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第3章 なんちゃって風車屋さん

ヨハネスが手紙を出してから10日後、例の小屋にマティアスとヨハネスの姿があった。まずマティアスがヴィレド村に行き、その後マティアスが手配した風の精霊使いが来ることになっていたのだ。今日はその風の精霊使いが来る日である。

マティアスは精霊協会の高官であることを示す青い上質な法衣を身にまとっていた。一方ヨハネスはというと作業用の黒い薄汚れたつなぎでマティアスとは対照的だ。もっともこの粗末な小屋にはヨハネスのほうがよっぽど似合っていた。

「どんな人なんですか、その精霊使いって」

「君と同い年の女の子だよ。私が後見人になっているんだ。けっこうかわいい子だから、君も気にいるんじゃないかな」

マティアスはそう言ってイスにかけた。手に持っていた革製のカバンをひざに置き、細い明り取りの窓から外を見渡す。

同い年の精霊使いって、めずらしいな。

産業革命によって精霊使いの需要が激減した今日、たとえ精霊術の才能があったとしても精霊使いを目指す人自体が減ってきた。若い精霊使いというのはまれな存在になりつつある。

「もう少しで来るはずだよ。ほら、見えた」

ヨハネスはマティアスに促されるままに窓から外を見た。砂丘のようにゆるやかに起伏している小麦畑と、カバンを持ち農道を歩いてくる少女がヨハネスの視界に入る。どこまでも続いているように見える農道だが見た目より距離はなく、すぐに少女の顔がみてとれるようになった。

茶髪に白い肌と、赤い瞳。帝国東部の生まれか? 先生の言ったとおりかわいい女の子だ。ただー。

ヨハネスは何か引っかかるものを感じていた。緑色のロングスカートを履き白いブラウスを身にまとった少女は、一見するとどこにでもいるような大人しそうな人に見える。

ただ、どこかで見たことあるようなー。

そして、ヨハネスは頭を抱えて座り込んだ。

「どうした、ヨハネス?」

「・・・」

首も動かさずに目線だけマティアスのほうに動かすと、ヨハネスはため息をついた。

「・・・先生、別の人にできませんか?」

ヨハネスにとってマティアスは自分に精霊術と機械の基礎を教えてくれた先生であり、ヨハネスはずっとマティアスをそう呼んでいた。そしてそんな「先生」の前でため息をついてしまうほど、ヨハネスにとって問題は深刻だった、

「まだ話してすらいないじゃないか」

「いやそうですけど、よりによってこいつとは・・・」

そうこうしているうちに、小屋に少女が到着した。壊れかけたドアノッカーの軽い音が、小屋の中に響く。

「今開けますよー」

マティアスがドアを開け少女を中に招き入れた。

「こんにちは。ソフィアです」

「大砲女」ソフィアの姿がそこにはあった。

「待ってたよ」

「はい、えーと、それでこちらの方は・・・」

小屋の中はそこまで広くない。入ってすぐソフィアは、頭を抱えてうずくまる小柄な青年に気づいた。

「今回の依頼主だよ」

「・・・お久しぶりですソフィアさん。その節は大変お世話になりました」

皮肉たっぷりにヨハネスが言った。しかしソフィアには全く身に覚えがない。

「・・・どこかで会いましたっけ」

「忘れたのかよ・・・。俺が修理した風車、試運転で羽根吹っ飛ばしやがったろ」

この言葉でソフィアはやっと思い出すことができた。

「ああ、あのときのなんちゃって風車屋さん!」

「誰がなんちゃってだ! あんな風当てられたらどんな風車だってぶっ壊れるわ!」

「たいていの強風には負けない、なんてほざいてたくせに!」

「ほとんど竜巻みたいなものだったぞ!」

「いやよかった、仲良くやれそうですね」

マティアスは2人の言い合いを気にも止めず、ほほ笑みながら立っていた。

「先生、今からでも別の人に・・・」

「なにが不満なのかね。竜巻並みの風を起こせる精霊使いなら、十分すぎるじゃないか」

「電信機を破壊されたらどうするんですか!」

「そのときはそのときさ」

先生いつもは丁寧な仕事してくれるのに・・・。まさかたぶらかされたか?

とは口がさけても言えない。先生であり強力な支援者であるマティアスに、ヨハネスは頭が上がらなかった。

「・・・絶対備品壊すなよ」

ヨハネスは低い声でそう言い、現実を受け入れることにした。さっそく実験の準備を始める。しかしそのとたん、雨がポツポツと降り始めた。


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