第9話 テストの果てと夏の始まり
2010年7月、期末テスト最終日が終わり、数日後の結果返却日。
教室の空気が少し緩んでる。
夏休み目前で、みんながそわそわしてる。
窓から差し込む陽射しが強くて、机の上が熱っぽい。
担任が「はい、テスト返却するよ」とプリントを手に持つ。
名前呼ばれて受け取りに行くと、11科目の合計が785点。
そこそこ頑張った結果だ。
得意の数学は90点台、英語も彼女の教え方が効いて80点。理科と社会は記憶頼みで70点台、国語は意外と70点近く取れてた。
「九条、悪くないな」と隣の席のやつが覗き込んでくる。
「まあまあだよ」と返すと、「夏休みはなんか予定あんの?」と聞かれる。
「家でゴロゴロかな」と軽く流すけど、内心は彩愛との時間が楽しみだ。
教室の後ろで、美緒が友達とテスト見せ合ってる。
「国語、ミスったー」と笑いながら言う声が聞こえる。
男子が「美緒なら70点でも可愛いからいいよ」とからかうと、「何それ!」と笑い返す。
相変わらずの人気者だ。
俺はプリントをカバンにしまって、そっと席を立つ。
放課後、廊下で彩愛と会う。
水色の髪が揺れて、白いシャツが夏の風に軽く揺れる。
「九条くん、テストどうだった?」と聞いてくる。
「785点だったよ。彩愛のおかげだね」
「すごいじゃん」
「彩愛は?」
「うーん、1065点だったよ」
「…すご」
「九条くんと一緒に勉強できたからだよ」と笑顔。
「夏休み、明日からだね」と言うと、「うん、ねえ、九条くん」と少し照れながら、「明日、家に遊びに来ない?」と誘ってくる。
「いいの?行きたい。あっ、じゃあおすすめの本持っていくよ」
「うん。じゃあ私も用意しておくね」
「じゃあ、楽しみにしてる」
「うん、10時くらいにね」
◇
次の日、夏休み初日。
朝9時半、晴れた空の下で準備する。
おすすめの本って言われたけど、特に思い浮かばなくて、小説を適当にカバンに入れる。
Tシャツと短パンで軽装にして、玄関で靴履いて家を出る。
振り返り、鍵をかけていると、背後に誰かが立っている気配がする。
恐る恐る振り返ると、美緒が立っていた。
カジュアルなワンピースで、手にアイス持ってる。
「悠翔、おはよう」
「おはよう。どうしたの?」
「いや、アイス買いに行った帰りでさ、出かけるとこ?」とカバン見て聞いてくる。
「うん、友達の家に」と答えると、「友達って…またあの星乃さん?」と少し声が低くなる。
「…うん、そうだよ」と正直に返すと、美緒がアイスを手に持ったまま黙る。
「そっか、楽しんでね」と言う。
目が少し寂しそうで気まずくなり「美緒は夏休み何するの?」と聞くと、「友達と遊んだりかな。…もしかしたら彼氏もできるかもね」なんてことを言ってくる。
「…そっか。出来るといいね。じゃあ、また」と言うと、「待って」と手を握られる。
「…何?」
「…話したいことがあるの。明日でもいいから時間ある?」
「…まぁ…少しなら」
そんなやりとりを終えてから、彩愛の家に向かう。
駅からバスで10分くらいの住宅街。
夏の暑さが強くて、蝉の声が響いてる。
彩愛の家は白い一軒家で、庭に小さな花壇がある。
インターホン押すと、「はーい」と彩愛の声。
ドアが開いて、「九条くん、来てくれた!」と笑顔で迎えてくれる。
水色のワンピースが涼しげで、嬉しそうな顔をしながら出てきた。
「お邪魔します」と入ると、リビングに通される。
冷房が効いてて、テーブルに本が何冊か並んでる。
