安定化アルゴリズム》……構築……!」
魔力とコードが混じり合う。
レンの脳裏に膨大な情報が奔流し、頭が割れそうになる。
それでも――
(救える力があるなら、使わない理由はない)
セリスが祈るようにレンの背中を見る。
「……あなたは、本当に……」
ミオが横目でにらむ。
(またその目……! もう!)
◆ 暴走停止
バチンッ!
空気が弾け、光が消える。
カイの翼が収まり、角がゆっくり元の長さに戻る。
少年の身体が力なく倒れ――レンが抱きとめた。
「……はぁ……なんとか、間に合った」
ミオが駆け寄る。
「よかった……ほんと、よかった……!」
セリスが涙を浮かべながら、カイの頬に触れた。
「カイ……!」
少年はゆっくり目を開けた。
「姉ちゃん……? 俺……また迷惑かけた……?」
「そんなことないわ!」
セリスは弟を抱きしめ、そのあとレンをまっすぐ見つめた。
「あなたは……私たち竜族の“救い”です。本当にありがとう、レン」
その表情は美しく、真剣そのもの。
尊敬と感謝で満ちたまっすぐな眼差し。
ミオがレンの袖をくいっと引く。
「……ねぇレン。“ああいう顔”、私にもしなさいよ」
「え、なんで」
「なんでじゃないわよ! ――バカ!」
森にミオの叫び声が響き、レンは苦笑した。
◆ 帰路へ
魔獣の死骸を避けながら、四人は森の出口へ向かう。
「レン兄ちゃん! 今度、俺も手伝うから!」
元気を取り戻したカイが胸を張る。
セリスは少し不安げにレンを見る。
「……私たち、追われています。町までご一緒してもよろしいでしょうか」
「構わない。擬態のコードを強化して、正体が割れにくいようにする」
セリスは胸に手を当て、深く頭を下げた。
「あなたに出会えたことは、運命だったのかもしれません……」
ミオ:「……(ぐぬぬ)」
レン:「ミオ、なんか言ったか?」
ミオ:「別にッ!!」
――四人の旅は、確実に新しい段階に進もうとしていた。
今回は 竜族姉弟の本格登場&初めての共闘戦 の回でした。
人間・エルフ・竜族が一つのパーティとして動き始めるターニングポイントです。
次話も平日昼に更新予定ですので、よろしくお願いします。




