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第4章 精霊術とは

「ついてないな・・・」

雨と風はあっという間に強くなり、外はすぐに歩くのも困難なほどになっていた。強い大粒の雨と容赦を知らない風が、外の木々と小麦畑を轟音とともに揺らしていく。ソフィア、ヨハネス、マティアスは村長の家に避難していた。とはいってもマティアスは事務作業に、村長は大雨と強風の対応に追われており、部屋の中にはヨハネスとソフィアしかいない。

「この時期特有の大雨だ。西の空が怪しいとは思ってたけど、こりゃ下手したら数日続くよ」

ヨハネスが弱ったように言った。小麦は雨風に強いブリヤ種が主なので畑は心配ない。しかしー。

「この天気じゃ風車も回せないし、回復したとしてもまたあちこちガタが・・・」

本来風車の味方であるはずの風も、度を超えれば脅威となる。強風で風車に不具合が出るのはよくあることだった。

「この天気じゃ実験もできないし、天気が回復したとしても風車の調整で手一杯だろうから、実験は5日後くらいかな・・・」

「5日後・・・」

思わずソフィアはため息をもらした。

「私そんなに待ってなきゃいけないの? 言いにくいけど、その、こんな何もない村で?」

「失礼なやつだな。うちの風車は観光名所としても有名だぞ」

ヨハネスが口をはさむがソフィアには効果がない。

「風車なんて1日で飽きるよ・・・。カナーンの港に戻ろうかな」

「この雨風の中1日歩くって言うなら、まぁ止めないよ」

ヨハネスの言葉にソフィアは完全に黙り込んだ。雨と風が屋根を叩く音だけが部屋の中に響きわたる。

気まずい・・・。

沈黙に耐えかねたヨハネスは、とりあえず話を振ることにした。

「なぁ、精霊を使うって、いったいどんな感じなんだ?」

「気になる?!」

何気ない質問にソフィアが思いのほか食いつてきたので、ヨハネスは思わず後ずさりした。

「そうだね・・・。どこから説明したらいいか、精霊術のしくみはわかってるよね? 自分の周りの精霊を使役して、火や水や風を生み出す」

ヨハネスは黙ってうなづいた。

「操れる精霊はだいたい体の周囲1メートル。体に近いほうが操りやすいから、精霊術を「放つ」ときはだいたいみんな手のひらからやる」

そう言いながらソフィアは、自分の右の手に風の精霊を集め始めた。ソフィアの手の中で精霊が渦を巻き始める。

「で、手のひらに精霊をギューって集めて、バーンって感じ」

ソフィアの手から風の精霊が放たれ、ヨハネスの目の前をかすめていった。

「飛距離があるから精霊使いは遠くの精霊も操れるって勘違いする人もいるけど、あくまで「基点」は手の中にしかない。わかった?」

「その「ギュー」とか「バーン」を詳しく知りたいです。先生」

「それは・・・感覚よ」

ソフィアの言葉にヨハネスはため息をつきそうになり・・・あわてて飲み込んだ。

やっぱり才能なんだな、精霊術は。

「魔道具を使えば、「基点」を魔道具のあるとこに持ってくる、なんてこともできるけどね」

「魔道具なんてそうそうあるもんじゃないだろう」

魔法使いによって作られる魔道具は、魔法使いはもとより精霊使いの力を増幅することができ、魔法と精霊術全盛期の1000年前にはいたるところで作られていた。しかし今や製法は誰にもわからず、金持ちの精霊使いしか持てない骨董品となっている。

「私もほしいんだよね、魔道具」

「そんなに便利なものか?」

「全然違うよ!」

ソフィアの迫力に押され、ヨハネスはまた後ずさりをした。

「手のひらを基点にしたままじゃ、あくまで手から風を放ったり火を出したり、火の玉を飛ばしたりしかできない。でも基点を好きなところに持ってこれるなら、好きなところで火や風を起こせる! まぁ好きなところっと言っても「魔道具を配置できるところ」だけどね」

それがなんの役に立つのかヨハネスにはよくわからなかったが、ソフィアの輝く目を見るとなにも言えなかった。

「他にも、精霊術を使えなくしたり、あとは単純に精霊術の威力を増やす、なんて魔道具もあるよ。師匠の持ってたのはとくにすごかった」

「師匠って、後見人はマティアス先生だよな? マティアス先生のことか?」

ソフィアは首を横に振った。一瞬言葉に詰まったように黙り込むが、すぐに次の言葉を吐き出す。しかしその言葉にはなにか不穏なものが感じられた。

「アリシア師匠って人が、私の精霊術の最初の先生。マティアスさんに引き取られたのは・・・師匠が行方不明になってから」

ヨハネスはすぐには言葉を返すことができなかった。

「それは・・ごめん」

「今も私は師匠を探してるんだ。そういうわけで、あんたもきれいな女の人見つけたら教えてね」

きれいな人って、情報が少なすぎやしないか。

しかしヨハネスにはその言葉を発することはさすがにできなかった。再び雨と風の音だけが場を支配する。


雨風が過ぎ去ってしばらくは、ヨハネスは予想通り風車の修理に追われていた。ヴィレド村には村の規模に見合わない量の風車がある。それはヴィレドが製粉作業をほかの村からも請け負っているからだった。自分の風車の修理が終わっても、今度はほかの村人の風車を修理しなければならない。ヨハネスの仕事はなかなか尽きなかった。

「やっと終わった・・・」

結局最低限の修理、調整作業が終わったのは、ソフィアが村に来てから3日たってからだった。しかしヨハネスは疲れきっており、結局実験は次の日に持ち越されることになった。


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