「これ、おすすめの本だよ」と彩愛が指す。
歴史小説とファンタジーが混ざってる。
「俺も小説とか、一応、漫画持ってきた」とカバンから出すと、「サッカー好きだもんね。読んでみる」と笑う。
◇
リビングで本読みながら話す。
「この歴史小説、切ないけど面白いから読んでみて」と彩愛が言う。
「へえ、読んでみるよ」と手に取ると、「うん、感想教えてね」と笑う。
すると、俺のサッカー漫画を彩愛がパラパラめくって、「漫画ってあんまり読んだことないけど、絵が動いてるみたいで面白いね」と言う。
「試合シーンが熱いんだよ」と返すと、「うん、読んだらサッカー観たくなった」と笑う。
夏の陽射しがカーテン越しに柔らかく入ってきて、穏やかな時間が流れる。
お昼近く、彩愛が「何か作ろうか」と提案。
「いいの?」と聞くと、「うん、暑いから冷たいのどう?」とキッチンへ。
俺も手伝うつもりでついていくと、冷蔵庫からトマトとキュウリ出して、「冷製パスタ作るよ」と言う。
「彩愛、料理上手いもんな」と笑うと、「簡単なやつだから」とトマト切る。
俺は皿洗ったり、水沸かしたりしてサポート。
「九条くん、手際いいね」と褒められると、「最近、母さんに鍛えられてるから」と返す。
茹でたパスタを冷水で締めて、彩愛がオリーブオイルと塩で味付け。
テーブルに並べると、「いただきます」と一緒に食べる。
「美味いよ、これ」と言うと、「良かった」と彩愛が笑う。
夏らしいさっぱりした味が心地いい。
午後、彩愛の部屋に移動。
10畳くらいで、結構広く、本棚と小さな机、白いカーテンが揺れてる。
壁に絵のスケッチが貼ってあって、「これ、彩愛が描いたの?」と聞くと、「うん、趣味でね。まだまだ下手だけど」と照れる。
「上手いよ。鳥がリアルだ」と言うと、「ありがとう」と笑う。
床に座って本読んだり、絵の話したりしてるうちに、彩愛が「夏休み、どこか行きたいね」と言う。
「海とカフェ巡り、約束したもんな」と返すと、「うん、海って泳ぐの?」と聞いてくる。
「泳ぐより見る派かな。彩愛は?」と聞くと、「私も見る方が好き。でも、水着着るの恥ずかしいし」と笑う。
「俺は見たいけどな」というと、「じゃあ、今見る?」と言われた。
そして、そそくさと水着らしきものを持って行って、部屋を出ていく。
「…覗いちゃだめだよ?」
「う、うん。覗かないよ…」
そうして、少ししてからドアがノックされる。
「…あんまりジロジロみちゃだめだよ」
「う、うん」
「一旦、後ろ向いててね」
「うん」
後ろを向いていると、扉が開く音がして、彩愛が入ってくる。
「…いいよ?」と言われて振り返ると、そこにはビキニを着て顔を真っ赤にした彩愛が立っていた。
「…//」
可愛くてどこを見て相変わらず、目を背けると、「や、やっぱ無理!」と、そのまま部屋を出て行ってしまった。
多分、あの映像は一生忘れないだろう。
◇
その夜、家に帰ると、母さんが「彼女の家はどうだった?」と聞いてくる。
「彼女じゃないから」と言うと、「ふーん、今はでしょ?」とニヤニヤとする。
「うるさいな」と返すと、美咲が「美緒姉より好き?」と絡んでくる。
「…美緒はただの幼馴染だし」と言った時に朝の表情が頭をよぎる。
あの言葉の裏には何があったんだろう。
次の日、彩愛からメール。
『昨日、楽しかったね。また遊ぼう』とシンプルな文。
『うん、海楽しみにしてるよ』と返すと、『私もだよ』と返信。
夏休み始まったばかり。
彩愛との時間が増えるのが嬉しいけど、美緒の言葉が頭に残る。